人を育て、助けるインターフェース開発

WEBマガジン熊大なう。

インタビュー担当の健児くん!

情報電気電子工学専攻 宇佐川毅教授

人と機械をつなぐ

音響情報処理の研究でインドネシアに招へいされ、海外で共同研究する面白さを知った 健児くん(以下:◆):先生はなぜ、音響に関する研究者の道を選んだのですか?
宇佐川:私にとって原風景といえば、子どもの頃、ちょうどテレビが真空管から半導体に代わる時代で,いらなくなったテレビなどからいろいろな部品を集めて、オーディオアンプを作っていましたね。それが高じて現在は、音響情報処理を中心に、人とコンピューターのよりよいコミュニケーションを実現するための研究を行っています。
◆:人とコンピューターのコミュニケーションとは?
宇佐川:例えば、補聴器を使用するときに自分の声や手元の音まで大きくなり相手の声が聞き取り難かったり、補聴器自体のハウリングなどに悩む人も多いのですが、そうした不調をコンピューターが制御して、人の持つ情報処理能力を補助することなどを指します。そのほか、人の聴覚の特性を解明して人をより深く理解するための研究もテーマの一つですね。人とその周囲にあるさまざまな機械の間のコミュニケーション手段や装置、ソフトウェアなどが“ヒューマンインターフェース”。よりよい手段を構築し、誰にとってもやさしいユニバーサルデザイン化を推進することが目的です。
◆:なるほど、私たち皆の暮らしに関連する研究なのですね。
宇佐川:人の聴覚は、耳たぶの形によってもその聞こえ方が変わります。補聴器に学習機能があれば、利用者ごとに最適な“聞こえ”を機械が学習し、よりよい性能を発揮することができる。人が持つ特性を知り、うまく応用していくことがヒューマンインターフェースのカギですね。

eラーニングでアジアを教育支援

「インドネシア・スラバヤ工科大学情報技術高等人材育成計画」プロジェクトのひとコマ。 ◆:インターネットを活用するeラーニングの専門家の養成にも取り組んでおられますね。
宇佐川: 大学院社会文化科学研究科の教授システム学でeラーニングに不可欠な情報通信技術について講義を行っているほか、2006年度から独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)の「インドネシア・スラバヤ工科大学情報技術高等人材育成計画」にプロジェクトリーダーとして携わっています。同大学と協力して、国際共同研究の実施や高度な技術を持つ人材の育成、インドネシア国内の各大学間や産学官の連携を強化するなど進めてきました。インドネシアには、およそ17,000もの島々があり、教育環境やインフラ整備などが進んでいない地域もあります。まずはeラーニングを導入し、学生たちによりよい研究環境を整えました。
◆:eラーニングの可能性とは?
宇佐川:学生たちにとって予習・復習がしやすくなりますね。いつでもアクセスできて自分のペースで勉強できるほか、随時テストを受けながら自分の力を知り、苦手な分野を克服することもできるような教材も作りました。対面型の講義が中心ですが、基礎を座学で学び、その予習・復習を支えるのがeラーニング。意欲のある学生ほど、トライアルして力を付けていますよ。また、こうしたリソースを活用し、他大学と共有することもできるんです。いい教材を皆で作れば、皆で使えることや距離を超えた大学間の連携を実現できるのも大きな魅力ですね。
2006年にインドネシア・マナド市のサムラトランギ大学を訪問。




自分が受けた恩は、若い人に返す

スラバヤ工科大学との双学位が本格的にスタート。 ◆:先生の研究室には、各国から留学生がやってくると聞きました。
宇佐川:そうですね。現在はモンゴルやトンガ、パプアニューギニアからも研究に来ています。彼らはとてもモチベーションが高く、優秀な人ばかりですよ。それぞれの母国などの教育支援を進めるための教材を作っています。以前、在籍していたツバルという国からやってきたアトウフェヌア・マウイさんは、母国の中学・高校にeラーニングを導入してデジタルギャップを埋めたいと教材を開発し、現在は教育に奔走しています。目的を達成し、母国で活躍している様子を聞くのが一番うれしいですね。
◆:現在、がんばって研究を進めている皆さんに一言メッセージをお願いします。
宇佐川: 今の若者たちは、就職が厳しい現実を見てきた世代。アグレッシブかといえばそうでもなくて、「海外へ出て活躍したい」とかハングリーさが弱い気がしますね。海外の学生や研究者は、いつ他者に追い越されるかと戦々恐々としているくらいです。できるだけ海外へ出て、世界を見てほしいし、海外へ行かなくても学内には留学生がたくさんいますから、アンテナを張っていれば自分の視野を広げる機会はたくさんあります。私が恩師から言われた言葉の一つが「自分が受けた恩は、若い人に返しなさい」。学生たちにチャンスをいかに与え、それを掴んで飛び立って行ってもらうか。その言葉を胸に、私も進んで行きたいですね。
◆:夢に向かって視野を広げていくことが大切ですね。ありがとうございました。 母国・ツバルで活躍するマウイさんのインタビューを熊大通信41号に掲載。

(2013年1月16日掲載)

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