学長と学生との懇談会(文学部・文学研究科)

日時 平成13年6月21日(木)12:00~13:10 20010712.jpg
場所 文学部会議室
出席者 江口学長、良永副学長、徳野・伊原学生部委員
参加学生 学部学生9名、大学院生4名  計13名
陪席者 学生部2名、文学部3名
傍聴者 学生8名、教職員8名


司会
只今から、熊本大学学長と学生との懇談会を始めます。本日は、初めての学長と学生との懇談会ということで、堅苦しくなりやすいんですが、ざっくばらんに話していただきたいと思います。司会進行を私(徳野学生部委員)がさせていただきます。実質的な話に入っていく前に最初に江口学長から、こういう企画を立てられた思いを簡単に話していただきます。江口学長よろしくお願いします。

学長
皆さんこんにちは。私は学長の江口です。せっかく一生懸命こういう場を作っていただきましたが、こういう会議形式で皆さんと話し合うということよりも、本当に身近に好き勝手を言う場が欲しいという気持ちだったんです。

私は職務上どうしても大学のキャンパスの中をぶらぶら歩くなんてことは難しい。時々、時間があって歩くと、見たことがあるような学生と会うことがある。どうやら先方の学生も僕を知っている。そうすると「おはよう」と言ったり、私に親しみを感じて,0.01%位の学生諸君は「先生おはよう」と言ってくれるんですけど、ちらっと僕の方を見て、どこのおっさんかなというふうにすれ違うのが一般であります。それでは非常に寂しいし、学生諸君の本当の気持ちもよく分からない。間接的には、先生方を通じて今日の学生気質ということを聞かされますけれども。

実は、今、司会の方から初めてだとおっしゃったんですけど、私が平成8年の11月に学長としてよそからここにきまして、翌年の平成9年度に学生部委員をしておられた法学部の篠倉教授がこういう企画を作ってくださいました。学部学生12~3名を集めて「くすの木会館」で夕食とビールを飲みながら、3時間近く話し合ったことがあります。こういうことは実に良いことなので、どんどん続けて欲しい、ということだったんですけど、それは1回こっきりでどうしたわけか無くなり、しびれがきれて私の方から、是非学生諸君と私がコミュニケートできる場を作って欲しいと提案したわけでございます。

私は、名古屋大学、京都大学、再び名古屋大学、それから岡崎の研究所で暮らして若い人達とコミュニケートしておりました。特に京都大学時代は、学部の学生委員長を仰せつかっておりましたし、その時、学生諸君が時の権力と大学の教育の在り方について、一番激しく健康的な抵抗をした時期でありまして、大学は喧噪のさなかに置かれていました。しかし、私は学生委員長として、暴力沙汰になることもしばしばで、また、火炎瓶が教室の中に飛び交ったというようなこともしばしば起こりましたので、警察に学生諸君をもらい下げに行くこともたびたびでございました。

日常、時には朝から晩まで話し合いを行いました。そういう経験に照らしても、先生方が日頃、学生諸君と身近に話し合うことがいかに大事であるか身にしみて感じております。そういう思いもあって、こういう催しを開いていただくことに感謝いたします。従って、こういう堅苦しい格好ではなくて、車座でドンと座り込んで「あんた、おまえさんなにしとんねん」「どういう勉強しとる、どういう不都合がある」等率直にどんどん私に「学長、大勢の人間があんなクーラーもない夏のさなかに講義を受けなきゃいかん。何とかしてくれんか」とか、そういう率直な意見が聞きたいということでございます。よろしくお願いいたします。

司会
ありがとうございます。学長からこの会の思いを語っていただきました。それでは、順次お尋ねしたいことを。

修士1年

現在修士1年で、将来像や進路をいろいろと悩んでいるんですけれども、学長が学生時代等に将来や進路を決められるに当たって、その時に強く志として何かこれだけはやりたいと思われていたこととか、今に至るまで思っておられる強い思いみたいなものを、何かその辺をお聞かせ願えたらと思うのですけれども。

