現代に重なる普遍的テーマを描く、シェイクスピアの世界

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社会的・文化的背景を分析して、文学作品を読む

image02.jpg 健児くん(以下:◆):先生が専門とされている「比較文学」ってどんな学問なんですか?
松岡:文学作品とは、いろんな影響関係の中で成立しているものです。例えば、私の専門はシェイクスピアですが、夏目漱石もシェイクスピアに大きく影響を受けたと言われていて、旧制第五高等学校(現・熊本大学)や帝国大学でシェイクスピアの講義を行っていますし、熊本を舞台にした小説『草枕』にも、シェイクスピアの『ハムレット』に影響を受けた部分がでてきます。漱石が演劇を書かなかったのは、シェイクスピアの作品を読んで諦めたからというエピソードもあります。このように、作品と作品、あるいは、作家と作家の影響関係、そういった文化的なコンテクストの中で文学作品を比較研究していくのが比較文学なんです。
◆:どうしてシェイクスピアを専門にされたんですか?
松岡:大学時代、いろんな文学作品を読み漁っていく中でシェイクスピアと出会いました。シェイクスピアの作品の迫力、ダイナミックさに惹かれました。また、在学中に1年間、ロンドンに遊学したのもきっかけの一つです。お芝居を見たりしている中で、シェイクスピアをもっと勉強したいと思ったんです。
◆:先生の思うシェイクスピアの魅力とは?
松岡:文学作品って基本的に暗いんです。しかし、シェイクスピアの場合、暗さもありますが、迫力もあり、あっけらかんとした明るさもあり…非常に懐の広い作家だと思い、はまっていきました。
シェイクスピアというと難解な古典だと思っている人が多いですが、実は、非常に現代性を持った作家なんです。例えば、四大悲劇と呼ばれている『リア王』は老人問題、『ハムレット』は精神の病、『マクベス』は野心と良心の呵責、『オセロ』は不倫妄想が扱われています。これらは現代でもニュースや週刊誌で目にしない日はないような問題ばかりですよね。普遍的なテーマで現代の私たちにも訴えかけてくるんです。
そんな現代的な作品を時代の社会的、文化的背景を理解した上で読み解くと、より理解が深まります。例えば、『ハムレット』では、オフィーリアという女性がハムレットに贈り物を返す場面があります。シェイクスピアの時代、贈り物をすることはプロポーズを意味していました。返すということは、結婚を断る、という意味なんです。また、ハムレットは父親の亡霊から復讐を命じられるのですが、なかなか行動を起こせません。それは、シェイクスピアの時代、プロテスタントでは亡霊は悪魔だと言われていたからです。このように、社会的・文化的背景を分析することで、我々には見えなくなっているシェイクスピアの面白さ、恐ろしさを明らかにしていくことができます。特に、魔術や占星術、錬金術などの思想体系や精神病や浮浪者問題といった社会的問題が作品の中にどう表象されているか、ということに深い関心があります。

教えることは学ぶこと

image03.jpg ◆:ところで、先生は、TOEICで満点を6回もとられているそうですね。
松岡:かれこれ15年ほど…前任の大学の頃から教養の授業をさせてもらっています。授業を始めたばかりの頃は、満点をとる前でした。教えるということは、受講生より高い視点で学ばないといけないので、授業がある度にそれを繰り返していました。すると自然と満点がとれるようになったんです。まさしく「教えることは学ぶこと」ということを実感しています。シェイクスピアの授業であっても知らないことがたくさんありますが、授業で教えるために、体系をまとめていくうちに、自分も学び成長できるんです。

「遊び」の視点をもって作品を見つめてほしい

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◆:今後、どういう授業を行っていきたいですか?
松岡:シェイクスピアに関して言うと、一般的な見方をするだけではなく、演劇や世の中を動かしていたのは人間の欲望や不安であり、それらは社会の本質的なものなのだという点に着目できる、そんなリテラシーを持った学生を育てていきたいと思っています。
そのためには「遊び」も必要です。熊大生は、真面目で、なんでも卒なくこなしていきます。そのことにとても感動しました。しかし、その一方で遊びが足りないとも感じています。先日、ゴジラを題材にして社会問題を考える、という授業を行いました。学生は、自分にないチャンネルだったようで、熱心に話を聞いてくれました。いろんなものを多角的な視点で見ていく、「遊び」のような視点を取り入れていく、という役割を担っていきたいですね。
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(2016年11月11日掲載)
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