集団を理解し、安全で健康的な社会を築く

Webマガジン 熊大なう。

インタビュー担当の健児くんです!

吉田道雄教授

集団を知ることで人間を理解する

とにかくパワフルな吉田先生。 健児くん(以下:◆):先生の専門であるグループ・ダイナミックスとは?
吉田:心理学の分野の一つで、日本語に直訳して「集団力学」とも呼ばれています。人は生まれた時から一人では生きていけませんよね。自ら命を絶つ「自死」は個人の行為ですが、その背景には集団が深く関与しています。グループ・ダイナミックスは集団と個人の相互作用によって起こる影響や効果を実験や調査などを活用して理論的に解明していく学問。つまり、集団との関わりを通して人間の理解を深めることがその大きな目的です。
しかし、グループ・ダイナミックスは理論と実践を両立させてこその分野。そこで私は理論を基に、事故や不祥事のない“元気で安全”な組織の構築を目指して、リーダーシップや対人関係向上を図るトレーニング法の開発と実践を進めてきました。組織にプラスの影響を与えるリーダーを育成することで、組織の〝活性化と安全”を実現できると信じながら研究を続ける日々です。
◆:グループ・ダイナミックスに関心を持ったきっかけは?
吉田:高校生の頃に父親が、日本のグループ・ダイナミックスの第一人者である三隅二不二先生の新聞記事を見せてくれたのがきっかけです。「こんなにおもしろい学問があるのか!」と衝撃を受けて、大学では三隅先生の研究室のドアを叩きました。そこで、リーダーシップ・トレーニング法の開発に草創期から携わることができ、この学問の魅力に魅せられて、気付けば45年間この道一筋です。
◆:そこまで先生を引き付ける魅力とは?
吉田:やはり“人”ですね。いくつになっても成長し続ける“人”の力に魅了されているんです。講座で、最初はおとなしかった方が徐々に笑顔で会話し始めたり、反応のなかった人が質問をしてくれる瞬間はたまりませんよ。そして「明日から頑張ろうという気持ちになりました!」と元気になられる姿を見ることが、私のエネルギーになっています。

実践に生かしてこその理論

地域の子どもたちとの体験活動を通して子どもの理解を目指す「フレンドシップ事業」。 ◆:専門研究であるリーダーシップと組織の“安全”の関係について教えてください。
吉田:組織で起こる事故や不祥事には、リーダーシップや対人関係が大きく関与しています。グループ・ダイナミックスの実験の中で、多くの人が自分の本心とは異なる多数意見に同調することを明らかにした興味深いデータがあります。この研究は「これはまずいのではないか」という危機意識を持った人が一人いても、その意見は人の耳に届かない可能性が高いことを示唆しています。組織の問題に気付く感受性を持つことは事故や不祥事の減少に大きな効果があります。しかし、「言いたいけれど言えない」、あるいは「言っても聞いてもらえない」といった雰囲気が組織内にあれば、組織の安全は確保できません。こうしたときに大きな力を発揮するのがリーダーシップです。
このようにグループ・ダイナミックスを実践に生かし、“元気”で“安全”な組織をつくりたいという思いで1992年から、熊大の公開講座「リーダーシップ・トレーニング」を開講してきました。
◆:先生にとっては、“理論を実践に生かす場”ですね。
吉田:そうなんです。これまで企業や病院、教育機関などさまざまな分野の方に受講していただいています。リーダーシップというと、「自分は性格的にリーダーに向いていない」と苦手意識を持つ方が多いですが、リーダーシップは生まれ持った特性ではなく、改善可能な対人能力です。そこで、講座の際には「さぁ、リーダーシップの“エクササイズ”をしましょう!」とお勧めするんです。私たちは健康を維持・向上するために運動や筋トレをしますよね。リーダーシップやコミュニケーション能力もこれと全く同じで、しっかり “エクササイズ”することで必ず向上します。まずはその苦手意識を打破することが、リーダーシップを身に付ける第一歩なのです。

他人に生かされていることを忘れずに

東京でも開催している公開講座「リーダーシップ・トレーニング」。 ◆:リーダーシップ・トレーニングの際に気を付けていることはありますか?
吉田:心理学には“正解がない”なんて言う人がいますが、そんなことはありません。私は“正解は人の数だけ多様にある”と公言しています。そして受講者の方には、私が提示する“正解”の中から、「自分に合う“正解”を選んで、しっかりチャレンジしてください」と申し上げています。個人の個性や長所を活かしながら仕事ができることが何より大事なことですからね。私は「他人を自分のノウハウで“変える”なんてとんでもない」という意識を持ち続けています。“変える”のではなく、一歩前に進もうという“前向きな気持ち”になっていただきたいと思っています。
◆: 先生にとっての今後の課題や目標とは?
吉田:私にとっては“リーダーシップ”や“対人関係”の改善によって“事故”を防止し、“安全”な社会を創造することが永遠の課題です。どんなに対策を取っていても人間が生きている限り100%“安全”ということはありません。そうした可能性を0に近づけ続けることが、私の仕事であり使命です。
私は何よりも“モノを作り出す人たち”を尊敬しています。私たちは厳しい状況の下でモノを生み出している人たちに生かされていることを忘れてはいけません。誰もが元気で明るく、事故や不祥事のない安全安心な社会環境の中で楽しい人生が送れるように、これからもこの研究を続けていきます。生涯それができると思うとワクワクしますね。
◆:人との関わりの中で生かされている自分を知ることが、幸せな生活を送るための鍵なんですね。ありがとうございました。

(2013年9月17日掲載)

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