学長と学生との懇談会(理学部・理学研究科)

日時 平成13年9月20日(木)12:00~13:00 20011031.jpg
場所 理学部会議室
出席者 江口学長、良永副学長、嶋田学生部委員会委員
参加学生 学部学生 38名
陪席者 理学部教職員 6名、学生部 3名

司会
学長の江口先生をお迎えして、理学部で初めての懇談会ですけど、これから1時までの1時間、江口先生とざっくばらんな話し合いをしていただきたいと思います。

私は、今日の司会を担当させていただく理学部の地球科学科の嶋田と申します。この催しは、今年度から始まった企画で、6月に文学部と法学部が実施されましたが、夏休み明けで実施されるのは理学部が初めてで、この後、薬学部や工学部も実施される予定になっております。
皆さんご存じではないかもしれないですが、大学のホームページに他の学部の懇談会の様子が記載されています。割と活発なやりとりが行われ、江口先生も学生の方にも非常に評判がいいとお伺いしております。理系の学生とは今日が初めての懇談会になります。江口先生は、生物の研究をされていて、理学部とは縁が深いんじゃないかと思います。皆さんの忌憚のない質問、要望、意見を言っていただければと思います。
それでは、最初に江口先生の方から挨拶をお願いします。

学長
皆さん、こんにちは。今日は集まっていただいて有り難うございます。実は、ただ今、先生からこの催しの経緯のお話がありましたが、これは私の方から強くお願いしたことでございます。
私は平成8年11月に岡崎国立共同研究機構から赴任をしたんですけど、その時に諸君が何を日常考えているのかというのを強く知りたいと思いました。それで何とか学生と学長が、簡単に話し合いのできるチャンスを作って欲しいと学生部に強くお願いしたんです。
平成9年になって、当時の学生部委員で、法学部の篠倉先生が私の希望を聞いて、それは非常にいいことだからと話し合いの場を作って下さいました。各学部から1~2名、大学院生と学部生を合わせて12~3名で、くすの木会館で夜食事をしながら3時間ぐらい話をしました。それで、是非続けたいということを希望していたのですが、くすの木会館で夕食を食べながらというとお金がかかる。学生部でもそのような予算はない。夜、食事をしながらというとその都度、学生諸君にお金を出していただかなければならず負担になりますよね。それで他にいい方法を考えて欲しいと言っていたんです。
そして、再度、去年の夏に、各学部を私がお尋ねして、話し合いを行いたいということで、理学部が3番目になったということです。私としては、会議形式ではなくて、できたら車座みたいな雰囲気で、大学に対しての不満であってもいいし、要望であってもいいし、学生にとって、学習環境が劣悪ではないかとか、こういう点は是非直して欲しいとか、何でも聞かせていただきたいということで、この懇談会があるわけです。是非、率直にいろいろな話を聞かせてください。以上でございます。

司会どうも有り難うございました。実は今日は、各学科から3~6名、トータルで37~8名の学生さんに来ていただいています。これから食事を交えながら交流をしていっていただきたいと思います。皆さん手前に、サンドイッチ、それから飲み物がありますので、それを食べながら気さくに江口先生とお話をしていただければと思います。
やり方は特に決めていません。皆さんの方から、積極的に手を挙げて江口先生に聞きたいこと、あるいは要望、そういうものを言っていただければと思います。大学というところは、学長が学生さんの声を生で聞く機会というのはほとんどないと思いますので、こういう機会に是非、積極的に発言をしていただきたいと思います。
ルールとしては、手を挙げていただいて、指名された方は自分の所属学科と学年と名前を言って、それから、質問や意見を言っていただくということにしたいと思います。それでは、どなたでも結構です。

副学長
自己紹介をしていいですか。私、副学長の良永と言います。所属学部は法学部なんですけれども、今、江口学長を補佐して、特に教育、それから学生生活関係の仕事を担当しております。皆さん、率直にいろいろ学長にぶつけたり、聞いたりして下さい。私たちもそれを傍で聞いていて、少しでも皆さん達の大学生活が良くなるように努力したいと思っております。数少ない機会ですので、積極的に活用していただきたいと思います。よろしくお願いします。