学長
こういう質問があると、恥ずかしい思いをしないといけません。私はちょうどあなた位の年齢の時に、将来何になろうかとあまり深刻に考えていなかった。決心をすることが大嫌いでしてね。決心をするとろくなことが起きないと若い頃から思いかけていたんです。

ただ、生き物が大変好きでして、今生物学をやってる。だけど生き物がどれだけ好きだって、そう簡単に生物学者になれるはずもないし、ちょうど私が皆さんの年齢の時はですね、国敗れて、食べることすら不如意でした。父が材木関係の小さな工場を経営していて、私、男ばかりの6人兄弟の5番目なんです。だから吾朗というんです。父は100%自由にさせてくれて、いい意味の放任でした。

それで模索していて、医者になろうと思った。戦争の悲惨さなどを多少とも見聞して知っておりましたし、当時、医者になるには、まず教養部の医学進学課程という2年間の制度があって、2年終わったらもう一度試験を受けて学部に入りそうして医者になると・・・。医者になっても、家が医者でありませんから開業することは不可能、そうすると開業医になることできないから、勤務医になるか大学に残るか。それから自分のような性格の人間は、田舎の無医村くらいに行って、毎日飲んだくれて赤ひげ先生気取りで生活するのかなと。それなら貧乏は同じだと思って理学部に入りました。そしてそれなりの努力をしておったら今日に至ったということでございます。

司会
ありがとうございました。それでは次お願いします。

学部4年
私は今日はどちらかというと自分が質問をするというよりも、江口学長がお聞きになりたいことがあれば何なりとお聞きくださいということでここに伺いました。

司会
そしたら後で何かあったら。では次お願いします。

学部3年
私は、今年、山梨県立短期大学から3年次編入で来ました。ここに来たのは、私は先生を選んで熊本大学に来たんです。私は友達に、こういう勉強がしたくて来たのに、科の先生についたら先生の専門をやらされている状態だという話をよく聞きます。大学は私はもっと自分の好きなことできる所だと思っていたんです。先生を選んで来るということについて、学長の考えを聞きたいです。

学長
私は大学選択の理想的考え方だと思います。問題は高等学校までくらいのレベルで、大学の先生がどういうことをやっているのか、どういう考え方の持ち主なのかということを知ることは容易ではないですね。私はあなたのような考えで熊本大学に来られたことを非常に尊敬いたします。大学院レベルではそうでなければいけないと思うんです。より専門化するわけですから。是非とも今のような考え方で進んでいただきたい。

司会
それじゃ、次の方。

修士2年
私は、出身は北九州大学です。学長に一つお伺いしたんですけど、話を文学部に限らせていただきます。こういうITの時代ですから、いったい文学部というのは何をする所なのか、どういうことを研究して、何の役に立つのか、最近、世間の風当たりが強いというのは多少感じております。そこで、特に理科系の出身の学長から見られて、文学部がこういう世の中にあって、存在意義というのがどういうものなのか、どういうことを教育目標として掲げなければいけないのか、その当たりについてお考えをお聞かせいただければ。

学長
非常にクリティカルな質問ですね。私は理科系の人間でしたけど、私が先ほどお話ししたように理学部に進学した頃は、一体全体生物学をやってなにになる・・・とか、就職なんて絶望的に無かったですね。大学に行ったから就職することは非常に大事なんだけど、基本的に人格を作ることが一義的に大事です。文学部にはそしたらどういう目的があるか、私は非常に大切なことがあると思っている。

なぜかというと日本の人々は、昔から日本は、先進国ということを自ら標榜しております。経済大国として。果たして文化とか学問ということについて、どれだけの人々が関心を持っているか、私はとても欧米先進諸国には及ばないと思っている。だから、文学部に属してそういう思想を自分なりに持ち続けて、それぞれの思いで仕事ができるように教育体系を、今、早急に組み換えなければいけないと真面目に思っております。

