地層に刻まれた記録の中に“宇宙”がある。

熊大なう。

インタビュー担当の健児くんです!

尾上哲治准教授

地球、宇宙、そして自分を知る学問

学生たちにはチャレンジ精神を持ってほしいと語る尾上先生。 健児くん(以下:◆):先生が専門となさっている“堆積学”とはどんな研究ですか?
尾上:地層の中に含まれる鉱物や化石などを調べて、地球環境や生物の進化史を明らかにすることが、私の研究テーマです。そのほか、宇宙からやってくる隕石や宇宙塵(じん*1)なども研究対象ですね。例えば化石を調べると、地殻変動や天体衝突、巨大な火山の噴火などが、生命にどのような影響をもたらしたかが分かります。高校生のころは地学を履修する機会がなかったのですが、1996年に熊大に入学して初めて地球の歴史について田中均教授の講義を聞きました。このとき、なんておもしろい学問があるんだろうと思ったのがこの道にすすんだきっかけですね。地層を調べると、地球上の歴史だけでなく宇宙のことも分かるんですよ。地学とは、地球や宇宙が何なのかを知り、自分たちがなぜここに存在するのかを知る学問だと言えるのではないでしょうか。自らの歴史を知らず生きて行くことは、記憶喪失のまま生きるのと同じで、とても空しい。自分たちの存在意義を知り、豊かに生きるためにも役立つ学問だと思いますよ。
◆:研究はフィールドワーク中心で、とてもハードでしょう?
尾上:そうですね、まず地層からサンプルを採取する作業から力仕事。持ち帰ったサンプルを粉末にして、わずか数10ミクロンの磁性鉱物を一つずつ拾い出していきます。膨大な時間と手間を掛けて作り上げる粉末サンプルに愛着がわいて、もう手放せないという学生もいるほどなんですよ。本当につらくて苦しい作業も少なくありません。さらにサンプルの分析から論文執筆まで、休む間を惜しんで学生たちは取り組んでいます。みんな一生懸命で、頼もしいですね。

世界が注目!巨大隕石落下の証拠を発見

image03.jpg ◆:9月に岐阜と大分から巨大隕石が落下したという証拠を特定したと文部科学省で発表されましたね。日本はもちろん、世界中が注目した大発見でした。
尾上:これまで隕石が落下した“らしい”という痕跡は見つかっていたのですが、強固な証拠は発見されていなかったんです。私たちと九州大学、海洋研究開発機構の研究グループは、今から約2億年から2億3700万年前の三畳紀後期の地層から採取した岩石試料に、隕石に多く含まれる「オスミウム」(*2)という物質が多量に含まれていることを発見し、その分析から巨大隕石が地球に衝突した証拠を掴んだんです。
◆:巨大隕石が地球に衝突!どうして巨大だと分かるんですか?
尾上:隕石は、高いオスミウム濃度と低いオスミウム同位体比を持つことが明らかになっています。岩石試料を分析すると、まさにその通りの値を示したんです。これは巨大隕石の衝突により隕石に含まれるオスミウムが蒸発して大量に海に供給され、それが海底の堆積物中に蓄積されたということを表します。そのオスミウム量を見積もることから隕石の大きさを推定することに成功したんです。計算してみるとその直径は、3.3~7.8kmという巨大隕石であることが明らかになりました。
◆:直径約8km!そんな大きな隕石が地球に衝突したら、地球にはどんな影響が起きたと考えられるんですか?
尾上:例えば直径約8kmの隕石が東京に落ちたと仮定すると、直径約80kmほどのクレーターができると考えられます。衝突の衝撃で岩石が蒸発してできる“衝突蒸発雲”は、瞬時に人間が焼け死んでしまうほどの熱量を持っていて、さらに秒速百数十kmの速度で広がる衝撃風により、大阪のビル群でさえ全倒壊すると計算されます。この程度の巨大隕石は数千万年に1回という確率で地球に衝突しており、もし今その時がやってきたら残念ながら人類は終わりですね。地球上の生物は、そうやって絶滅と繁栄の歴史を繰り返してきたんですよ。

流れ星の化石を発見し、視点を宇宙へ

image04.jpg ◆:一説によると、恐竜が絶滅したのも隕石の衝突が原因だと聞いたことがあります。
尾上:恐竜の絶滅で有名な今から6500万年前の白亜紀/古第三紀境界と呼ばれる時代からは、確かに隕石衝突の証拠がみつかっています。隕石が衝突した衝撃で生じる粉塵が空を覆い、太陽光をさえぎって氷河期が訪れたなどの説も盛んに唱えられましたが、研究者の間ではその可能性は否定されています。衝突により放出される大量の硫黄や炭素が気候変動を起こすことから、現在では隕石の衝突により硫酸の雲がわき上がり、太陽光をさえぎって寒冷化を引き起こして、恐竜だけでなく生物や植物をも絶滅へと追い込んだのではないかと考えられているんです。一方で、私たちが発見した三畳紀後期の隕石衝突がおこった時代も“生物大量絶滅イベント”が、繰り返し起きたことで知られています。絶滅の原因の一つに隕石の衝突も考えられますね。実際に隕石が衝突した時代を境に、海の中の生態系に大きな変化が起こった可能性も徐々に明らかになってきました。それらの情報も、地層内の岩石や化石の中に記録されているんですよ。日本がこうした貴重な研究試料を持つことで、海外の研究者に対してプライオリティー(優先権)を保つことができるなど、今回の発見の意義は大きいですね。
◆: 隕石といえば、流れ星!なんだかロマンチックですね。
尾上:宇宙塵が大気圏に突入する時に、夜空を流れていくのが流れ星。1年間に約3万t、1m 2 に1粒は流れ星=宇宙塵が降っている換算になるんですよ。そのほとんどは、地表にたどり着く前に燃え尽きてしまうんですが、2011年に2億4000万年前に地球に降り注いだ宇宙塵の回収に成功し、米国地質学会誌「Geology」に発表したんです。宇宙塵とはいわば、“宇宙の化石”。それを調べると太陽系がどのような歴史をたどってきたかを知ることができるんです。世界最古の宇宙塵を自分たちの手で発見できたことは、現在の研究生活の礎になっています。
◆:地球の中に、そして宇宙には悠久の歴史が全て記録されていると思うとワクワクします。僕も勉強したくなりました!ありがとうございました

*1宇宙塵・・・宇宙空間に存在する直径1mm以下の物質のこと
*2オスミウム・・・元素記号Os。地球上では微量にしか見られない白金族元素で、7種の同位体を持つ

(2013年11月13日掲載)

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