合言葉は、“あなたにも救える命がある”

KUMADAI NOW Webマガジン 熊大なう。

インタビュー担当の健児くんです!よろしくお願いします。

医学部附属病院心不全先端医療寄附講座 小島淳特任准教授 くまもとハートの会

市民の力で熊本地域の救命率をアップ!

マラソン時、ランナー自身が気付いていない基礎疾患が重大な病態を招くことがあると語る小島先生。 健児くん(以下:◆):先生は循環器内科で心疾患の患者さんの診察を行いながら、どのような取り組みをなさっているのですか?
小島:臨床研究になりますが、狭心症や心筋梗塞、心肺停止などをテーマに取り組んでいます。狭心症や心筋梗塞は、動脈硬化などが原因でおこる虚血性心疾患で、高血圧や糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症)や喫煙といったものが影響している身近な病気です。特に心筋梗塞の場合は、発作を起こしてからいかに速やかに病院に搬送できるか、それが救命に大きく影響します。しかし不幸にも心停止となった場合には、心臓マッサージ(胸骨圧迫)が1分遅れるごとに救命率が10%ずつ低下していくことが分かっていますので、わかりやすく言えば、10分間全く救命処置を行わなければまず助からないと考えていいと思います。目の前で意識をなくして倒れる人を見た場合には、その周囲にいる人たちの協力と迅速な判断が命を救う重要なカギだといえるでしょう。
◆:僕たちでも倒れた人の命を助けることができるのですか?
小島:もちろん!倒れた人がいたら、まず119番通報、次に意識の確認をしましよう。声を掛けて反応もなく呼吸もしていないようであれば、心停止していると考えて迷わず心臓マッサージを行ってください。近くに人がいたら、急いでAEDを持って来るように指示をしてください。一刻も早く救命処置を開始する必要があります。
◆:AEDは僕たちが使用して大丈夫なのですか?
小島:AEDは誰でも使える医療機器なんですよ。必要なときは怖がらずに電源ボタンを押してください。使い方のメッセージが流れますので、それに従えばOKです。しかし多くの方は、自ら医療行為を行うことに躊躇(ちゅうちょ)されると思います。もしも健児くんの家族が意識をなくして目の前で倒れたら、健児くんは救命処置ができますか?とりあえず病院に運べば助かると思っているかもしれませんが、いったん心停止となった人を助けるのは容易なことではありません。救命できた人を振り返ってみると、意識をなくして倒れた瞬間から、周囲の人々が(1)“119番通報”(2)“心臓マッサージやAEDの使用といった一次救命処置”(3)“救急隊への引き継ぎ”といった「救命の連鎖」を流れるように行えた場合が多いです。だから一般市民の方々は心肺蘇生法の重要性を認識して、「救命の連鎖」がスムーズに行えるように日頃から心臓マッサージやAEDの使用法などを理解し練習しておく必要がありますね。私は個人的には小学校高学年くらいからこの心肺蘇生法の実習に取り組んでもいいのではないかと思っています。実際に小学生が自分のお父さんを助けた事例もあがっています。この心肺蘇生法が広く普及すれば、市民の力で地域の救命率をアップすることは十分に可能です。
◆:先生は「くまもとハートの会」で、心肺蘇生法の普及に取り組んでおられますね。
小島:はい。熊本県の救命率を高めるために、応急処置や心肺蘇生法を多くの方に知ってもらおうとがんばっています。一般の講習会のほか、イベント会場などにも出向いて、人形を使った心臓マッサージやAEDを体験してもらうことが大切だと考えて活動しているんですよ。

熊本城マラソンを救護でサポート

熊本大学医学部附属病院の救護チーム。 ◆:「熊本城マラソン」では、昨年から救護活動で大会を支えておられますね。
小島:マラソン中に突然の心停止が起きる可能性があるんです。アメリカのデータによると、最近の市民マラソンでは、10万人に2人の割合で心停止が発生しており、「東京マラソン」でも2011年までの5年間で10万人当たり2.7人に心停止が起きています。今年の「東京マラソン」でも、参加ランナーの1人が20数キロ地点で心停止になり、周りにいたランナーや応援の人たちによって救命できた事例がありましたね。「熊本城マラソン」でもその発生が懸念されました。「熊本城マラソン」では毎年数百人の医療関係者が救護にあたるわけですが、中でもAEDを担いで動き回るモバイルAED隊だけでフルマラソン参加ランナー全員を42.195kmにわたって完全に監視することは不可能です。「熊本城マラソン」では毎年3000~4000人のボランティアの方が42.195kmにわたって配置されますので、この方々に“いざという時に救命処置をやっていただくしかない”と思ったのです。それで私は「第1回熊本城マラソン」が行われる直前に開催されたボランティア研修会および陸上競技審判員研修会に赴いて、皆さんにお願いして回りました。幸いなことにこれまで行われた2大会では、当日に心停止など重篤な事例は発生しませんでした。しかし、「第1回熊本城マラソン」に参加予定であった男性2人が、大会直前のマラソン練習中に突然心停止となり病院に搬送されていましたが、「救命の連鎖」がスムーズに行われ、2人とも救命できて元気に退院されました。最近は昼夜に限らず外でランニングされている方を多く見かけますが、やはりマラソンは夜1人で練習するよりも、昼間に複数人で練習した方がいいですね。
◆:救護の対策も大切ですが、予防が一番ですね。
小島:さきほどお話ししたように、アメリカのマラソンのデータはあるのですが、日本で開催されたマラソンに関する循環器救急データはあまりないようです。「熊本城マラソン」に参加されるマラソンランナーの中にも少なからず心疾患を持っておられる方がいるかもしれません。そのような方がどのくらいおられて、どのような対策をされているのか興味ありませんか?それで今年からフルマラソン参加者に事前アンケートをお願いしたんですよ。そしたら約2500人の方にご協力いただきました。現在集計しているところですが、少なからず心臓の病気をお持ちのフルマラソン参加者はおられるようですね。しかし心疾患を持っておられるマラソンランナーは、日頃から自分の心臓の状態を把握されているでしょうし、主治医とも十分話し合った上での参加だと思いますので、おそらく大丈夫ではないかと思いますね。逆に“自分は心臓の病気なんかない、絶対大丈夫!”と思っている人こそ危ないかもしれません。10万人中の2人にならないように、マラソンをされる方は普段からメディカルチェックを受けておく必要がありますね。今回のアンケート結果からどのようなことが見えてくるのかとても興味があるところですが、今後の救護の対策を考える上でも貴重なデータとなります。「熊本城マラソン」は経済効果も高く、熊本市民が一体化できるとても楽しい一大イベントです。我々のデータ結果が市民の皆さんに還元でき、役立てていただければこれ以上の喜びはありません。これからも救護の一員として積極的に協力していきたいですね。