だからITの問題について、たとえ文学部を出られた人であろうと、パソコンは自由に使える、或いはある程度ソフトも組めるというような力を身に付けていただきたい。そのための教育環境を早急に整えていきたいと考えております。熊本大学文学部はどういうことを目的としているかということは、毎日でもいいから先生方にお聞きください。私が言うとそんなことではないといってしかられるかもわからない。私はちょっと遠慮いたします。先生、毎日講義聞かされているけど、この熊本大学ではどういう目的でどういう人間を作ろうと思って教育なさっているんですか、ということをいつでもいいから聞いていただきたい。

司会
ありがとうございました。非常に良いお話でそのとおりだと思います。それでは続きまして。

学部4年
特にこれといったものはないんですけど。

司会
ちゃんと5年生だから、5年生になった理由を言ったら。

学部4年
ちょっとだめな奴とか。そういう奴らをもっと増やしていかないと、文学部の文学部たる所以というのがないのではないかと思いますが、どうでしょうか。

学長
私は、若い人にいつも相談を受けると、必ず言うことがあったんです。それは『相談したいというからには、他人の意見に良く耳を傾け、それをできる限り取入れるのでなければ意味はない』と。若い人たちはそれぞれに自分の思いがあって、一般的に同意が得られないと、非常にがっかりするんです。それでまた別の人に相談をする。それではいかんのです。たとえ自分にとってそぐわないと思われることを言われても、君たちには厳しいこと言われてもそれに耳を傾けてもらいたい。

それからもう一つ言うことは、あなたはお父さんのすねをかじる覚悟で生きてますか。親に心配をかけてはいけないと思って、それでなまじ自活しようとアルバイトしながら勉強しようということではいかん。親というのは一見“すねかじり”を拒むように映じても、心の底では我が子を大事に育てようと思っている。だから5年間、その気になったら8年間は大学におれる。そういう腹の決め方もあり得るんですね。

司会
ありがとうございます。今の話を聞いていて、文学部のキャッチフレーズができるかな。“だめな奴、大切にする文学部”。僕学生部委員やってて、学生実態調査をし、いろんな学生の悩み聞いてアンケートを取った時に、文学部の学生がやはりダントツで人生に悩んでいるんです。人生について悩んでいるというのは、やっぱり文学部が圧倒的に他の学部を抜いて高かった。38%位あったんです。ほっとしました。悩んでなかったらやっぱり困ります。それじゃ、次。

学部4年
明るく悩んでいる学生が30何%ですか。私もそのくちなので。平均年齢が80歳になった時代にあと60年も生きていかなければならないと思いながら、就職のこともありまして、今後どうやって生きていったらいいのか、それでまだ明確な答えが見つかっているわけではないんです。私達中国文学をやっているので、中国人の先生方もいらっしゃるんですけれども、そういう悩み事を話した時に、いろんな視点で、自分の国ではない別の国で育った人の意見が聞けるとか、留学生の方とか多角的な意見が聞けるというのが割と文学部特有だと思うんですけれども。

学長
国の違う人々とコミュニケートするのは、人間を大きくするには極めて自然なことで、そういう意味で、どんどん留学生が増えてくる努力をこれから熊本大学は絶対すべきだと思います。そんなに早いこと、こういう進路に進もうとか、こういう人間になるということを考えないようにすべきです。逆手に取ってください。60年間これからどうやって生きて行こうかと後ろ向きに悩むのでなく、まだ60年もあるんだと前向きに悩むことが大事です。偉そうに私なんかが皆さんの前でしゃべっているけど、まだ悩んでいますよ。あなた達と等価の悩みを今でも持っています。振り返ってみると、本当に安穏にしておれるだけのことをしてきたんだろうかとかね。

司会
はい、ありがとうございます。学長先生青春まっただ中ということでしょうか。じゃ、次。

学部2年
僕は茨城県出身で奈良県育ちなんですけど、高校は大阪で、熊大を選ぶ時にもいろんな他の大学との比較の中で選んできたんです。そういうことをみんなに言うと、僕が比較した大学のことを皆どこにあるのか知らない、あることも知らなかったとかいうんです。