司会
それじゃ、皆さんの方から意見のある方、手を挙げて欲しいと思うんですけど、どなたでもいいです。我先にという人、いませんか。

学部4年
最近、小学校、中学校、高校によって、理科離れが深刻な問題になっていますが、理学部というのは、非常に厳しくなっていると思います。理学部出身であります江口学長が、この問題について、どのように考えていらっしゃるのか質問したいと思います。

学長
皆さん、あっという間に1時間経っちゃうので、食べながら話をしましょう。私は、多分、たくさんしゃべらなければならないので、覚悟しております。
僕は、理科離れと言われるが、あまり心配はしていないんです。その根拠は、例えば中学校では、国際レベルのコンテストがあるでしょ。何で理科離れが取りざたされるかという根拠です。算数で言ったら計算問題、理科でも物理でも、日本の生徒はすごく成績がいいわけです。1位から3位までに毎年入っている。応用問題だとちょっとレベルが下がり、シンガポールとか韓国がいつもトップクラスです。
それで、成績はいいんだけれども、理科が好きか、数学が好きかというと、50%ぐらいは嫌いだと言う。試験を受けたテストでも、半分は理科や数学が嫌いだと言うんです。それは大変だなということです。僕は逆に、半分は好きなんだとびっくりするんです。半分の人は、理科が嫌いではないのですから大丈夫。数学の計算させたらいい線いくのに、何故嫌いなのかというと、興味がないんですよ。
僕、数学が良くできたんです。自分で言うのはおかしいけど、数学が大変よくできました。公式なんか覚えようとせず、自分で作っていました。それから関数は、グラフを一生懸命勉強しました。例えば一次関数だったら直線になり、二次関数だったら、こういうカーブになります。三次関数だったらこういうふうにと、だから微分積分だって、グラフから入ったら、ものすごく理解しやすいわけです。そういう教育は、中学校、高等学校も欠落している。理科、数学をよくする人の半分は嫌いなんだ。だけど、50%は嫌いではない。だから大丈夫だよというふうに思います。
大学に入って、今までの教育の悪いところを、きっちりと先生方が是正して、皆さんが理科に日に日に興味を持ってくれるようになれば、大丈夫だと思うので、大学に入って益々理科離れしたなら、それは先生方の責任ですね。理学部に行ってますます理科が嫌になった人、ちょっと手を挙げて下さい。遠慮しなくったっていいですよ。それが大事なんです。私は、理科が好きなつもりで入ってきたけれども、熊本大学の理学部に入ったら、面白くなくなったということであれば、それは大変なことですから、そういうことを先生方にぶつけないといけません。理学部に入ったら、理科がますます好きになると思って来たのに、だんだん嫌になってきた。どうしてくれますかということを、先生にぶつけなさい。

司会
そういうことがないことを願っています。次の方いますか。手を挙げて下さい。化学の方、何か質問はございますか。

学部2年
今、3階にある化学の実験室で実験をしているんですけれども、もう少し、環境を改善するとかいうことはないんですか。

学長
どういうところが悪いんですか。具体的に教えて下さい。

学部2年
例えばテーブルが木でできているんですけれども、木が剥がれてガタガタしているものがあります。

学長
それは、早く直さないといけませんね。よくわかりました。見に行くのが一番早いから、一度見に行きます。
それで、これはそう簡単にはできない言い訳をちょっと言わせていただくと、日本の国というのは国立大学でありながら、学生諸君の生活環境、勉学環境をよく保つための予算が極めて少ない。各学科の先生方の研究費の一部を、そっちに振り向けざるを得ないような状態です。それで、満足のいくようなものをいつも備えておくというと、先生方は、国からの研究費がもらえなくなるという事情があります。先生方がしていらっしゃる研究というのは、それぞれの先生方が好きでしていらっしゃいます。従来は、国費でそこそこ研究費は賄われてきましたけれども、これからは、先生方自らが、外部資金を確保するということをどんどんして欲しいと思います。
それで、今私が一番力を入れて整備しているのは、大学教育研究センターで、あそこに随分お金を投入しております。私自身が自由になるお金は、わずかしかありません。学長裁量経費といって、私が一存で使えるようなお金もあり、各学部の予算でできないところを補っていこうと思っています。今日は1時にこれが終わると、すぐ会議に入るので、見せていただく時間がありませんけど、まず私自身が、各実験室を見に参ります。それはお約束いたします。

