大河内彩子研究室(医学部保健学科)

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Lab’s data【大河内研究室データ】

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【大学院生命科学研究部(保健学系)】

卒論テーマ
・認知機能低下のある高齢者が社会参加することで得られるプラスの影響-精神的・認知的・社会的な観点から-
・地域住民におけるソーシャルキャピタルと身体活動との関連
・退院後在宅で生活する患者に対する病棟看護師による退院支援の課題と解決策
など
メンバー
教授1人、助教1人、保健師教育課程選択学部学生(3年生20人、4年生20人)

見逃される発達障害をスクリーニング
適切な教育で社会性を育む支援

新しいスクリーニング手法を現場とともに開発

 大河内彩子教授の研究の一つは、行動面や社会性に課題のある子どもと保護者への支援です。「発達障害にも程度の差があり、発達障害があるのに乳幼児健診で何も指摘されない場合も多いんです。お母さんが何か感じていても周囲に相談しづらく、一人で悩みを抱えてしまう。また、保育園や幼稚園では大丈夫でも、小学校に上がると、周りについていけなかったり、周囲から浮いてしまうことでお子さんが自信を失い、メンタルヘルス面に二次障害が出る。それが不登校につながってしまいます」。

 健診で見逃される発達障害を抽出し、適切な支援に結びつけるために目指しているのが、新しいスクリーニング手法の確立。小さな可能性も見逃さないよう、開発にあたっては、科学的な定量評価のほか、市町村の保健師や保育士、幼児の歯科治療における対応スキルを持つ小児
歯科医などにヒアリングし、「現場の経験値」も大切にしています。「健診にあたる保健師が、検査では大丈夫だったけど何かが気になるとい
う時に、多職種で話し合える事後カンファレンスなどの仕組みもあるといいと考えています」。

「地域づくりの影のプロデューサー」保健師輩出も使命

 発達障害と診断された子どもやその保護者を対象にした教育支援も研究しています。「発達障害のお子さんは、優れた能力も持っています。その能力を伸ばし社会性を育む支援が不可欠です」。そこで取り組んでいるのが、トリプルP(※)という教育支援プログラム。「ほめることで自信
のある子どもを育て、社会で生きていけるようにすることがテーマ。ただ『すごいね』とほめるのではなく、何をどうできたからえらいのか、具体的
にほめることがよい影響を与えます」。子育て中のすべての人が対象ですが、発達障害の子どもにも効果がみられるプログラムとのこと。子どもの写真が添えられたカードを見て、「これは、お母さんからのお礼状です。悩んでいたお母さんが、支援を通して『もう一人、子どもを産みたいと思うようになりました』と言ってくれる。そんな時、喜びを感じます」。

 乳幼児健診や子育て支援に、現場で大きくかかわる存在が「保健師」。大河内研究室のもう一つの使命が、優秀な保健師の輩出です。「保健師は公務員試験に合格しなければならず、難関です。平成30年度は11名が合格。全国的に見てもすごい数字です。それだけ熊大生が優秀だということです」。新生児から高齢者までの地域住民とかかわる保健師を、「地域を健康にしてすべての人を幸せにする、地域づくりの影のプロデューサー」だと大河内教授。自身も保健師で、その苦労も喜びも知る大河内教授のもとで学んだ学生たちが、これからの地域づくりの一翼を担います。

※トリプルP
Positive Parenting Programの略。オーストラリアで開発された、保護者向けの子育て支援プログラム。世界25カ国で実施されており、日本では「前向き子育てプログラム」と呼ばれている。

Interview

     

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医学部保健学科看護学専攻 地域看護学分野 4年
岩本 美咲さん(左)

 地域看護学分野には、看護師とともに保健師の資格を取る学生が在籍しています。私はまず看護師として就職することが決まっています。それは、入院している方や病気がある方の気持ちを理解できるようキャリアを積んでから、地域の人と接する保健師になりたいと思うから。保健師は、地域に暮らす人すべてを対象とする仕事で地域全体に寄与できるので、より人の役に立てると考えています。大河内教授の研究では、発達障害も今はきちんと認識されており、子どもさんも両親も自分を責めずに済む、それがより暮らしやすい社会をつくると学びました。

医学部保健学科看護学専攻 地域看護学分野 4 年
石本 怜奈さん(右)

 私は4月から保健師として働くことが決まっています。看護師として病気を治す立場になる勉強もしましたが、人の健康のためにほかにできることがあるかも、と考えたことがきっかけ。特に、2016年の熊本地震で、感染症やエコノミークラス症候群予防のために活動する保健師さんの姿が印象的でした。私がこれまで健康に過ごせているのも、予防の観点から活動する保健師さんがいたからと知った時に保健師についての授業があったので、この職業に引き込まれました。看護学分野は実習も多く大変で
したが、悩んでも、知識と技術がつながった時に道が開ける楽しさを感じました。

密着!大河内研究室

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松本千晴助教による保健師教育についての発表(山口県宇部市で行われた第7回日本公衆衛生漢語学会学術集会)

KT72_p11-12_4.jpg 保健師就職試験対策や保健師実習について、先輩に質問できる交流会を行っています

(熊大通信72号 (2019 Spring) 4月発行)

お問い合わせ

総務課 広報戦略室

096-342-3269