他の大学に入る人はいろんな選択肢の中から入ってくるのに、熊大に入ってくるのは九州の人がほとんどで、しかも他の大学を知らずに入ってくるというのは、ちょっと損をしていると思うんです。熊大の良さをもっと知るためにも、もっと他の大学のことをよく知っている人がいっぱいいた方がいいんじゃないかと思うんですけどどうでしょうか。

学長
それは、皆さんの勉学の手助けする我々にも言えることであります。できるだけ人や他の大学を知る。そのために大学としていい意味のPRを特にしていかなければいけません。これから大学を目指そうとする若者たちに、いい大学はこういう大学であるということが、鮮明に分かるような努力を大学側はすべきだと思うし、あなたのような考え方は非常に素晴らしく、今日何人かの話を聞いて私はだんだん嬉しくなりました。熊本大学には素晴らしい学生諸君がいる。それで、入ったからにはやっぱり大学を愛して欲しい。極端な言い方をしたら、一人一人が学長になって、そして、自分が学長だったらこの大学をこういう風にしたいという思いで日々を過ごしていただきたいと思います。

私は、長期の留学経験はありませんけれども、幸いにして現在まで42か国を尋ねております。それで、外国人と接するたびに思うことは、しっかりと日本人としてのアイデンティティを持つことである。いかに外国語が堪能に話せてもそれがな無かったら外国の人は尊敬してくれません。とつとつとした言葉であってもなるほど日本人だと思うと必ず尊敬してくれます。

司会
はい、それじゃ次。

学部2年
学業の方は置いといて、サークルのことを聞こうかなと思って来ました。今、音楽系のサークルに入っていますけど、やっぱり大学って学術と文化という意味では分かるけども、サークルなども大切かなと思います。熊大に所属しているなら熊大にも還元したいのに、実際コンサートなどやるときには県立劇場まで行ったり、そういう状況で苦々しく思ったり、入学式などもできれば学内でやりたいという気がするんですけど。その辺の印象について学長にお伺いしたい。

学長
あの、そういう意味では、日本の国立大学は、一般にそういう環境は極めて貧弱であります。例えばアメリカの大学ですとね、10万人位入るアメリカンフットボール競技場があります。どうしてそういうことが日本の大学でできないかというと、人々の間に大学に対する思い入れがそれほど強くない。文化が欠落している。外国は、卒業生がよってたかって、例えば音楽堂が必要だとなれば、それを実現すべく努力してくれます。大学に作られたアメリカンフットボールなどの競技場は入場料を取っている。一旦できちゃうと儲かるんです。それが大学の基金になって発展していくのです。そういうシステムが日本に無いということがあなたの言った環境整備とも関連するのです。

それから文部科学省には、従来、大学に講堂は作らないという方針があります。なぜかというと講堂はしょっちゅう使わないでしょう。しかしそんなこと言っていたらいつまでたっても我々の環境整備はできません。それでも、私は頑張りたい。サークル活動は大変大事だと思うから。

また、文化系サークル部室は極めてみすぼらしかった。それで私は、何とかしないといけない思って、事務の方々の尻をたたいてかろうじて今ある文化系サークル棟ができた。今度運動部のサークルも嵐でつぶれ、あれを復興するのにも2年かかりました。私はあなたのおっしゃったことは、極めて大事であるということは十分理解しているつもりです。大いにサークル活動をやってください。文学部・法学部には階段教室があるじゃないですか、そこで、演奏会をしてみようと学生諸君が企画して、そういうときに文学部長がけしからんとはおっしゃらないでしょう。そういうアクティブな活動を是非して欲しい。

司会
それじゃ、次。

学部4年
この学長懇談会ですごく聞きたいことがいっぱいあるんですけど、時間が無いんで5点ほど短くまとめて、その中で一番興味あられることを答えてもらってよろしいでしょうか。

まず1番目は、学長のお仕事ってなあに? ということ。具体的にどういうお仕事をされているのか、例えば学長室がどこにあるのか。また熊大のホームページで、もっと学長と意見交換できる掲示板などあるといいなと思ったのが1番目の点です。

