エイズ患者の命を守るために、メカニズムを解析し、治療法の確立を目指す。

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エイズ患者も長生きできる時代へ

image02.jpg 健児くん(以下 ):センターではエイズのメカニズムや治療法などの研究が進められていますね。先生がエイズ研究に取り組んだきっかけについてお聞かせください。
岡田:地域医療に尽くしたいと思い、11年間地域で臨床医をしていました。基礎研究を始めたきっかけは、病気のメカニズムに興味があり、基礎的な知識を得て臨床に生かそうと考えたからです。当時は自分が基礎研究者になるとは、思ってもいませんでしたが、やがて研究のおもしろさに引き込まれていきました。しかし、基礎研究を続けていくうちに、患者さんから遠のいてしまい、「本当にこんなことをやっていていいのか」と自問自答したこともありますよ。
思えば学生時代に「アジア医学生会議」に参加し、カンボジア難民が入国したタイを毎年訪れて、地域医療の現場を経験したことが、エイズ研究のきっかけといえるかもしれません。当時、2週間ほど滞在しては、現地の病院で患者さんを診たり、往診に同行したりするなかで、タイで問題となっていた性病やマラリアなどの感染症に向き合いました。その数年後にエイズが発見され、世界的に研究がスタートしたんです。
◆:エイズの患者さんは、今も増え続けているのですか?
岡田:現在、エイズ患者は、世界で約3,500万人。一時より減っていますが、国内では2万人を越え、さらに増え続けています。熊本でも増えており、その罹患者数は氷山の一角である可能性も否めません。しかし、エイズは“治らないけれど、薬を飲めば長生きできる”時代。厚生労働省では“コントロール可能な慢性感染症”と称するほど、寿命も70歳まで伸びています。日本ではエイズの薬代は国が全額負担しますので、薬が行き渡りますが、アフリカなどではとても高額なため、薬を手にすることができないのが現状です。医療行政の在り方も、今後の大きな課題だといえるでしょう。

ヒト化マウスが研究の扉を開く

image03.jpg ◆:先生は、具体的にどんな研究をなさっているのですか?
岡田:簡単に言えば、エイズに感染したモデルマウスを作ることと、そのマウスを使って、エイズのメカニズムや治療法を研究することですね。生まれたばかりの高度免疫不全のマウスにヒトの臍帯血から取った造血幹細胞を移植するんです。3カ月くらい経って、ヒトの造血幹細胞がマウスの中に生着すると、マウスの中にヒトの免疫細胞であるT細胞が出現し、ヒトの免疫系を持ったマウスに成長します。このマウスをHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染させるとエイズのモデルマウスができるんですね。そのマウスを使い、エイズのメカニズムを解析したり、新しい薬の効果などを調べています。
◆:先生の研究の大きな特長は、ご自身が作製したモデルマウスを使うということですね。
岡田:研究者は、自分で研究ターゲットを決めますが、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)などのミクロの世界だけを研究しても、ヒトの病気の理解につなげるのは難しい。ヒトと病気の関連を見るには、マウスなどのモデル系がとても大切で、ヒトの血液細胞を構築したマウス(ヒト化マウス)などが必要になるんです。
がんの研究でよく使用されるヌードマウスは腫瘍を見やすい一面、免疫不全度が低い。そこで、免疫不全度が高いヌードマウスを作製し、大きな腫瘍を体外から見ることができるようにしましたが、それだけではおもしろくないので、マウスに緑色蛍光蛋白質(その発見で下村脩先生が2008年にノーベル化学賞受賞)を遺伝子導入し、緑色に光るヌードマウスを作りました。がんの研究には、臓器や腫瘍だけでなく、血管がとても重要です。“蛍光ヌードマウス”だと腫瘍は赤で、血管は緑に見えるので、比較検討しながら研究の幅が広がるんですよ。
血液系のがんである白血病や悪性リンパ腫などは、遺伝子の異常で起きます。それをマウスのモデルで再現し、本当にその遺伝子が原因なのか、遺伝子を“動かして”みて検証するんです。「この遺伝子を変えれば治療できるんじゃないか」「特異的な薬を使えばいいのではないか」と、モデルマウスを使った実験で考えていくことは、研究の醍醐味ともいえますね。

臨床へ還元し、命を救うために

image04.jpg ◆:先生のこれからの目標をお聞かせください。
岡田:エイズと共存できる時代になりましたが、エイズ患者ならではの特有の病気があります。一番多いのが悪性リンパ腫で、エイズ患者の10人に1人は悪性リンパ腫で亡くなるのが現状。一般にはお年寄りがなる病気ですが、エイズ患者では若い世代が悪性リンパ腫になる確率が高く、命に関わる病気です。元々血液内科の医者なので、エイズ患者ならではの悪性リンパ腫の治療法などを考えたいと思い、モデルマウスを作って、分子標的になるような薬を試しているところです。
◆:熊大で先生が研究を続ける意義とは何ですか?
岡田:「エイズ学研究センター」をはじめ、遺伝子改変マウスの作製・供給などを行う「生命資源研究・支援センター」、発生医学の統合的な研究を進める「発生医学研究所」などの高度な研究施設 が同じキャンパスに集まっていることですね。相互連携でさらなる成果を生むことができます。モデルマウスの作製も「生命資源研究・支援センター」があったからこそ実現できたほど、その連携がもたらす意義は大きいと思っています。また、世界で初めてエイズの薬を開発された満屋先生の存在はもちろん、薬学部にもエイズの講座があり、他学部との連携が図れることも大きな魅力です。
◆:先生にとって、基礎研究の魅力とは?
岡田:エイズを研究する中で、そのメカニズムを明らかにし、治療法などが臨床に還元できるのは、非常にうれしく、やりがいもあります。基礎研究は、医学部を出て医師免許を持っている人だけがやるものではなく、いろんな分野から人材が出てきて、それぞれの視点や考え方などを生かして共に切磋琢磨していく方がいいですね。
現在、SARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラ出血熱、デング熱などの新しい感染症が拡大し、世界的な課題となっていますが、研究の仕方などがある程度分かってきているので、治療法の確立も遠くありません。エイズをはじめ、新たな感染症が次々に出てきても、人類も負けてはいませんよ。
◆:“ウイルスと人類の戦い”の最前線の研究なんですね、がんばってください!ありがとうございました。
(2015年2月23日掲載)
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