CO2循環システムで、「エネルギーの地産地消」の実現を目指す

産業ナノマテリアル研究所 國武研究室

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研究紹介 ―大気中のCOを直接回収し、地球温暖化の抑止へ―

1.jpg 熊本大学の産業ナノマテリアル研究所は、20204月に設立された新しい研究所で、極めて薄い素材であるナノシートの研究や、爆発の衝撃などのパルスパワーを利用した研究を行っています。特にナノシートは、最先端の太陽光水素製造、二酸化炭素分離膜、水の淡水化膜、燃料電池、次世代リチウム二次電池、電子デバイス、抗菌材料など、カーボンニュートラル社会や持続可能社会を実現するための材料として研究が進んでいます。

 また、本研究所の國武雅司教授の研究室は、九州大学を中心とする「“ビヨンド・ゼロ”社会実現に向けたCO₂循環システムの研究開発」に参画しています。本プロジェクトは、2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現することを目指して研究開発を行うプロジェクトで、政府主導の大型研究プロジェクトである「ムーンショット型研究開発事業」の一つに採択されています。

 地球温暖化の抑止のためには、温室効果ガスである二酸化炭素(CO₂)の排出量を削減するだけでなく、大気中に既に排出されたCO₂も削減する必要があります。本研究室が参画するプロジェクトは、CO₂を大気から直接回収する技術と、回収したCO₂から燃料を作り出す技術を開発することによって、環境への負担が少ない新しい循環型エネルギーシステムを生み出すことを目指しています。その中でも、本研究室は特に、大気からCO₂だけを選択的に通す、非常に薄いポリマー薄膜の開発研究に挑戦しています。ここでいう膜とは、エアーフィルターのようなもので、設置の場所やサイズを選ばず、機能するための大きなエネルギーも必要としません。家庭用クーラーの室外機サイズの装置が開発できれば、各家庭でCO₂を回収し、そのまま燃料とする“エネルギーの地産地消(その場で生産、その場で利用)”が可能になると期待されています。

 本プロジェクトを通して、エネルギー問題、環境問題を解決し、日々の生活、社会構造を根本から全く変えられるような夢の材料開発を目指して挑み続けています。

 ※事業・研究の詳細はこちら→ http://www.iina.kumamoto-u.ac.jp/

研究者へのインタビュー -SDGsを実現するために-

2.jpg産業ナノマテリアル研究所 國武 雅司 教授

  •  CO₂循環システムの開発にあたっての課題を教えてください。

 3.jpg今回のプロジェクトで本研究室が目指すのは、CO₂回収技術の中では世界でも珍しい、膜分離によるCO₂濃縮回収技術の開発です。CO₂回収技術としては、排ガスに含まれるCO₂をアルカリ性溶液に吸収させ、分離・回収する「化学吸収法」が多く用いられていますが、今回のプロジェクトでは、空気中に僅か0.04%しか存在しないCO₂だけを選択的に透過・濃縮させるポリマー薄膜の開発に挑戦しています。その中で課題となるのが、材料に求める条件であるCO₂の選択性と透過性というトレードオフ関係の克服です。一般的に透過では、選択性を高めると透過性が下がり、透過性を上げると選択性が下がるという相反関係があります。ナノメートルオーダーの超薄膜を用いてCO₂の透過速度を上げつつ、選択性も向上させることにチャレンジしています。

 また、本プロジェクトでは、技術の開発だけでなく社会実装までをミッションとしているため、ライフサイクルアセスメント(LCA)によるライフサイクル全体の環境負荷の評価も求められています。開発から社会実装、さらに持続可能性までを統合的に見据えて研究開発を行うことが求められています。

  • 本プロジェクトの総合的な取組により、どのような地球的課題の解決を目指していますか?4.jpg

 大気中のCO₂濃度を低下させ、地球温暖化を抑止することは、人類の共通課題です。本プロジェクトでは、“ビヨンド・ゼロ”というキーワードの下、地球温暖化の主たる原因であるCO₂の排出を削減するだけでなく、CO₂を回収し、そこからエネルギーを生み出して循環させるシステムの構築を目指しています。

 大規模な工場等、CO₂濃度が高い場でのCO₂回収は、既存の大規模技術でも対応できますが、実は、一般家庭のように、比較的CO₂濃度が低い場におけるCO₂回収技術を開発するのは非常にハードルが高いことです。本プロジェクトでは、そのように既存の技術が目を向けていないところに目を向け、一般家庭を含むあらゆる場での“エネルギーの地産地消”を実現することで、持続可能なエネルギーロバスト(robust、堅牢)社会を構築できると考えています。