2番目が学長選挙というと理系の教授が出やすいという話を聞いたんですけど、その噂は本当ですか。

3番目は、大学の学長選挙でも、教授とかの選考で生徒の意見を聞くような制度について、どう思われるんでしょうか。

4番目は、学長として熊大をどのようにしていきたいのか。例えばこのような懇談会を開かれたことにも学生からの意見を聞きたいという学長の意志が反映されていると思うんです。平成8年から今まで5年間、進路付けはあったと思うんですけど、どのようにしていきたいかということに興味があります。

5番目が、1番興味あったのは、大学のお金ってどこ行ってるの? 年間48万円払ってるけどそれがどう使われているのかよく分からない。会計監査などどこに申し込めば詳しい資料を見れるのか、みんな興味を持ってないから表に出てきてないのか、よく分かんないんですけど。この5点です。

学長
分かりました。5分位で答えられるかな。学長の仕事。学長室は街道を隔てて3階建てのグレーの建物ありますね、事務局ですけど、あそこの2階の東側の端にあるんです。学長の職務というのは、一言で言うと非常に雑多です。なんと説明したらいいでしょうね。まず、対外的なことがあるんです。

学部4年
よく外に行かれてるんですか。講演会とか。

学長
講演会なんてやる時間は別で、例えば熊本県の審議会とか産業界とかの地域に協力する、様々な委員会が30位ある。それから、いま国立大学が法人化されるとかどうとか騒ぎがあるでしょ、そういうことを審議する2つの委員会の委員として度々東京に出掛けねばなりません。学内では評議会とか運営会議とか、大学の運営、大学を維持するための必要な会議を主宰いたします。また、いろんな委員会が大学にあります。その委員会をできるだけ減らそうと努力しておりますが、いまでも50位の委員会があります。その委員長さんの報告を聞いて、意見を求められます。事務局の職員の皆さんと大学運営について相談します。

それから書類の決裁をいたします。また、しばしば、先生方が主催される学会や国際会議に出席を求められます。そいう職務でございます。それからホームページの件、あれは可能な限り努力したいと思います。ただ、私のところにくる手紙というのは極めて多様でありますので、学生諸君と話ができる安全な方法で掲示板を作りませんか。

学部4年
SOSEKIの中に作るのは。

学長
SOSEKIの中にね、努力して考えてみます。それから2番目の学長選挙。学長選挙と先生方の選考とはちょっと別でして、学長は選挙である限り、母集団の多い方が確実に有利です。そもそも問題なのは、大きな学部だからといって、あるいは、小さな学部だからほんとに学長に相応しい人がいらっしゃらないということは絶対ないはずです。学長の選考規程を絶対に健康的にすべきで、本当に選挙がいいのか、選挙以外の方法はないのか、学生諸君の代表にも選挙権を与えるかそうか、評議員の先生方に考えてもらいたい。

それから3番目、先生方の選考について、学生の表現の仕方は有り得ると思いますが、人気なんかで先生を選ばれたらとんでもないことも起こります。4番目の熊大をどのようにもっていきたいかということですが、一言で言います。熊本大学は、名実ともにしっかりした大学院をまず構築して、それを支える本当に機能的な学部をこじんまりと持つような大学にもっていきたい。

学部4年
具体的な例としては。

学長
具体的なそれに見合う大学は世の中に在るかと言われれば、無いんですよ。大学というのは、地域化と同時に国際化が同時平行に進んでいる。これからわざわざ東京に行かなくても、世界中の大学、ハーバード大学でもコロンビア大学でも、どこの授業だって聞ける世の中になったんです。

学部4年
総合大学だから特徴がぼけそうだなと思っているんですけど。

学長
いや、総合大学でも特徴はぼけません。これから例えば生命科学というのはものすごく大事です。生命、ライフというのは半分以上は人文社会学系の領域が担っています。だから文学部の役割は大きいのです。そのように考えれば、環境問題も含めた生命科学を中心に十分特化できる。最後の5番目、大学のお金の使われ方、私自身も分からない。それがどのように使われているかぐらいは、学生自身知っててもいいんじゃないでしょうか。

