血管形成ネットワーク研究の新しい領域へ

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血管形成のメカニズムを調べる

image02.jpg 健児くん(以下:◆):先生はどうして血管に関する研究を選んだのですか?
佐藤:元々は理学部出身で、発生生物学の基礎研究に取り組んできました。血管は全身のあらゆるところを巡り、血液を介して生命を維持する重要な働きを担う“器官”です。例えば、ある程度大きなケガをしてその部位の組織が欠損しても、血管はちゃんと再生します。当然のことのようでも、それがどういう仕組みで起こるのかは謎です。そこで体の中の細胞が、どう動けば血管ができるのか。発生現象の中でも血管を形成するネットワークをテーマに研究を始めたんです。
◆:最近ではiPS細胞の登場で発生医学が注目され、再生医療への応用も夢ではなくなりましたね。
佐藤:そうですね。再生医療では、そもそも病気やケガなどで失われた機能を再生するために、必要な細胞を作り出すことが必要なのですが、それは発生のプロセスを一からやり直すのと同じなんです。培養して作る未熟な組織に機能的な血管網をどのようにして呼び込むか、そのメカニズムの解明は重要な課題の一つ。受精卵から始まる血管の発生現象の原理が明らかになれば、再生医療の可能性を広げることにもつながります。これはとてもやり甲斐があります。現在、「血流による血管ネットワークの制御と再現」という研究テーマで、血管と血流の相互関係を調べています。例えば、脳梗塞や心筋梗塞など血管が関係する成人病がありますね。細い血管に大量の血液が流れることはできません。血管と血流の量的な関係性を正常に保つ仕組みが、胚の発生過程で血管が作られる際にも働いているはずです。そのメカニズムを詳細に調べることが、治療薬の開発や再生医療への応用につながっていくと期待しています。

必要なモデル動物を開発して実現

image03.jpg ◆:体の中の血管ができていく様子を実際に見るって大変そうですが、どのように研究しているのですか?
佐藤:生体内の細胞そのものを観察するには、“モデル動物”の選定がとても大切です。一般に研究に使うモデル動物はマウスが多いのですが、マウス胚では血管を作る細胞の動きを長時間観察し続けることが難しい。シンプルな実験系を組み立てるために、ヒトの培養細胞を使うこともありますが、体内から取り出して培養した時点ですでに生理的環境下での細胞の動きと異なる可能性があります。そこで研究を可能にするために、アメリカに留学していた時に遺伝子導入を施したトランスジェニックウズラを開発したんです。
◆:ウズラ!卵の中で始まる血管発生の動きを見るんですね。
佐藤:その通りなんですよ。血管ネットワークの構造は、脊椎動物の胚で観察することができるんですが、中でもニワトリやウズラなどの鳥類は、卵に小さな穴を空けて見ると、黄身の表面に血管が発生し発達していく様子をリアルタイムで観察することが可能なんですよ。血管が光るトランスジェニックウズラを用いることで、より鮮明に細胞を追跡することができます。発生中のウズラ胚を5分毎に撮影する“タイムラプス観察”を行い、その画像データをアニメーション化すると、血管ネットワークを作る一つ一つの細胞の動きが鮮明に分かります。
◆:研究では、デジタルカメラなど身近な機材が担う役割も大きいですね。
佐藤:細胞の動きを正確に分析するために、コンピューター画像解析を行います。“画像解析ワークステーション”(※)は頼れる相棒です。留学先の研究室で、生命科学者が自ら画像解析を行う姿を見て、それまで自分がやってきた遺伝子の操作や細胞培養などの“ナマモノ”を取り扱うことだけが研究アプローチの全てではないと実感しました。画像認識や画像構築、シミュレーションなどのデジタル技術は日進月歩。留学に出たことで、自分の研究の幅が広がったと思います。

※画像解析ワークステーション……画像データを立体構築したり、明るさや速さなどの画像が持つ情報を数値化することができる高機能な計算機

新しいことをやりたいから学問する

image04.jpg ◆:先生は熊大に来て初めて自分の研究室を持たれたそうですね。何が一番変わりましたか?
佐藤:研究する上では「やりたいことができる」のは一番うれしい変化ですね。しかし、そのためには資金をどう確保するかなど、これまでにはなかった仕事がずいぶん増えました。自分の研究室を持つということは、自営業と同じ感覚ですね。対外的に関わる人も増え、それまで知らなかった経営や雇用など世の中のことを勉強する機会にもなりました。申請書などさまざまな書類を書くにも、「審査をする人の心をどう掴むか」など人の心を打つ文章力が必要だということに気付いて、研究とは別のスキルを磨かなければならないと思っています。
◆:研究室を“経営”するのは大変なんですね。先生にとって研究の魅力とは何ですか?
佐藤:例えば血管にしても不思議なことがたくさんあり、研究すればするほど分からないことが出てくるんですよ。どれだけやっても新しいテーマが生まれることが楽しくて仕方ないんです。研究の新しいアイデアを考えつく瞬間が、研究者としての醍醐味ですね。学生の皆さんにも一生熱中できるものを探してほしいと思っています。そしてやりたいことが見つかった時に、「それを実現するにはどうしたらいいか?」を考えることが大切。先人たちが積み重ねた学問に真摯に向き合い吸収して、そこから新しいものを生みだす力を身に付けてほしいですね。私たちは新しいことをやりたいから学問しているんです。人類の幸福のために、世界を舞台に研究をしているという思いを胸に、これからも一歩ずつ進んでいきたいと思っています。

(2014年2月3日掲載)

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