平成14年度熊本大学卒業式・修了式 式辞

熊本大学長 崎元達郎 本日、ここに、ご来賓及び名誉教授の諸先生方のご臨席を賜り、部局長と共に、平成十四年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。

医療技術短期大学部にあっては三年間、他の学部にあっては四年間、医学部にあっては六年間、また、大学院に進まれた人たちは更に、数年間を本学にて修業され、晴れて本日のこの式典に臨むことができますのは、皆さん自身の努力と研鑽の賜物であり、深く敬意を表します。

中でも病気等の避けられない事情、あるいは、熊本大学への強い愛着のため規定の年数以上に在学された方々、そして母国の期待を担い、本学での留学を立派に全(まっと)うされた留学生諸君にとっては、感慨もひとしおと推察いたします。

諸君の今日がありますのは、教職員や先輩諸氏の温かな指導・助言、ご家族や学友の協力と励ましなどの力添えがあったからであることをこの機会に改めて肝に銘じていただき、感謝の気持ちを持っていただきたいと思います。

そこで、僭越で押し付けがましいのですが、ここで十秒の時間を皆さんに差し上げますので、目を閉じて皆さんがお世話になった人々の顔を思いおこしてください。
どうぞ!( 10秒間 )

ありがとうございました。 そして、今皆さんが最初に思い浮かべた方々、おそらく学費等の経済的支援を受けたお父様、お母様をはじめとする保護者の方々が多いと思いますが、その方々に、卒業証書・学位記をお見せして、"ありがとうございました"と口に出して、感謝の意を表すことをお願いいたします。

私としましても、これまで皆さんを深い慈愛によってお支え下さったご家族をはじめ、惜しみないご指導ご助言を給わった教職員、諸先輩各位に対し、衷心より深く感謝申し上げます。

人間というのは、ほかの動物に比較すると巣立ちまでの時間をもっとも永く必要とする動物であります。つまり、皆さんは人生のほぼ三分の一に相当する年数を巣立ちのための準備に費やした訳で、その重さに思いをいたすべきです。

皆さんは、自分のやりたいことや夢を実現するために、"未来を生き抜く力"の基礎を本学で養ってこられました。"未来を生き抜く力"の基礎は、教養と専門的な知識・技術そして"自ら考える力"であります。残念ながら、皆さんが得られた知識や技術のほうは、十年と持たないと思われます。大学で得た知識や技術が有効な今からの十年程の間に、大学で得た"自ら学習する力"を発揮して、次の十年のために努力することを忘れてはいけません。

また、世の中の変化に伴って、判断基準、価値観も変動しますので、それに敏感に反応し、良き社会になるために何が求められているか、日本の国は如何にあるべきか、今なお、紛争の続く世界の中にあって人類の健全な発展の為に何をなすべきかといった課題のために、自ら考える力を発揮していただきたいと思います。その意味では、本日の卒業式・修了式は「学が終わった」ということではなく、卒業式をさす英語commencementの意味する「事の始まりのための式」であると理解するのが妥当であると思います。

考えてみますと今日まで、人生の三分の一の永きにわたって、皆さんは、もっぱら愛を受ける側であったと思います。本日のこの巣立ちの日を境として、愛を注ぐ人、与える人になるべく努力して下さい。

このことは、以下のことで成し遂げられます。

自らが選んだ道において熊本大学で培った力を発揮し、豊かな文化を育むより良き社会の構築、少子高齢化社会における医療と福祉、環境を重視した科学技術による経済の再建、等に貢献することです。

家庭や地域の一員としてその責任を果たすことも重要です。中でも、子どもを全うに育てるというのは、重要な仕事です。子どもは未来です。皆さんとその子どもたちが二十一世紀を支えねばなりません。戦後のベビーブームによる人口増が日本の高度成長を支えたのは、歴史的事実でありますので、皆様の子どもを健やかに育てることが二十一世紀の日本のために非常に重要となることを申し上げておきます。

今、皆さんは一抹の不安とともに前途に対する大きな希望に胸を膨らませておられると思います。しかし、厳しい世の中の荒波や矛盾に直面し、絶望に陥ることもあるでしょう。

その対処法を二つ申し上げます。そのひとつは、精神的安全弁を用意しておくことです。例えば、"人間は完全ではない""自分の命、人の命のほかに大事なものは何も無い"と自分に言い聞かせることなどです。もう一つは、あるがままのあなたを愛してくれる伴侶、家族、親友を持つことであります。

皆さんに"Smell the flower"という言葉を贈ります。皆さんは初夏の楠の若葉の鮮烈な緑、秋のイチョウの鮮やかな黄葉を見ることができる森の都"熊本"の豊かな自然の中で、この数年を過ごされました。しかし、多くの皆さんが働かれる地は大都市が多く、身近な自然を期待できません。あくせくした世の中に埋没せずに"Smell the flower"花の香りをかぐ余裕を持って人生をenjoyすることも忘れないでください。

どうしても大きな自然が恋しいときは熊本の地を訪れて大学に立ち寄ってください。

ご存知かと思いますが、熊本大学も平成十六年度より、国立大学法人となることが予定されております。すなわち、厳しい、競争的環境に置かれることになるわけですが、国立大学法人"熊本大学"の充実と発展は、教職員の決意と努力だけで成し遂げられるものではなく、皆さんを含む卒業生・修了生のご理解とご支援が是非必要であると考えております。具体的には、機会あるごとに研究室の先生を訪ねてお話ししていただいたり、後輩に特別講演等を通じてアドバイスをしていただいたり、大学評価に対する卒業生アンケートやインタビューに積極的に協力していただくことをお願いしたいと思います。

最後に、自分自身、家族、友人、その他の人々、世界の人々そして、社会や自然への愛を力にして、高い志を持続し、その実現を果たし、"死を迎えた時に納得し、満足できるような充実した人生"を歩まれますよう期待しています。

以上、学部卒業生1,797名、教育学部特別専攻科・別科修了生49名、医療技術短期大学部本科卒業生148名専攻科修了生20名、大学院修士(博士前期)課程修了生553名、大学院博士(博士後期)課程修了生75名、総勢【2642名(内、留学生35名)】の皆さん一人ひとりに、熊本大学を代表し、皆さんの前途洋々たる船出を祝う言葉といたします。おめでとう!



熊本大学長
崎元達郎




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