ただ、40数万円の皆さんの授業料は、全部の学部をならして平均的に学生ひとりひとりに要する経費の20数%ぐらいです。あとの経費は、国立大学は税金を使っているわけです。熊本大学は附属病院がありますから、附属病院の収入、それは一度国庫に入って、それで必要経費が別に予算で配当される。

だから皆さんの授業料と附属病院の収入を合計すると、経費の45%ぐらい。あとの55%はやはり税金をいただかなくてはならない。そういうことであります。その程度のことしか現時点では。

学部4年
思い違いをしてました。それだったらその残りのお金をもっと知っておくべきだったなとちょっと今反省しました。

学長
それで、フランス、ドイツ、英国、これらの国々の大学はほとんど国立大学と言ってよいのですが、国立大学は授業料は取りません。もっとも、英国は2年前まで授業料は取らなかったけれども、いよいよ国が貧乏であるということで2年前から授業料として設定されている額のうち18万円だけを学生から徴収している。あとは国が補助している。

それは、国立大学は将来を含めて国の非常に大切な教育機関である。大学に学ぶ人たちは国際的にも活躍してもらわなければならないこと、20年、30年先々の社会が必要とする智恵を一生懸命蓄えて、それを使っていただけるように発信をするということ、また、高等教育の機会均等という役割がある。それで、今申し上げた国々は、そういうのは国が面倒みて当然であるという考え方持っているのです。

司会
じゃ、次。

学部4年
僕が学長に聞きたかったのは、結構あったんですけど時間がないので、1点だけにしたいと思います。先ほどの話でITのことが出まして、学長からパソコンが使えて、できればソフトを組めるそういう文学部を作っていきたいと。

学長
全体をね。そういう教育環境を作ることが必要だということ。

学部4年
ただ、文学部にきてまず思っていることは、やはり、コンピューター絡みの設備が貧弱だということを非常に感じています。いまだに使っているのが5~6年前のパソコンを使ってますし、それからネットワーク関係も結局、九州大学のサーバーを使って外に出るということをよく聞きます。そういうネットワーク設備に関して、今後どういうような。

学長
熊本大学は、総合情報処理センターというのがありまして、よその大学の施設を使う必要はありません。いまの機器の問題は、古くなったから買い換えるというのではなくて、大学で必要とするハードウェアをレンタルで借用する、それで古くなったら自動的にレンタル会社と提携を結んで換えていただく、というようなことをこれから考えていくべきです。昔は、レンタルの予算を、文部科学省は認めなかったんです。だけど、今は規制が緩和されたようです。これからそういう方法も射程に入れて、全学レベルで検討して、副学長が大変ご苦労なさって、私のところにこういう風にしなさいという方針をいただきました。

司会
はい、じゃ。

学部3年
今回僕は、学長の学生時代の頃の話をちょっとお聞きしたいなと思ったんです。学業以外の日常の生活、学業以外の部分で、どんな生活されていたのかなと。

学長 分かりました。私は、運動が好きでした。ラグビーを中学校2年生から大学院を通じてやっておりました。それで、国際審判員の資格も持っております。40歳まで、ゲームには出なかったけど審判をしておりました。勉学は、当時、名古屋大学理学部は東山というところにありましたが、そのグランドはそこから4キロほど離れたところにありましたので、講義が終わったら自転車でグランドに行って、練習が済んだらもう一度キャンパスに戻って、実験をするという、そういう生活をしていました。

結構遊びもしておりました。大学院を終えてしばらくは、失恋めいたことも経験しました。僕の実験材料はイモリです。父から「おまえはイモリ研究以外に、もうちょっと女性を研究せい。」とこういう風にしかられもしました。酒場から大学に通っていた時期もございました。