司会
はい、有り難うございます。学長の江口先生もお金をお持ちですから、この機会に、いろいろ要望するとそれがかなうかもしれません。何か要望など。

学部4年
学長は、学食でご飯を食べたことはありますか。

学長
学食で食べたことはあります。しかし私は、独特な健康的理由から、お昼はほとんど食べないんです。スープ一杯に小さなおにぎり1個位しか食べない。だから、頻繁には行きませんけれども、例えば出張して、東京から家に帰れなくて、直接ここに出勤するような時には、時々行きます。

学部4年
僕はむちゃくちゃ昼ご飯を食べる方なんですけど、ちょっと高いんで、例えば牛丼の吉野屋とか、ああいうのを誘致するとか。

学長
それは、どっちですか。

学部4年
生協です。

学長
生協にもっと経営努力をして欲しいですね。部屋の改修とか、売り場を広げることなど大学も相当協力し、ひと頃の生協よりも随分良くなったんですよ。それで、今、売上げも2割以上、上がっているはずです。そういう成績が良くなったものをもっともっと経営努力をして安くするということは可能だと思うんです。
生活協同組合は、皆さんも会員じゃないですか。皆さん自身が組合の幹部に言うべきです。生協というのは、大学とは直接関係のないオーガニゼーションで、大学は場を提供している。家賃を取ってません。大学とインデペンデントのオーガニゼーションですから、本当は家賃を取ってしかるべきだと思うんです。それから、生協の学生食堂をよくするためには、皆さん自身が、やっぱり努力する必要がある。自分達のものだという感覚でやって下さい。

学部3年
日本の企業とか、大学のトップの人たちの能力をヘッドレス・チキンと言われているのを聞いたことがあります。これについて、学長はどう思いますか。

学長
それは、見方によってやむを得ないところはあると思います。 学長さんだとか、理学部の先生達が、経営的な手腕は全くないというような批判は、ある意味では通るんです。
だけど、個々の先生方が無能ということではなくて、今、リーダーシップの発揮を、どの学長にも強く言いますけれども、学長が大学のトップとして、真にリーダーシップを発揮できるような仕組みになっていないんです。国立大学にも極めて優れた経営的手腕をお持ちの学長もずいぶんいます。 例えば大阪大学の岸本先生なんかは、ものすごい手腕を持っています。そういう先生が、本当の真価を発揮できない仕組みになっている。
大学の先生方は、基本的には一匹狼の集合体です。研究者を狼になぞらえると、一匹狼の集合体にしか過ぎないんです。ただ問題は、一匹狼でも二様あって、非常に視野の狭い一匹狼と、視野の広い一匹狼といる。
視野の狭い一匹狼は、しばしば融通性が欠落しています。自分の意見はしっかり持っているが、協調性がない。視野が狭い割に自分の周辺のことはよくわかるけど、特に学問、領域次第では、他の領域のことは、視野が狭ければ狭いほどわからなくなるから、協調性が欠落してくる。そういう状態の集団が、意志を決定するということは不可能に近いんですよ。そういう集団の上に学長がいるんです。そういう構図を直さないといけない。
僕が非常に願っていることで、一番大事なことは、先生方の相互信頼です。「もう俺たちは、研究と教育に専念する。大学の経営は責任を持って執行部がせい。」と。「変なことをやったら許さんぞ。」ということで、任せていただいたら、手腕のあるリーダーだったら、きっちりやりますよ。僕にできるかどうかわかりませんけどね。僕もそれなりにはやれると思うんです。

