平成14年度入学式 式辞
本日ここに、部局長、教職員各位と共に一堂に集い、熊本大学第54回入学式を医療技術短期大学部第26回入学式と合わせ執り行うことができますことは、本学にとりまして最も誇らしく喜ばしいことであります。熊本大学を代表し、大学院学生及び諸外国から本学を選択された留学生諸君を加え、2692名の志を胸に秘めた青春の気みなぎる皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。
また、人生の転機でもある本日を、皆さんがつつがなく迎えることができましたのは、これまでの皆さんの研鑽と努力を支え励まし、皆さんを本学にお送り下さったご両親及びご家族はもとより、皆さんの勉学生活を通じ、常日頃ご助力下さった先生方や諸先輩、さらには共に将来について語らい努力を競い合った学友たち、数知れぬ方々の温かなお力添えの賜物であります。ここに皆さんに成り代わり、敬服の念を込めて深く感謝し心からお慶び申し上げます。
本学は、太平洋戦争後間もなく実行されました教育改革により、1949年に法文学、教育学、理学、医学、薬学、工学の六学部からなる一国立大学として創設され、幾度もの変革を重ねて発展を遂げてきました。平成14年度には、人文社会科学大学院博士後期課程と四カ年の大学を終え更に幅広く医科学について学ぼうと志す人たちのための医科学修士課程大学院を発足させることができました。これにより、本学は今日、文学、法学、教育学、理学、医学、薬学、工学の7学部と7つの大学院研究科、さらには、発生研究と再生研究の領域で国際的に活躍しつつある発生医学研究センターをはじめ、教育と研究を支える十四もの大学附置のセンター及び施設を擁する、名実共に総合大学にまで充実され、我が国の高等教育、科学と技術の発展に貢献しているのであります。
ただいま紹介しました如く、本学の大学としての歴史は決して古くなく、漸く50年余を経たに過ぎません。しかし、各学部の沿革を辿りますと、本学は、明治中期以降の日本の高等教育を担ってきた熊本医科大学、第五高等学校、熊本工業専門学校及び同薬学専門学校、それに、熊本師範学校及び同青年師範学校が再編統合された学舎であることが理解できましょう。また、数多くの国家的指導者を輩出させた第五高等学校の美しいレンガ造りの校舎や、高等工業学校の実験工場が国の重要文化財として、100年以上を経た今日に至るも、そのままの姿でキャンパス内に保存されていることからも、我が国では非常に古いこれらの学び舎の伝統を継承した本学の歴史を、容易に想い知ることができます。
本日から本学の一員となられたからには、必ずこれらの建物に足を踏み入れ、かの寺田寅彦と夏目金之助(漱石)が如何にして出会い寅彦が漱石から何を学び取ったか、日本の文化を愛し世界に紹介したラフカディオ・ハーンが若者達に如何に英語を学ばせたか、さらにまた、自立自尊を重んじた学生達がどのようにして自己責任に基礎付けられた豊かな学園生活を謳歌したか、といったことを是非実感していただきたいと思うのであります。
時に、皆さんは今世紀第2年に熊本大学あるいは同大学院の学徒となられました。恐らく前世紀末には、世界中の心ある人々と同様に、20世紀百年の不遜で反省無き人類の営みを顧みて、それぞれに総括した上で、人類の至福とより健やかな発展を期待しつつ新世紀を迎えられたでありましょう。確かに、前20世紀は人類がひたすら物質文明を追い求めた100年でありました。可能な限りまで産業を興し、経済を発展せしめる一方では、不均衡な地域的格差やアンバランスな人口構成を生み、二度もの世界大戦と絶え間ない国際紛争や民族紛争の要因を現出してきました。ことに世紀後半では、このような人類総体としての営みは加速され、全ての生き物の揺籃であるべき地球の環境を回復不可能なまでに悪化させたのみならず、今や皆さんもつとに自覚しておられる様々な世界的問題を後世の人類に遺したのであります。
大きな期待を込めて世界中の人々が新世紀の到来を祝ったのが遠い昔に思えるほど、その初年度の秋には、善良な人々の期待を裏切るかのように、アメリカ合衆国のニューヨークとワシントンが未曾有の同時多発テロリズムに見舞われました。この悲惨な出来事の背景は実に根深く、20世紀人類の営みのひとつの帰結、あるいは、『文明の衝突』とも形容される克服が極めて困難な現代国際社会の大きな歪みに対する痛ましい問題提起と意義付けることもあながち不当とは言い切れません。現に、その影響がたちまち全世界に及び、国際社会の情勢は益々混迷の度を深めつつあることは否定すべくもありません。
一方、大学、ことに国立大学が置かれている現状に目を転じますと、これまた、ただいま述べました国際情勢に強く左右される我が国の経済及び社会の状況と決して無縁ではなく、国費によって営まれる国立大学には社会貢献が厳しく求められ、恐らく皆さんの本学在籍中に全ての国立大学が国立大学法人に変容するでありましょう。このことにつきましては、マスメディア等を通じ、皆さんも既によくご存じであろうと思いますが、早ければ2004年までに国立大学は法人格を付与された独立組織体として自律的かつ主体的に高等教育と研究を営むことになるということであります。と言ってしまえば簡単なことのようですが、決してそうではなく、本学にとりましても極めて過酷な自助努力が強いられるのであります。
巷間伝えられておりますように、2004年度に新しい法人体制が施行されるとすれば、今後2カ年足らずの間に、本学を、独立独歩にて“真の科学”と時々の社会の要請に応え得る“大学教育”を営み、国際的にも活力ある総合大学として認知されるような大学にするための基礎を確立しておくことが不可欠であるからであります。したがって、このような大きな変革の過程にあっては、時には学生諸君にも不測、不必要な影響が及ぶことも皆無ではあるまいと思慮いたします。しかし、このことにつきましては、今や皆さんにとりましてももはや決して他人事ではなく、本学の将来には大いに関心を寄せられ、自らの学び舎がよりよく発展し得るよう、常に積極的に対処していただきたいのであります。
期せずして、皆さんはこのように『学』内学に難題が山積する最中に本学にて学部学生あるいは大学院生としての修業を開始することとなりました。かつて山陰の尼子氏の勇将、山中鹿之助は不倶戴天の毛利軍に包囲され絶体絶命の窮地にありながら、一夜天を仰ぎ『我に七難八苦を与え給え』と念じ、毛利の大軍に一矢を報いたと伝えられています。皆さんが置かれている現状は非常に困難な状況でありますが、真の“叡智”と“勇気”とはそのような時にこそ発揮できるのでありましょう。時移れば人も世も変わりますが、人々や社会の将来に思いを馳せて、そのために何事かを為そうと励む若人たちの“志”と“気概”はいつの世も変わることはありません。そして、そのような若人たち、皆さんの努力を支えようと努める本学教職員の心根も不動であるに相違ないと、私は確信しております。
本日を期に、“志”と“希望”とを新たにし、自身の洞察力に根ざした課題を深く強く意識して、何事にも『一期一会』の気概にて勇気果断に対処することで、知力と体力と精神とを鍛え自己を高めていただきたく強く希望します。些事に拘泥することなく、あくまで若人らしく明るく大らかに、互いに他を尊重し慈しみ、日々、明日に希望をつなぎ得るような、悔いなき大学生活を達成されるよう切に願い、お祝いと歓迎の詞といたします。
おめでとう。
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