司会
はい、青春の話も。じゃ、次。

修士2年
私達の考古学研究室というのは、僕たちの考古学で収集した遺物の収納と遺物を分析する場所が必要なので、これまでは赤煉瓦の建物を使わせてもらっていたわけです。学長ご存知のように今年に入って博物館を作るという理由で、突如立ち退きを命じられまして、準備をしているわけです。立ち退いた後のわれわれの遺物の保管場所と分析する場所が非常に困っておりまして、今、先生方が非常に頑張ってもらって、工学部の1部屋を与えてもらったんです。これまで、その部屋だけで、5つか6つの部屋があったのですが、その代わりの1部屋というのは割に合っていませんで、特に遺物を収納してしまうとそれで終わりでして、分析する場所が無いんです。

我々は、日常に、学習したくてもできないという環境に置かれてまして、先ほどの話がありましたけど、学生が学習できないというこの環境について、どのように学長はお考えなのでしょうか。

学長
はい、そりゃもう絶対に改善を要しますね。五高記念館の中で考古学の先生方が資料室として、幾つかを使われておられるというのは知っております。今、君は突如とおっしゃったけどもあれは非常に長い間時間をかけて、文化財として適切にきっちりとしていかなければならないということ。工学部にも同じ文化財の、実験工場があります。そういうのを種にして、将来、大学の博物館、研究博物館などを作っていくということが、先生方のアイディアとしてかねがね言われており、非常にいいことです。

そのためには、名実共に資料館としての機能を五高記念館に付与しなければいけません。そのうちに移動するということでは、容易にことが進みませんので、先生方と相談して、なんとか腹を決めていただき、とにかく移動していただいた。それで私が聞いている限りでは、先生方と施設の話し合いで工学部の跡地を代替として与えられたというように理解している。早速調査してみましょう。

修士2年
お願いします。資料がですね、文化財としての価値があるので。

学長
それで、ほんとに文化財を提供していただいて、ほんとに文化財として価値があるものをセレクトして、もう一度資料館に納めていただくということが非常に大事だと思いますね。

修士2年
そうだと思うんです。僕たちが一番申したいのは、学長にその場所を、なんとか与えていただきたいと思います。

学長
一度、現場を見せていただいて、早急に考えてみます。

司会
はい、じゃ次、時間も時間ですので。

修士1年
あの、もし、また時間があれば学長室にも行って話したいぐらいのことは。

学長
それはいいですよ。それと、せめて2時間ぐらい欲しいですね。昼の時間というと、1時間ぐらいしかとれないので、今日の経験に照らして皆さんが、5時とか講義が終わった後でも良ければ、この日何人かの学生が是非学長と話をしたいということになったので、時間は有りますかということを言ってきてください。そういうことを私の方から提案させていただきます。

その時に、今日のように先生方とか、学生部の事務の方にも来ていただいてということになると容易なことではないので、都合のつく人だけが来るということでよければ、そんなに苦労しなくても時間は作れると思います。

修士1年
私は、神戸市出身で、神戸からなぜ熊本大学に来ようと思ったかといいますと、私、中学校のころからずっと考古学に興味あって、高校の時に震災に遭って文化財の復興を、委員会などで見せてもらって、それで京都大学の先生に話しを聞いたことあったんです。その時、変に君のような中学校くらいからやっている子に限って、大学入ったら実情知って辞めて行くんだよね、とか言われそれが悔しくて、高校3年生の時に考古学が絶対勉強したいんですけど大学どこがいいですかと相談したんです。そしたら高校の歴史の先生も一緒になって、話してもらって熊本大学だったら対応できると言われて、頑張って熊本大学に来ました。

熊大で、つまり先生方の講義とか先生方はすごく充実していると思うんですが、気になることはハード面がすごく弱いと思っているんです。先ほどネットワーク関係のことを言われた方がいらっしゃいますけど、ネットワークはだいぶん改善されたということなんです。それは、熊本大学でこんなIDカード使っている大学は他に比べてありません。KUICといって大学のネットワークは、私が1年生のころは九大程度でしたけど、学術関係のSINETは熊本系統から出ていますが、だいぶ改善されていると思います。