学部3年
学長の理想とする大学像があれば。

学長
抽象的なことを言っちゃっても仕方がないから、例を出して言うと、真のユニバーシティである大学というのは、実は、日本には1つもないと思うんです。
ユニバーシティは、ご存じのように、ユニバースから来ているんです。だから本来は、熊本大学規模、あるいはもうちょっと小さい規模の大学の集合体なんですよ。コンソーシアムですね。ケンブリッジ、オックスフォードとかのね。
ケンブリッジ大学は、私が英国にいた30年前は、34大学位の集合体で、オックスフォードが24大学位です。それぞれ、ちゃんと名前を持っています。各大学は単科のものもあるし、学部が3つ、4つのミニ総合大学もあるし、キングスカレッジ、クイーンズカレッジとか全部それぞれ固有の名称を持っています。そういう30前後の大学がまとまったものが、オックスフォード・ユニバーシティあるいはケンブリッジ・ユニバーシティだから。
それで、どれか1つの大学に籍を置けば、オックスフォード大学に属するどの大学の講義も聴けます。それぞれに、日本で言うと学長さんにあたる人がいて、すべてをオックスフォード大学の総長が管理をする。それで、どの大学を卒業しても、オックスフォード・ユニバーシティ卒業ということになる。このことが極めて重要なんです。
ケンブリッジ市は人口10万人ぐらい、オックスフォードが6~7万人だと思いますけど、それだけの数のそういう大学があるから、全市民が全部大学に関わっている、大学の町なんです。それがユニバーシティであって、パリ大学もそうです。パリは12大学位ありますけどもそういうのが認められている。日本にはそういう大学がないですね。
今、文部科学省が統合と再編成を行って、国立大学の数を減らそうと提案しています。私は、小さな大学は、どこかの大学と一緒になっても意味はないと思います。一緒になることによってレベルが上がると思えないからです。
東北大学とか、九州大学などは、大学としては大きいですね。ならばユニバーシティと言えるかというと、オックスフォード、ケンブリッジなんかに比べると、全く異質です。1つの大学として、あれほど巨大になると、もう何が起こっているかわからないようになります。だから日本の大学は、どれ1つとっても、本当の意味でのユニバーシティとしての体をなしてはいないと思うんです。
しかし、日本の大学は100年しか経っていないんです。それに比べ、オックスフォード、ケンブリッジは、1000年以上の歴史を持っています。それで僕は、日本の大学はまだ真の大学になっていないと言ったけれども、逆に100年でよくぞここまで育ったなと前向きに思うんです。大学というところは、皆さんがせっせと一生懸命努力して、社会の思想づくりの中核になる。それが望ましい大学だと思います。

司会
はい、次の質問を受け付けます。環境理学科のどなたか。

学部3年
質問というよりは要望みたいなものですが、県立大学で、2年間をひと単位にした、一般に開いている授業があるので、そちらの方に参加させていただいているんですが、自然観察会とかそういう試みをもっと熊大で増やしたらよろしいのではないでしょうか。


