有明海・八代海が有す生物多様性保全と海洋資源の持続的利用の共存の糸口を見出す

くまもと水循環・減災研究教育センター沿岸環境部門 合津マリンステーション

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研究紹介 ―干潟浅海域における生物多様性の解明と保全―

1.jpg 合津マリンステーションは、1954(昭和29)年に理学部附属臨海実験所として発足し、沿岸域環境科学教育研究センターの設置に伴い名称が変更され、現在は、20174月に発足した、くまもと水循環・減災研究教育センター 沿岸環境部門の所管となっています。

 当施設は、雲仙天草国立公園に含まれる景勝地・天草松島にある天草五号橋(松島橋)のたもとに位置しており、有明海の湾口部に近い当施設の西側には、カキなどの固着性生物が見られる岩礁・転石帯、東側の八代海湾奧部にはムツゴロウやヤマトオサガニなどが多数生息する軟泥質の干潟や、藻場、海草場が広がっています。有明海・八代海は、国内最大面積の干潟・浅海域を有しているほか、日本でも有数の内湾で、干満の差が約6mと大きいという特徴があります。顕著な潮位差によって当施設周辺の海域には、様々な種や漁獲対象種(貝類や海藻類、魚類など)が生息生育する“場”(干潟・磯・海藻場・海草場)が点在することで、高い生物多様性が維持されています。

 当施設では、各「場」の生態系(局所生態系)の変動を生物多様性の観点からモニタリングすることで、環境変化による生態系への影響を評価する研究にも従事しております。また、各地で絶滅が危惧されるほど漁獲量が激減しているハマグリについて、東アジアにおける本種の生息状況を明らかにするとともに、激減の原因解明と持続的資源保全のための基礎データ収集なども行っています。

 当施設の近隣には、「カニ類行動学の聖地」として世界的に知られる永浦干潟(Nagaura tidal flat)や、前期白亜紀の恐竜化石産地である御所浦島も存在します。恐竜だけでなく、アンモナイトやサンカクガイなど、地球全体が現在よりも極端に温室で、海水面が200mも高かった時代の化石を多産します。地球温室期の化石やそれらが含まれる地層は、現在進行中の地球温暖化に対してのメッセージです。私たちは現在の空間に地質学的な時間軸を加えた四次元的な地球観をとりいれた高度な環境教育を行っています。

 また、これらの地域の特性や最先端の統合型教育研究を可能にする設備と性能を備えた研究実習船等の設備を活かし、文部科学省の「教育関係共同利用拠点」として、学内外の学生の臨海実習、小・中・高校生や一般社会人への環境教育なども実施しています。

 ※事業・研究の詳細はこちら→ https://cwmd.kumamoto-u.ac.jp/marine/aizu_marine_station/
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研究者へのインタビュー -SDGsを実現するために-

5.pngくまもと水循環・減災研究教育センター 山田 勝雅 准教授

  • 本研究が地域の漁業・海洋資源保全にもたらす影響について教えてください。

 合津マリンステーションは、八代海と有明海の中間地点に位置しており、双方の海域の調査を行うのに適した立地となっています。私たちは両海域の生態系構造・特徴と水産資源の動態を理解し、それぞれの海域が有す利点と欠点を融合させることで、生物多様性の維持と漁業の両立を図る研究に積極的に取り組んでいます。

 例えば現在、有明海では、タイラギやアサリなどの貝類の漁獲量が減少しています。特に「ツルツル・シコシコ」と食感のよい貝柱である九州名産のタイラギについては、10年以上漁獲が禁止されている状況です。そこで私たちは、有明海の二枚貝資源回復のためにどのような方策が有効か見出すために、地域の大学(熊本県立大など)や自治体(県・市・漁協)と協力し、有明海の河口干潟のアサリの保護区の適地を画策するなど、漁業復活のための取組も行っています。

 生態系・生物多様性の維持なしには、漁業を持続させることはできません。大学の研究こそ、生物多様性・資源利用の双方にアプローチできる研究に取り組むことができます。私たちの研究は将来の生物多様性・漁業双方の維持に向けた重要な糸口になると考えています。

  • 本研究の総合的な取組により、どのような地球的課題の解決を目指していますか?4.jpg

 将来的には、わが国(有明海・八代海)の研究から得た知見を、途上国を初めとする海外の生態系・生物多様性の維持と効果的な水産資源利用に活かしたいと考えています。

 途上国では、戦後の日本と同様に、漁獲量ばかりが重視され、生態系・生物多様性の重要性に関する認識が不足しています。これまでの経験により得た知見やノウハウを海外に伝えることで、世界全体の海洋資源保全と持続的な漁業の実現に繋げることができると考えております。そのような視点をもとに、既に東南アジア等の西太平洋域の研究機関や大学との共同研究も進めているところです。

 また、日本国内においても、まだ十分には生態系・生物多様性の重要性に関する理解が市民レベルで進んでいない現状があります。一方で、食に関連する水産資源では、「ここで魚が釣れる」「ここでアサリがたくさんいる」など理解が進んでいるという、生物多様性保全と水産資源利用の情報量と認識の「ギャップ」を感じることがしばしばあります。私たちは、より多くの方に水産資源利用における生物多様性保全の重要性を意識して考えていただけるよう、市民講座や子ども達の臨海学習など、生物多様性に関する教育機会を積極的に提供しています。