だけど、IT関係は改善されているかもしれませんけど、例えば文学部でいうと図書、教室利用、時間制限、それから私達が勉強する環境というのは以外とご存知ないかもしれません。具体的に言いますと私達考古学教室の学生は学生主体の勉強会というのを定期的に開いています。そういう時に、教室をお借りしたいというお願いをしたことがあるんです。その時に文学部には教室はありませんと言われ、しかたなく大教センターに行きましたら、文学部の学生に貸す教室は無いと言われました。それで文学部の事務の方にご尽力いただき、大教センターの方に私が責任をとるから学生に貸してやってくれとまで言ってくださって、やっと、教室を借りることができたんです。

つまり、文学部の教室が無くなったにもかかわらず、その代わり大教センターの教室が使えないのは。さらに、申し上げるともう一つ大学院生、社会人学生というのが増え、地域との中で社会人の方がもっぱら大学に勉強しに来ることがあるんですけども、文学部というのは夜10時になったら出ていかなければいけないという決まりになっております。

社会人の大学院生がおり、そこで時間が夜10時までといいますと仕事が終わってから大学に来られるわけですから、ほとんど勉強ができないんじゃないかと思うんです。この時間制限、この学部間の格差がなぜこのように生じているのかというのが、私の疑問でして、本当に社会人を含めた生涯学習を考えていくならば、時間にとらわれない、本当にグローバルなものが必要じゃないかと思います。簡潔にまとめるとこいうことです。

学長
文学部の建物というのは、例えば玄関の入口はカードで出入りできるんですか。

司会
できるようになってますけど、夜10時でロックされ外からは入れない。それで学生が届出をすれば遅くまでおれる。教官とかはカードを付与されています。

学長
このごろ、大学や学校は、非常に危険が進んでおり、増え続けている。そういう安全をいかにクリアするかということが大変でして、今のあなたの指摘は努力によって改善できる。それで大教センターを改修した理由は、講義の場をできるだけ増やして、学生諸君にも自由に使えるようにするためです。それが自由に使えないということが事実だとしたら、再度抜本的に考え直してみます。

司会
今日はありがとうございます。一巡しまして、時間10分ほど過ぎましました。ほんとは一巡した後で少し話をしてもらいたいと思ってたんですけども、時間的な余裕がないので。

学長
これからこういうのをたび重ねることにいたしましょう。

司会
今、学長が言われましたように、学生の方で、学長と話をしたいということがあれば、それを決めて、総務や教務に申し込んで時間を設定してもらって、アグレッシブになればいいと思います。学生部にも言ってもらって。当然、そういうシステムがある、チャンスがあるんだということを学生自身が知ってもらうことが、一番大事ではないかと思いますので、みんなの口から言ってください。今日は本当にありがとうございました。

副学長
学生部と一般に言っても皆さん分からないので、学生部学生課というところに連絡をとってください。

学生課長
大教センター棟を入って一階左側の部屋です。

学長
そういうところにも、どんどん顔を出してください。皆さん自身の学ぶ場所なので。少し時間をいただいて一つエピソードを話しすると、私が6年前にフランスの学会に呼ばれて、パリ大学に滞在していた時に学生食堂に行きました。日本の留学生も来ていた。

その学生が私のところにきて、相談があると言い、どういう相談かと言ったら、フランス政府からの給費学生で、来て半年になるけれどもフランス政府からお金が全然いただけないのです。と言うので、君手続き取ったのと言ったら、何も連絡ありませんと言うので、この国は、学生が自ら出かけて行って、日本から来た者だと言わない限り、絶対大学から連絡はありませんよ、と言って事務室に学生を連れて行って、もう半年たっているけどもといったら、書類をめくって、その書類が一番最後から出てきて、サインするだけで済んだ。

何が言いたいかというと、日本は何でも大学から連絡来るでしょ。フランスの学生はそれほど主体性を発揮しなければ、お金も来ないという訓練を受けているわけです。そういう積極的なところを是非とも学んでください。積極的に大学がどうなってるかということを自ら調べていただきたいということを最後に申し上げます。どうも今日はありがとうございました。

司会
どうも本当に、ありがとうございました。今日は私達教官の方にも非常にためになる、有意義な時間をありがとうございました。

お問い合わせ
経営企画本部 秘書室
096-342-3206