ビジネスの視点で仕掛ける学生たちのマーケティング

WEBマガジン「熊大なう。」

文学部コミュニケーション情報学科「鶴屋リボーンプロジェクト」

ターゲットを意識した企画づくり

image01.jpg 去る9月11日(水)、鶴屋百貨店の屋上に“子どもたちの王国”「スマイリア」がオープンし、オープニングイベントで未就学児童に向けたワークショップ「どうぶつの王国をつくろう!」が開催されました。子どもたちは、思いおもいに折り紙で動物を作ったり、ペーパークラフトにとっておきの色を塗ったりと、みんな生き生き。たくさんの紙工作の動物たちが、ジオラマの大地を埋め尽くし、世界にたった一つの“動物の王国”が完成すると、子どもたちから元気な歓声が上がりました。
ワークショップを企画・運営したのは熊本大学文学部コミュニケーション情報学科・江川良裕研究室のメンバー8人を中心とした同学科の有志たち。普段はコミュニケーションメディアやマーケティングなどを研究する面々が、企画立案からプレゼンテーション、実際の会場設営まで全て自分たちで手掛けた手作りのワークショップです。
きっかけは、鶴屋百貨店の人事担当者が採用活動の一環で本学を訪問したことでした。対応した江川先生が、「地域を代表する企業として、これまでの枠に捉われない新しいインターンをやってみませんか?」と提案し、当時目前に控えていたリニューアルなどを始めとした「鶴屋リボーンプロジェクト」に参加することが決まったのです。今回のイベントは、子どもフロアのリニューアルに合わせたものです。「学園祭など自分たちが楽しむためのイベントは、誰でもやっていること。しかし、ターゲットを意識し、フロアへの集客や長期的なブランディングをどう実現するか。そのストーリーを意識して仕掛けを考え、構築することが大切なんです」と江川先生。集客とブランディング、その二つのプレッシャーの中で、メンバーの試行錯誤が始まりました。

百貨店ビジネスの中のワークショップ

image02.jpg メンバーにとって何もかも初めての経験です。代表を務める4年・佐々木綾香さんは、「最初は、未就学児童がなぜターゲットになり得るのかさえ疑問でした。しかし、十年以上先を見据えて子どもたちを将来の顧客に育てるという話を聞いて、企業ってそんなに先のことまで考えているんだと驚きましたね」と語ります。さらに子どもたちを動かすことは、親世代やおじいちゃん、おばあちゃんが一緒に来店することにつながるというビジネスの視点を目の当たりにし、一同“顧客”というターゲットの存在を再認識。気を引き締めて企画づくりがスタートしました。
知育をテーマにワークショップを開催するというオーダーに加え、「郷土・熊本の人々に豊かな暮らしを届ける」という老舗百貨店の姿勢を伝えるブランディングの構築と、高いハードルを前にメンバーは試行錯誤の連続でした。
その中で生まれた“おそらのがっこう”というコンセプトは、将来の顧客育成の仕掛けの一つ。ゆくゆくは、学校というイメージで組織化し恒常的なイベントとすることで、子どもたちの“登校”を促してリピーターを創出するのが目的です。また、未就学児童にできることはどんなことか、子どもたちが飽きることなく楽しむにはどうしたらいいか。ターゲットを知ることが目的達成の第一歩なのだと気付いたと言います。「例えば、折り紙をやろうと言っても、未就学児童がどの程度できるのかさえ分かりません。そこで日本折紙協会熊本支部を訪ねて、適切な難易度のものを教えてもらったり、実際に自分たちで折ってみたりしながら、企画を詰めていきました」と佐々木さん。“ドキドキ、ワクワク”を創造する難しさに直面しながら、さまざまな気付きが彼ら自身の成長の糧となっていきました。

チーム力で社会貢献を目指す

image03.jpg そして晴れ渡る空の下、“おそらのがっこう”に15人の子どもたちが“登校”し、ワークショップがついにスタート!「自分が楽しみ、その楽しさを伝えたい」と語っていた4年・永田晃平さんの司会にも、子どもたちの反応は上々です。ペーパークラフトに向かい、一心に色を塗り続ける子や「あのね」と幼稚園での出来事を話してくれる子。積極的に作業に取り組む子どもたちの姿に一同胸をなでおろしました。
このワークショップを実現して、メンバーの誰もが痛感したのが、ビジネスの現場で必要なのはチーム力と一人一人の主体性。4年・鶴川成美さんは「受験勉強などは自分一人でがんばれば、それなりの成果を上げることができる。でも、仕事とはチームで成果を出して、価値を生み出していくことだとわかりました」と、ワークショップを振り返ります。
メンバーを時に叱ることもあるという江川先生は、「今の学生に欠けているのは、主体と成って考えること。人とどのように協力して課題解決や目的達成の仕方を自分で率先して考える力が不足していますね」と語ります。「大学は“習う場”ではなく、“自ら学ぶ場”なんです。私たちは、いろんな学びのための“材料”を与えることはできるけれど、そこから何をどう学ぶかは、自分たちに任されていることを意識してほしいですね」。
第1回ワークショップが終わり、次の企画は12月に開催する「キッチン・ツール・クリスマス楽団」。キッチン用品やリサイクル品を楽器にして、みんなでクリスマスソングを演奏する予定です。「反省点は山積みだし、企画自体もまだ不安な部分もあります」という佐々木さんの言葉にうなずくメンバーたち。1年のうちでも最も重要な商機にどのような仕掛けを打っていくか。一人一人が身に付けた“ビジネスの視点”を生かし、次のワークショップに向けた毎日が始まっています。

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(2013年11月5日掲載)

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