学長
環境理学科に属していらっしゃるのね。僕も正規の授業でそういうものを作るのも1つの案だと思うんですけども、皆さんが、積極的にそういう行動を起こして、そこへ先生を引っ張り込むということも非常に大事だと思います。
何故、そんなことを言うかというと、僕は、今でもこの歳になってもカミキリムシを採っている。生物学科の人、日本にカミキリムシは何種類いるか知っていますか。カミキリムシは知っていますよね。 1970年時点での正式な調査によると、737種です。 戦争が済んで、日本は、どんどん外国から材木を輸入しますね。それによって、50年の間に、おそらく50種類以上も外国から材木についてきて住みついています。
この間、1~2週間ほど前の新聞に、毒蜘蛛の話が出ていたでしょう。関西の神戸近郊の港からちょっと離れたところで、恐ろしい毒蜘蛛が発生した。実は2~3年前、ひょっとしたら輸入材木にくっついて来て・・・、たしか大阪近郊の港で見つかっているんです。駆除したんですけど、おそらく相当前の時期に入ってきて、今や日本に住み着いているのかも知れません。
そんなわけで、現在では日本には800種近くのカミキリムシがいるわけです。珍しいカミキリムシは、食生活が極めて特異なんです。例えば紅葉の木しか食べないとかね。
珍しいのが、阿蘇で採れるかなと思って暇があったら是非調べたいと思っています。阿蘇にゆうすげがありますが、このゆうすげしか食べないカミキリムシがいるんです。これは日本からゆうすげがどんどん無くなっていったから、珍しくなったんです。皆さんの眼にとまるカミキリムシは、食性が広い。だから眼にとまる。そういう観点で熊本の自然をカミキリムシが教えてくれる。10年前の熊本の調査を見ると、ある種のカミキリムシは、事実、20年ほど前までは、熊本では非常に珍しかったカミキリムシが、今では飛行場の近くでわんさとおります。何故かというと、それは栗を食うカミキリムシで、10年ほど前から、熊本県で栗を非常に積極的に栽培するようになって、それで栗を食うカミキリムシが増えてきた。だからカミキリムシから、熊本の自然がどういう様態をしているか、すぐわかります。
自然環境の長い調査、観察というのはいいことですよ。その根底に好奇心が無くあてがいぶちの授業では、このようなことは身に付かない。何を知りたいかということをまず考えて、皆さんも皆さん自身の活動として立ち上げて、そこへ先生を引っ張り込む、それが一番いいんです。
ちなみに私は、500種位のカミキリムシを標本にしています。標本を見たかったら見せてあげます。名古屋にあります。熊本でも暇がある時に出掛けて、6~7種類ぐらい今まで採ったことないのを採りました。熊本は自然豊かだというでしょう。僕の見方は、熊本の自然は確かに豊かなんだけど、それは随分古くから人の手の入った自然です。それはカミキリムシがきっちり語ってくれる。カミキリムシの層は、非常に単純です。だからコレクターというような視点に立つと、全然面白くない。だから自然の見方もそれはそれでいいんです。古くから人の手が入って、人の生活と調和のとれた自然という認識で、それをもっともっと豊かにしていったらいいんです。
本当の原生林ってどんなのか知ってる。熊本に1カ所あると言われているけど、阿蘇の外輪山と白川が注いでいる所で、立野という駅があるでしょ、その向かい側の山が熊本の唯一の原生林ということです。僕、まだ出掛けていってないんですけど。
奈良の春日山という小さな山、そこに行ってごらん。これが自然だ、こんなところへ来たくないと思うよ。どういうことかと言うと、鹿の屍があちこちに散在し、梅雨時になると、山に入ったら、山ビルが落ちてくる。あれは血を吸われても痛くも痒くもないから、うっかりしていると、何十匹という山ビルが、血液で何倍もの大きさになっています。極端な言い方をすれば、そんな山ビルに寄りたかられたら出血死にも至りかねません。それが本当の原生林です。そんなところに行く気になりますか。
日本人は自然、自然というけど、僕に言わせると非常に甘っちょろいんです。そういうところを知らずにいて、自然愛好家なんて、それは自然愛好家でも何でもない。まあそれぐらいに思っています。

司会
はい、では次の質問受け付けます。こっち側の半分があまり手を挙げてないんですけど、こっち側の人何かありますか。数学科の人。はい、どうぞ。

学部1年
よく大学の数を減らすとか聞くんですけど、これから熊本大学はどうなるんですか。

学長
難しい質問ですね。少なくとも熊本大学は無くなることは絶対にありません。それで私は、良くなることはあっても、悪くなることはないと考えます。
ただ非常に寂しいのは、この頃の大学改革というのは、国がリードし、国によってリードされている。だけど、大学というところは、日々自らが変わらなければいけないところです。外力で変えられるということがあってはいけないということです。
これはいつも言っていることなんですけど、日本はこれからどういう方向を目指して国づくりをするのか。具体的に言うと、1500~600年の歴史を持ったこの国、その伝統にどっかり腰を落ち着けて、日本古来のいい伝統を守って、そして、再び平和な国づくりをするということは残念ながら不可能に近いと思います。
今後、どういうタイプの国、ヨーロッパ型の国になろうとするのか、アメリカ型の国になろうとするのか、あるいは、アジアの先進国だから、アジアを束ねて行くような国づくりをするのか。そういうことぐらい提示されてしかるべきです。それによって、大学がどうあるべきか、教育がどうあるべきかということになると思います。
僕が寂しいのはそれが1つと、もう1つは、大学が変わるというのは、我々よりも、あるいは大学の事務の皆さん、先生方よりも、学生諸君、つまり皆さんが一番大変なんです。直接に影響を受けるのは皆さんです。にも関わらず皆さんは、大学の法人化とかそういったものに、以外に関心がないんですよね。それが、僕は寂しいですよ。「そんなふうにされてたまるか。」というような声が聞こえてこない。非常に寂しい。それだけ言っておきます。