全国の症例データバンクの実現を目指して

「以前、心肺停止を救命した患者さんと再会したときに、本当にうれしかった」という小島先生。 ◆:市民の健康管理への意識を高めること、そして心肺蘇生法への理解を深めることの大切さをお伺いしましたが、これからの課題は?
小島:急性心筋梗塞症例についてのデータ登録は、現在国内でも一部の地域でしか行われておらず、全国規模で発症件数などを網羅したデータは存在しないのが現状です。つまり、日本国内で急性心筋梗塞がどのくらい発症しているのか、その正確な数字は誰にもわからないのです。そこで日本における急性心筋梗塞の実態を調査するために、全国的な症例登録を実現する必要があります。数年前より全国の循環器専門の先生方と一緒にこの大きな目標に向かって取り組みを始めています。今年の3月15日から横浜で開催される日本循環器学会でもシンポジウムを開催し、さらに突っ込んだ具体的な内容について全国の先生方とディスカッションする予定です。一方、熊本県では2004年より県内20施設の循環器専門施設の協力を得て、県内で発症した急性心筋梗塞患者の全例登録を行っています。それによると県内では急性心筋梗塞の発症が減少してきています。その理由はわかっていません。循環器専門医がしっかりと患者さんをマネジメントしているのかもしれません。一見、いいことのように思われますが、実は心臓が原因で心停止(心原性心停止)になっている症例が増加してきている事実もあるのです。急性心筋梗塞と心原性心停止を合わせると、実はその数は横ばいであるのです。この点については今後さらに詳細な検討を行いながら、行政とともに熊本県の循環器救急についてどのように取り組んでいくべきか話し合わないといけないと思っています。
心肺蘇生法のパンフレットを「くまもとハートの会」で発行。 ◆:先生が目指す医療の在り方とは?
小島:大学病院は専門性が高いのは当たり前。さまざまな診療科目が連携して医療を行うことが理想ですが、実際は難しい面も多々あります。昔だったら「専門外だから診ることはできない」で許されていたのかもしれません。確かに医療は幅広く奥深いものですから、一人の医師が内科や外科、小児科や産婦人科など多岐にわたって診療できるようなスーパードクターはほとんどいないと思います。しかし現在はそれでは許されない時代です。内科の中でも循環器や呼吸器、神経、腎臓・・・などの専門領域に分かれますが、私が思うに、内科医であれば内科の専門性を保ちながら、少なくとも内科救急全般にわたる知識と技術を兼ね備えておかなければなりませんし、最近の研修医を見ていると、そのような医師像を理想としているようにも思えます。私は循環器専門医ではありますが、循環器に限らず内科領域全般にわたって色々な知識をブラッシュアップしていきたいと日々考えており、多くの診療科の先生とコンタクトをとるように心がけています。また医療にはいろんなアプローチがあるべきだと考えて、私は週に一度、地域の病院で診療を行っています。そこではお年寄りがたわいもない話をされますが、それを聞いたりすることも大切な仕事なんです。私と話をするためだけにやってこられるおばあちゃんもいるんですよ(笑)。多くのお年寄りとお話しをすると、生きるすべをたくさん知っておられてとても勉強になります。診療のスタンスは医師ひとりひとりで違うものですが、地域医療のために何ができるかという課題に向き合いながら、解決すべき問題は救急課や行政の力を借りながら研究を行う必要がありますし、その結果によっては我々も身軽に動いて多くの市民の方々に理解を求めることもあると思います。最終的に熊本県の救命率がアップするのであればそれがベストですね。
◆:僕も心肺蘇生法を勉強して誰かの役に立てるようにがんばります。ありがとうございました。


(2013年3月21日掲載)

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