中島誠研究室(薬学部)

研究室探訪
画期的な創薬につながる新しい“触媒”を求めて有機化学の技を磨く
中島研究室には、中島教授(前から2列目中央)はじめ
3名の教職員と学部3年生以上の20名が所属

中島誠研究室
【薬学部】分子薬科学分野

中島研究室とは?
薬学部の中でも、創薬の基礎となる有機化学に関する教育・研究に携わっている。主な研究テーマは、新しい有機分子触媒反応の開発、フェノキシドを触媒とした高選択的有機合成の反応の開発など。
医薬品の合成に役立つ“触媒”を作り出すために日夜、実験を繰り返す中島研究室。
有機合成化学のプロフェッショナルを育てる現場に伺いました。

貴金属、レアアース使わない“有機触媒”

副作用が少ない医薬品原料、安く効率よく合成する―。そのために必要な“新しい触媒”を探して、中島研究室では実験の日々を過ごしています。
中島教授の専門は有機化学。研究テーマは「新たな有機分子触媒の開発」です。医薬品合成では、求める薬効を示す物質と同時に、副作用を示すかもしれない物質も同時に生成することがあります。そのため、目的の物質のみを選択的に合成する手法が必要となります。
その方法のーつが 触媒 を使って反応を制御すること。従来の触媒は、貴金属やレアアースを含むものが大半でした。高価な貴金属や供給が不安定なレアアースを含まない新しい触媒ができれば、安価で副作用の少ない医薬品合成に大きく貢献します。

46-4.jpg大学院生命科学研究部・薬学部 中島教授
東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。東京大学助手、コロンビア大学博士研究員、北海道大学助教授を経て、2004年より現職。専門分野「有機化学」

実験技術を磨く“修案”

46-2.jpg 台の上にはビーカー、フラスコ、試験管など、理科室でおなじみの器具がズラリと並びます。「有機化学の研究とは実験の繰り返し。その大半は手作業です。だから有機化学者にとって一番大事なのは実験の確かな技術力。一人前になるには最低でも3年の修業が必要です」と中島教授。
研究室のメンバーは、求める物質を自分で作る“有機合成化学のプロフェッショナル”を目指して、毎日実験を繰り返しながら技術を磨きます。

46-1.jpg

水と反応すると爆発する還元剤を慎重に操作する修士練程2年・王丸佑介さん。湿気のある空気に触れないようアルゴンガスでフラスコを満たし、万が一に備えてゴーグルを着用する

46-3.jpg

分液漏斗(ろうと)を使い液体を2層に分け、必要な物質が溶け込んでいる層だけを抽出する

合成の果てにある、まだ見ぬ“触媒”を求める

新しい触媒の候補になる物質を一つ合成するのには、半年かかることもしばしば。中島教授は「触媒候補の物質を100作っても、触媒として狙い通り機能するのはそのうち10もありません。そうして絞り込んだ化合物をべースに新たな触媒を設計し、さらに優れた触媒となる物質を探していくのです」と語ります。
中島教授の目指す新しい触媒は、安価で効率的なだけでなく、環境にも優しいもの。開発には大変な作業が続きますが、その成功は創薬の世界に大きなインパクトを与えるのです。

46-5.jpg

分子の構造は同じだが、形は鏡に映したように左右対称になっている物質の模型。この形の違いが医薬品としての薬効や副作用の差を生じさせる

※触媒・・・それ自体は反応前後で変化しないが、物質同士の化学反応を促進する物質。

(熊大通信46号(2012 AUTUMN)10月1日発行)

お問い合わせ
マーケティング推進部 広報戦略ユニット
096-342-3122