社会に敏感に反応する学問「労働法」。答えが一つじゃないから、おもしろい!

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先生との出会いが、労働法のエキスパートになるきっかけに

image02.jpg 健児くん(以下:◆):どんな子ども時代を過ごされましたか?
中内:両親が、1960年安保反対闘争を大学で担った世代でしたので、労働組合や、労働を取り巻く法制度は、子どもの頃から身近な話題でした。高校生になると「三国志」など、中国の歴史ドラマにはまりました。その一方で、国政選挙では、ラジオの開票速報をリアルタイムでチェックするほど、政治にも興味がありました。大学では歴史か政治のどちらを勉強しようか悩んだのですが、当時の文学部哲学科出身の担任の先生が「政治に興味があるのであれば、法学部や政経学部に進学した方が社会で役に立つんじゃないか?歴史は趣味でも楽しめるから」とアドバイスして下さったので、法学部に入りました。
◆:大学時代はどんな学生でしたか?
中内:とにかく変わった学生でしたね。神戸大学に入学すると「生協組織部」に所属して、合成洗剤の追放活動などに関わりました。大学生協の活動ですから、キャンパスには行くんですけど、授業にはほとんど出ないような毎日でした(笑)。2年生の時に開講されたゼミの中で、“人の少なそうなゼミに行こう”と思い、師匠である浜田冨士郎先生(現・神戸大学名誉教授、弁護士)の「労働法」のゼミを選択したんです。ふり返ると私の人生を決定づける不思議なご縁でした。
◆:労働法を本格的に学ぶきっかけになったんですね?
中内:結果としては、そうなんです。決して真面目ではなかったのに、単位をもらえてびっくりしました。それで、浜田先生しか法学部の先生を知らないこともあって、先生の研究室に入ることに決めたんです。
実はその頃、先生の研究室には一人も学生がいなかったので、1対1で判例を勉強しました。もちろん、相変わらず生協の活動にのめり込んでいましたから、かなりいい加減な予習復習で研究室に通っていたんですよ。そんな私に対しても、先生は、無難な答えを許さず、気迫のある姿勢でのぞんでくれました。そんな頃、弁護士で作家の和久峻三さんが中公文庫から出している「刑法おもしろ事典」などのシリーズに出合い、また浜田先生が大学院に進むようすすめて下さったこともあって、労働法を研究する道へ踏み出しました。

民間企業と労働者のトラブルについて解決法を研究

image03.jpg ◆:労働法ってどんな法律なんですか?
中内:基本的に民間企業とそこで働いている人々とのトラブルの解決を考える学問です。以前は強かった労働組合の影響力が弱まり、現在は労働者個人の権利意識が強まっています。現在私が主に研究しているのは「在籍出向関係」です。たとえばAという会社に就職しました。しかし、ポストがないので子会社Bに行って下さいと言われることはよくあります。A社とはつながっているけど、働くのはB社という状態の中で、A・B両者と労働者の三者関係はどうなるのだろうかというのが、意外とむずかしい問題なんです。たとえば「子会社に行きたくない労働者に、無理矢理行けと言っていいのか」とか「賃金はA・B社、どちらが払うのか」「何か問題が起こったとき、どちらの会社が責任を取るのか?」など、細かい問題がたくさん出てくるんですね。労働法はその時代時代の政治・経済・社会状況によって変わる“生きた学問”です。またある問いに対して答えが一つとは限りません。研究室では、学生とともにあらゆる角度からよりよい解決法を模索し、研究を深めています。
◆:先生の授業は、とてもユニークだと伺いました。
中内:私自身の経験なんですが、教室の椅子にじっと座って、教員から知識を与えられるだけの授業よりも、図書館に自分で出向き、調べるといったような“頭、手、足”をフル回転させて、体感したことの方が強く残っているんです。ですから、受講生たちには、参考文献を15冊程度示して「ここから自分の好みで選んで勉強しなさい」と言っています。今の学生は、教員の言うとおりにレポートをまとめたり、他人が持つ情報を借りてマネをすることは上手ですが、自分の頭で考えて説明することは苦手です。「この本を選んで、中内の授業をこんな風に攻略するんだ」という挑戦的な発想を磨くことは、社会に出たときに必ず役に立つと思います。

学生よ、自分のカラーを持て!

image04.jpg ◆:ところで、中内先生はたくさんの資格をお持ちなんですね!
中内:現在、ダイビングやアマチュア無線技士、赤十字救急法救急員など、45の資格を持っています。2006年に熊本大学に着任したときは、普通自動車免許と高校生の時に取った無線の免許くらいだったんですよ。「なんだか楽しくないな」と思って、それから9年間の間にさまざまな資格を積み増しました。水が怖くて泳げなかった私でも、ダイビングの免許がとれたんです(笑)。若いときは、いろんなことにチャレンジしてほしいですね。
◆:今の学生さんにのぞむことはありますか?
今の学生は、「透明だな」と思います。他人との関係をこじらせたくないからか、赤とか青とか自分のカラーがなくて「こんな風に考えているんだ」と主張することに慣れていません。もちろんそれで、人間関係をスムーズにできるかもしれませんが、自分の色を持つことも同時に大切なことだと思います。私は、授業で「この判例は、正しいかもしれないけど、好きじゃない」と結構言います。考え方はいろいろあっていいわけですし、無難な答えを言うのは簡単です。でもそれを“許さない”という恩師の姿勢が、今も私の中に息づいているんでしょうね。
(2015年1月20日掲載)
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