明日の世界は変えられなくても“いつかの未来”を変える

Webマガジン熊大なう。

法学部研究者の道を選んだ思いとその魅力について

法学部 濱崎録(ふみ)准教授

実質的平等について考え続ける

民事訴訟法をもっと身近に感じてもらいたいと民事裁判などを題材にした映画や小説などを織り交ぜて授業をおこなっている 健児くん(以下:◆):先生が民事訴訟法に興味を持ったきっかけを教えてください。
濱崎:法律や裁判というと多くの人は、自分には関わりの薄い難しい分野だと思いがちです。しかし、民事訴訟法は、例えば“自動車事故でけがをした場合に損害賠償を支払ってほしい”など、誰にでも起こりうる問題を解決し、私たちの権利を実現するための法律です。学生の頃から社会問題やこういった身近な問題に感心がありました。一つの事件でも報道の仕方や媒体によって、全く違う問題が浮き彫りになり、「この問題の本質は一体どこにあるんだろう」と考えるようになったことが法律に関心を持ったきっかけでしたね。
現在は民事訴訟法の中でも、“民事裁判における実質的平等”について研究しています。裁判は平等に行われることが大前提ですよね。しかし、企業と私人との訴訟の場合、証拠収集などの能力は、明らかに企業の方が高いと言われています。こうした場合の実質的な平等とは一体何なのか。その平等を図るための方策について研究を行っています。

法学が問題の本質を見抜く力を育てる

image02.jpg ◆:研究の道に進もうと決心した時、不安や迷いはなかったですか?
濱崎:大学院に進もうと決めた時迷いはありませんでしたが、実際に院に進学して、自分より志の高い人、圧倒的な知識を身につけている人に出会い、その能力の差にやっていけるのだろうかと不安になったりもしました。今も他の研究者の理論立てを見て、その斬新な発想にハッとさせられ、落ち込むこともあります。しかし、将来の夢に向けて自己研さんに励むゼミ生や、自分とは違う視点から民事訴訟法を研究されている熊大法学部の他の先生方に刺激を受けながら自分なりに楽しく研究を進めています。
◆:今後法学を極めたいと考えている学生に伝えたいことはなんですか。
濱崎:法学が直接的に就職に結びつかないと感じている学生もいるかもしれません。しかし、法学研究はそれぞれの法の知識を身に付ければいいというだけではなく、ものごとの社会背景や世界の動きなど問題の本質を見抜き解決していく能力を養うことが重要です。その能力は、社会人としてどんな分野で活躍するにしても必ず役立つものだと思います。今すぐ役立つ知識だけが自分の力になるわけではない。一つ一つの仕組みを深く追求し、解決していくことの大切さを法学を通して感じてもらいたいですね。

小さな積み重ねが誰かの役に立つ日が必ず来る

熊大の民事訴訟法研究者に代々受け継がれてきた「民事訴訟法要義」 ◆:日々の大変な研究を乗り越える原動力になっているものは何ですか?
濱崎:自分の地道な研究が、これまで変わらなかった社会の構造や仕組みを変えることができる。その変化で、誰かを救う可能性が生まれることが、私が研究し続ける原動力ですね。我々研究者一人一人が論じ、発表する研究は、明日の世界をすぐに変えることはできないかもしれません。しかし、いつか大きな問題の構造を変える力を持っているという確信と使命を持って研究に励んでいます。自分の導いた研究成果の重要性や必要性を諦めず論じ続けることで、その問題が取り上げられ、確実に実務に成果が反映されていくのです。それが大きなやりがいに繋がっていますね。
120年の歴史を持つ日本の民事訴訟は今、転換期を迎えています。柔軟に変化に対応し、新しい発想を生み出しながらも、立法やその解釈でドイツ民事訴訟法を手本とした現在の民事訴訟法が日本の環境に本当に適した理論なのか、転換を迎えるに至った経緯を突きつめていくことも非常に大切です。今後はこの問題に重点を置きながら研究に取り組んでいきたいと思っています。
◆:考え続けること、課題と向き合い続けることって本当に大変なことですよね。その問題に正面から向き合う濱崎先生はかっこいいなと思いました。ありがとうございました。

(2013年4月30日掲載)

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