みんなの生活の質を向上する“コンパクトシティー”の実現を目指して

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計画都市構想の要・交通計画に興味

image02.jpg 健児くん(以下:◆):学生時代、先生はどんな生徒でしたか?
溝上:高校時代から、ブラジルの首都・ブラジリアや、オーストラリアの首都・キャンベラなど、周到な計画の上に都市を創造する“計画都市構想”に興味がありました。現実にはありえないんですけど、大草原の中にゼロから新しい街を作るような、そういうことを考えるのが好きでしたね。計画都市において交通計画は、重要なファクターの一つなので、大学では交通について学ぼうと思いました。でも大学では、希望した研究室の隣の研究室に配属されてしまったんですよ。そこは、鉄道に関して研究している研究室で、ダイヤの編成とか、大都市の通勤電車をどうすればいいかなどの研究だったらよかったんですが、研究のテーマは「レールのゆがみ」。当時は、スペクトル解析を使って、転覆や脱線についての研究をやっていました。大学院を出て就職しようと思ったものの、残念ながら自分が望んでいた就職が叶わず、助手として大学に残ったんです。そこで交通に関して勉強しているうちに、現在の研究にのめり込んでいったという感じですね。
◆:意外な経緯で、研究者の道に入られたんですね。「交通まちづくり研究室 」の歴史は長いんですか?
溝上:当初の研究室は、熊大に赴任した平成7年(1995年)に発足しました。私の専門は交通計画なんですが、最初は「社会基盤計画学」という研究室名で研究に取り組みました。たとえば新しいバイパスを作ると車の流れが変わります。また、新しい公共交通機関を導入すると、今まで車を使っていた人たちがそちらに移ることで、車の通行量が減ったりして、道路の流れが変わるでしょう?それがどう変わるか「交通需要予測」をするんです。需要の発生メカニズムを踏まえて、できるだけ渋滞を少なくするためには、どこにどういう道路を作ったらよいのか、またどこにどういう公共交通機関を導入したらいいかなどの「交通計画」を行っていました。

「交通計画」や「交通需要予測」を、まちづくりに生かす

image03.jpg ◆:「交通まちづくり研究室」という名前に変更したのは、何かきっかけがあったんですか?
溝上:名前を変えたきっかけは、10年前に立ち上げた「まちなか工房」です。街の人の声を直接聞いたり、それに対して私たちは何ができるのかをみんなで議論したことが刺激になりました。「社会基盤計画学」で培った理論的な「交通計画」や「交通需要予測」のメソッドを、実際、まちづくりの中にどんな風に生かせるのかを考えるようになったことが、まちづくりに貢献する交通研究の意味の「交通まちづくり研究室」という名前に変えようと思った理由です。
◆:現在は、どのようなテーマに取り組んでいますか?
溝上:現在取り組んでいる研究テーマの一つは、生活の水準は下げることなく、消費エネルギーをできるだけ低く抑えた“コンパクトシティー”実現に向けての研究です。バブル期に居住地、病院などの公共公益施設が郊外に移り、さらに大型ショッピングセンターなどが郊外に次々とできました。結果的に車でしか動けないような都市構造になったんですね。その反面、まちなかの商店街が閉まったり、大型店に吸収されたりして、寂しくなっています。たとえば上通には、五高時代からあるような古本屋さんや老舗など、歴史や文化を継承する特徴的な街並みが残っていますが、それが徐々になくなりつつあるんです。大げさに言うと“100年後に阿蘇は残っても、熊本の歴史ある中心市街地はなくなるんじゃないか”という危機感を抱いています。“コンパクトシティー”は生活の質が高くて、ガソリンなどのエネルギー消費量が少ない街のことです。そういう街を形作るには、「どの辺りに、どのような施設を作ればいいのか」「人口は、どの辺に集中させればいいのか」などの都市構造を決めて、さらに「住んでいるたちが動きやすくするためには、どういう交通を作ればいいか」「集中させるためにはどのような移転政策をとればいいか」ということを考えていきます。

若者よ!まずは、観察。そして分析!

image04.jpg ◆:ずばり、研究の醍醐味とはなんですか?
溝上:若いころは、誰も解決してない研究テーマに取り組むのが楽しかったですね。年齢を重ねると、自分の理論や研究が社会で実装され、その中から新たな研究課題が見つかって、さらにその問題を解決できるように、研究・実証・実践を重ねていくといういわゆる実践研究にやりがいを感じるようになりました。自分たちの学術的な成果が、社会に反映される喜びですよね。実際、バスの路線網の組み直しや公共交通不便・空白地域へのコミュニティサービスの導入、さらに行政から民間交通事業者への補助金制度の見直しなどに関する研究成果をもとに交通政策に対して、さまざまな提言をしています。
◆:今の若者にのぞむことはありますか?
溝上:もっと、人や街を観察して欲しいということですかね。最近は、学生と旅行しても、電車やバスに乗った瞬間に、みんなスマホしか見ないでしょう(笑)?もったいないなぁと思います。わたしは旅行に行ったら、一日中街を歩き回ったり、オープンカフェとかパブに何時間も座って、通りや街を歩く人を観察したりしています。例えばパリだったら、エッフェル塔を中心に発展してきた街並みや、どこの国製の車が多いかなとか、いろんなものを見ますね。最近では、パリやロンドンに設置されている「ヴェリブ」というシェアリングバイシクルに興味があります。一カ所に20~30台ずつ、200メートル程度の間隔で置いてあるんですけど、IDカードをかざすと30分間以内だったら、無料でレンタルできて、どこに返してもいいという画期的なシステムです。観光客やスーツ姿のビジネスマンが街の中を走り回るのに便利に使っているのを見ると、歴史がある町なのに、新しいシステムが息づいているなぁと感心します。人の動きなどの観察したことを単に感覚でとらえるだけでなく、数値に置き換えて、判断したり、傾向や特性を分析したりする癖をつけて欲しいですね。
(2014年11月11日掲載)

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