司会
はい、次の質問を受付ます。どうぞ。

学部3年
今、有明海が大変なことになっているんですけど、この問題に関しては、生物学科においても、地球科学から見ても、こういう原因については、理学の領域です。しかし実際、対策として工事をするとなれば工学部が中心で、その現象によって、人間生活として被害が起きるとしたら、漁獲量が減少すれば、漁業や運送業等にもひびくわけで、経済学とかも関わってくると思うんです。
そうなってくると、1つの科とかが、集中してやるべき問題ではなくて、文系、理系、どっちもある大学が、全体としてプロジェクトを作ったりしてやっていくのがいいと思うんです。 今、長崎水産大学がメインになって動いているんですけど、そのような地域に根ざした問題に対してプロジェクトを立てたりしないのでしょうか。

学長
それは、良永先生が的確にお答えいただけると思うんですけど、もう動きがございます。あなたのおっしゃることは、非常に大事なことです。
有明海の問題は、理学部だけの問題ではありません。社会学的なこと、経済学的なこと、すべてを含んでおります。だけど、私は理学者という立場で、一言、意見を言うと、やっぱり理学者は、本当にとことん理学をして欲しい。
例えば、海苔が昨年ほとんど全滅した。その原因は、ほんとのところ何だったのか。果たして、本当に諫早湾を仕切ったということなのか、といったことを真に科学的に解かねばなりません。干拓をすることによって、利を得る人々は干拓を推進して欲しいと希望し、不利益を受ける人々との間に対立が起こりましたね。
だけど、海苔って自然にどうやって生えているかというと、磯で岩にがっとしがみついて生えているでしょう。だから有明海の水質をきっちり維持して、海苔を飼うとしたらどういう飼い方が一番適切かというような研究をすべきなんです。若いうちから、あんまりポリティカルなことに僕は飛び込んで欲しくない。何が起こっておるかということを、情緒的ではなくて、サイエンティフィックに見つめて欲しい。それであなたがおっしゃったのは、非常に大事なことです。
環境理学科だけの問題じゃありません。ああいう問題は、工学部も、法学部だって関与しなければなりません。法学部、文学部の先生方は、そういう点を非常に重要視なさってフォーラムを開催しておられます。もう2年目ですけど。そういう活動は、きっとあなたの希望されることに結びついて行くと信じております。良永先生、いかがですか。

副学長
学長の方からフォーラムという言葉が出ましたが、ちょっとその説明だけしておきます。
これまで、大学は象牙の塔ということを随分指摘されていたんです。私たちは、必ずしもそうでなかったというふうには思っているんですけども、社会からそういうふうに見えるようになったことは否定できないんです。
だからもう少し思い切って、熊本大学を取り巻く地域、熊本県だけではありませんで、その周辺を含む地域と何らかの形で大学としての姿勢を保ちながらコンタクトをとることです。だから特に研究能力とか教育能力、そういうものを社会に還元することにしている。お客様いらっしゃいじゃなくて、私たちが社会の中に、地域の中に出ていく。そういうネットワークづくりの1つの核になる研究者の集団である地域連携フォーラムというのを、学長には随分支援していただいて、2~3年前に立ち上げたんです。
それで、主にこれは文系の先生達が今、頑張っています。政治学とか経済学とか、法学、文学、社会学、そういう人たちが今、中心でやっています。
そこにまたもう1つ、今年4月に、熊本大学に、学内共同教育研究施設として生涯学習教育研究センターというのができました。赤門を入ったすぐ右手に建物があります。皆さん方、自由に行っていいんですよ。そこにスタッフがいて、いわゆる地域連携フォーラムでやるような仕事も一緒にやっている。
今朝もね、熊日新聞には載っていましたが、熊本大学は、鹿本町から職員の方を受け入れています。地域といろいろな形でコンタクトをどんどん強めて、見える形でそれをやりたい。江口学長がおっしゃいましたように、今度はこれを研究の形で、もう少ししっかりしたプロジェクトができるといいなと思います。これは次のステップです。それくらいにしておきます。

