杉本幸彦研究室(大学院生命科学研究部)

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Lab’s data【杉本研究室データ】

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  • 修論・卒論テーマ
    プロスタグランジン受容体による生理・病態の調節機能
    ω3脂肪酸等のリポクオリティが生体に与える影響とその分子機構に関する研究
    など
  • メンバー
    教授1人、講師1人、助教1人、研究員2人、秘書1人
    博士課程大学院生1人、修士課程大学院生3人、薬学科学部生6人、
    創薬・生命薬科学科学部生3人

新薬や健康寿命に深くかかわる脂質メディエーター研究

脂質研究を柱に、副作用のない新薬開発を

杉本幸彦教授の研究の柱は、脂質メディエーターです。脂質メディエーターとは、生理活性を持ち、細胞に存在する受容体というタン
パク質を介して作用を発揮する脂質のこと。杉本教授がターゲットとするプロスタグランジン(PG)もその一つです。「人は何かに感染すると、細胞膜を形成するリン脂質という分子がPGに変わり、これが熱や痛みの原因となります。このPGの合成を阻害して熱や痛みを抑える薬がアスピリンです」。アスピリンの解熱鎮痛作用はよく知られていますが、「いいことばかりではなく、副作用もあります。例えば胃潰瘍はその一つ。また、アスピリンを多用する米国ではアスピリン喘息で数万人が亡くなっています」。実はPGには、熱や痛みを起こす悪玉作用だけではなく、私たちの体に必要な善玉作用もあるのですが、「アスピリンはPGのすべての作用を止めてしまう。これが副作用を起こす原因になります」。
そこで杉本教授は、PGが作用を発揮するために必要な受容体に着目。8種類ある受容体それぞれが欠損したノックアウトマウスの脳に同じPGを投与し、どの受容体を持たないマウスが発熱しないかを見ることで発熱がどの受容体を介するのかを突き止めました。痛みについても、PGがどの受容体を介して痛みを起こすのかを特定。それら受容体だけを標的とした薬ならPGの善玉作用を止めることはなく、副作用の心配がなくなります。現在杉本教授は製薬会社と一緒に、特定の受容体を標的にした、アスピリンを超える解熱鎮痛剤の研究を進めています。

真理を解き明かす中に 思いもよらない発見はある

脂質研究から発展し、健康寿命に深くかかわる脂質クオリティにも着目している杉本教授。たとえばオメガ3という脂肪酸は、たくさん摂取する人々はそうでない人々に比べて心疾患発症率が低く、オメガ3が体に良いことは知られています。しかし、なぜ良いのかは最近までわかっていませんでした。「脂質のバランスが変わるといろいろな疾患、例えばアレルギー、メタボなどの発症率に影響します。私たちは、脂質のクオリティの違いを、質量分析計を用いて厳密に解析しています。PGに続く新しい脂質の研究ですね」。
これらの研究は新薬や病気の予防薬開発にもつながり、「人の役に立つ」という大きな目的もあります。しかし、「自然の真理をひとつひとつ解き明かすところにこそ思いもしないようなことが見えてくる。さもありなん、という場所では見つからない効果や予防法が見つかる可能性があると思います」と基礎研究の大切さを語ります。これからも研究者として「ええっ!」という発見の瞬間を得たいと杉本教授。学生には、「研究は自然との一本勝負。自分にできるか不安かもしれませんが、しっかりサポートします」と話してくれました。

Interview

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薬学部創薬・生命薬科学科4年 前田 ひかるさん(左)
 以前から薬のお世話になりその恩恵を受けていたこともあり、薬学部に入りました。ただ、高校生の頃から生物が好きで、生物の体のメカニズムを知りたいと、理学部よりの研究ができる杉本研究室を選びました。現在は子宮内膜症という女性の病気のメカニズムを探る研究に取り組んでいます。研究室では一人一つのテーマを持って研究しており、それぞれが違う実験手技を持っています。新しいことに取り組む時は誰かに教えを乞えるし、協力し合えるところがいいと思います。
今はまだ実験がきちんとできているか自信もないので、修士の2年間をさらにがんばって、自信をもって社会に出て行けるように成長したいです。

大学院薬学教育部博士前期課程 創薬・生命薬科学専攻2年 大窪 喜丸さん(右)

 生物の基礎研究に携わることができること、そして、杉本先生の授業がわかりやすく、そんな先生のもとで研究をしたいと思ったことが杉本研究室に入った理由。遺伝子改変マウスを使い、プロスタグランジンの生態における役割を解析する研究に取り組んでいます。プロスタグランジンの働きを理解できれば、悪いほうに作用して起こる病気ならそれを抑えることができるし、逆によい働きが減っていることが原因の病気もわかり、その薬を作っていくことができると考えています。
卒業後は企業で、臨床検査薬の研究職に就きます。研究室で学んだ客観性や論理的思考、研究スキルを活かし、人の役に立つ薬を作ることが目標です。

密着!杉本研究室

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平成29年5月ソフトボール大会公式戦終了後、頑張ったで賞

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平成29年11月卒論発表会直後。発表者2名を囲んで。お疲れさまでした!

(熊大通信68号 (2018 Spring)4月発行)

お問い合わせ

総務課 広報戦略室

096-342-3119