学長
それで、有明海の固有のことで言うと、自然科学研究科の滝川先生が中心になられて、大きな研究費を獲得されました。グループメンバーには工学部の先生、理学部の先生、環境理学の先生達も入っていらっしゃる。熊本大学だけではありません。非常に大きなグループで、その赤潮の問題から全部研究されています。まだ、文化系の先生のコミットメントは、ごく一部ですけど、既にそういう動きがあります。あたなのおっしゃっていた方向にまもなくなると思います。
それで、僕は研究者だからもう1つ、皆さん若いから言うけれども、ああいう社会問題と直結したような課題というのは、よほど科学者としてのアイディンティティを自分自身にしっかりと掲げておかないと、とんでもない方向に引きずられていきます。
人々から見て、例えば海苔の問題1つとっても、もうほとんどの一般の人々は、原因は、あの堰にあると思っています。本当にそうかまだわかっていない。ジャーナリズムもそうでしょう。
そうすると、そういう見方をサポートするような研究成果は非常に重用視されます。それが世の中の常です。研究者としても有名になります。知らず知らずのうちに、その研究者は、歪んだ方向へ行っている。そんなことがあっては絶対に駄目です。
人間、有名になりたいと思うことは結構です。ノーベル賞を取りたいと思うのはその人の勝手です。しかし、僕はそのようなことで歪んではいかんということです。自分の研究は、揺らぎないものである。中立ということが理学者にとっては基本的に大事です。どんなに地味であろうと。人間というのは弱いもので、世の風潮に容易に惑わされる。皆さん、そういうことを実感する時が来るでしょう。それだけは、お願いしておきます。

司会
次受け付けたいと思います。どなたかありますか。

江口先生は、生物が専門ですから理学的な発想で、皆さんと共通の話題が多いと思うんですけれども、学問的なお話に限らず、理学部のこれからを良くしていく、あるいは熊本大学を良くしていくという視点で、是非、学生さんの意見が聞ければ思うんですけど。懇談会に出てきて、是非何か言いたいと思っていた人ばっかりだと思うんですが、誰かいませんか。

学長
「いませんか。」と言われても、そう簡単には出られませんね。これらは、慣れですから。
僕は、文学部と法学部と、これで理学部、三度目でしょう。非常に良かったなと思ったのは、この話し合いを契機にして、学長室に学生諸君が尋ねて来てくれるようになりました。こういうことをやっているんですけど、学長はどう思いますかとか。私としては、熊本大学の先生方、それから職員もおります。学生諸君が、自由に学長室に出入りできるようにして下さいと言うことを常に事務方に言っております。
だけど、散発的に来られると、時間がなくなってしまいます。例えば、学長にこういうことについて是非話を聞かせていただきたい、僕の意見を聞きたいということで、グループを組んで尋ねて下さいました。私の空いている時間だったらいつでもお会いできるようにしたいということで、この間も文学研究科の大学院の学生が、1年生の新入生を伴って来ました。「こういうことをしているんですけど、どういうふうに思いますか。」と、それはどういうことかと言うとね、ついこの間も選挙があったでしょう。選挙について、日本の選挙は極めて好ましくないと。それを正していくのに、私たちはこういうことをしておりますというような非常に面白いプランを持ってきて、それを実践してますよと。
そういうふうに来てくれるようになったので、このような話し合いが随分意味があるなと思っております。1時間で、これだけの数ですから、気の小さい人がいて、私がしゃべったりしたら、お話する時間がなくなっちゃうなという思いもあるだろうから、今後もこういう機会を作っください。10人ぐらいの人が、思い立って学長と話しがしたいと思ったら、連絡を下さい。

司会
最後に、江口先生にまとめていただいたんですけれども、これを機会に、是非、学生の皆さんと話し合う機会のきっかけにしたいと思います。

学長
それと1つ、先生方に対してもっともっと積極的になってほしい。理学部は、例えばそういっちゃ悪いけど、法学部などに比べたらもっと恵まれている。どういった面で恵まれているかと言ったら、先生方と学生との接点がある。だからその気になれば、いつでも先生のところに行けるはずだし、先生と触れ合うこともできるはずです。そういうことが、希薄ですと、先生の良いところも知らずに大学を卒業することになります。だから努めて、先生方の教室の扉を叩いて欲しいということを強く思いました。
どうも今日は有り難うございました。いい時間を過ごさせていただきました。

司会
どうも有り難うございました。これで今日の懇談会をお開きにします。

お問い合わせ
経営企画本部 秘書室
096-342-3206