ものづくりとは“技術力”ד設計力”である!

WEBマガジン熊大なう。
技術力・設計力を併せ持つ素晴らしいエンジニアを育てるため、ものづくり教育に挑戦する大渕先生に話を聞きました。

工学部附属革新ものづくり教育センター大渕准教授

デザインとは設計のこと

革新ものづくり教育センターの部屋には、学生による作品がずらりと並ぶ 健児くん(以下:◆):先生は「日韓合同デザインキャンプ」や「もの・クリCHALLENGE」など、ものづくりのイベントに携わっていらっしゃいますね。
大渕:私は工学部と革新ものづくり教育センターの両方に研究室があり、将来エンジニア(技術者)を目指す学部生・大学院生をみています。大学院の研究室では、「設計の方法論」などを研究しています。
◆:「設計の方法論」…なんだか難しそうですが、どのような研究なのでしょうか。
大渕:いい製品を生み出すには、コンセプトをとらえ、アイデアスケッチを描き、試作品で検証するという流れが必要です。この流れに沿って、エンジニアとデザイナー(設計者)が上手くコラボしないと、いい製品は生まれません。これからのエンジニアには、デザイナーの目線が大事なのです。
◆:デザイナーの目線というと、見た目の色や形を考えることですか?
大渕:デザインとは、本来は「設計」という意味です。優れたデザインの製品には、形や素材の一つ一つに理由がある。例えばアメリカのキャノンデール社が作る自転車は、部品によって素材を変えています。ペダルは軽くて漕ぎやすいようにマグネシウム製。後輪を支えるフレームはカーボン製で、クッションの役割を持たせています。サドルを支えるステー(金属棒)は、立ち漕ぎで左右に揺れる際の抵抗を軽くするために堅くて軽いチタンを使う、という具合です。

 image02.jpg◆:実際に乗る人のことを考えた設計をして製品を作ることが大事、ということですね。
大渕:自転車で例えると、ユーザーは製品に対して「もっと軽く、乗りやすく」といった言葉でしか表現しません。一方でエンジニアは製品を、部品の強度やサイズといった数値でとらえます。ユーザーが伝える感覚的な言葉を、エンジニアが使う数値に翻訳する。これがデザイナーの役割です。良いエンジニアはこうしたデザイナーの役割を理解し、実践できる。つまり「職人技」といわれるようなものづくりができるのです。
◆:職人技…!
大渕:昔ながらの職人は、優れた技術を持ち、同時に優れた設計者の資質も兼ね備えていました。こうした職人技を継承するために、新しい方法はないかという研究をしています。

職人の技術をコンピューターで継承する

3D-CADモデル制作 ◆:職人技を継承する方法ってとても興味深いです。「師匠に弟子入り」といったイメージが浮かびますが、たとえばどんな方法があるのでしょうか。
大渕:船大工が一人で船一隻を作るまでの半年間を記録したビデオ映像がありました。これを分析して、どのポイントを押さえれば職人技が継承できるか実験したのです。
船の12分の1の模型を学生に作らせたのですが、実物を見ただけでは部品や材料があっても組み立てられない。だがどこから作り始めるのか、どこでどんな道具を使うのかという手順さえ分かれば時間はかかっても形にはできる。
そこで、パソコンに職人が作業する手順をすべて記録しておけば、それを見て職人と同じように製品が作れると考えたのです。CAD(*1)を使って、パソコン上で船大工の作業手順を再現し、記録しました。例えば板一枚でも、四角い木の柱をノコギリで切ってカンナを掛けて、という手順の通りに、パソコン上でも木の柱と同じ寸法の立方体を3DCG(*2)で作り、それを切ったり削ったりして板の形を作ったのです。そして実際に、CADのデータを元に船造りの作業を再現することができました。
◆:パソコンで職人技が学べるかもしれませんね!
大渕:この研究を応用すれば、後継者不足に悩む宮大工の技術なども、時間と空間を越えて引き継ぐことができる時代が来るかもしれません。

*1 CAD…Computer Aided Design。コンピューターで設計や製図を行うこと、またはそのツールを指す。
*2 3DCG…3次元コンピューター・グラフィックス。コンピューター画面上に高さ、幅、奥行きのある物体を投影した画像や映像。

研究成果をものづくり教育に生かす

学生のスケッチ。学生が授業で作ったイルミネーション ◆:こうした研究はどう生かされているのですか。
大渕:いい技術者を育てるための教育に応用しています。工学部の学生は実際にものづくりをする技術者を目指していますので。今のものづくりの現場でいい製品を生むには、先にも話したとおり、優れた技術を持っているだけではなく、デザイナーの目線を身に付ける必要があります。
◆:デザイナーの目線を身に付けるには?
大渕:いい製品をたくさん見てデザイナーの目線を養うこと。また、見るだけでなく実際に手を動かすことが大切です。例えば「良い椅子とは何か」という課題のレポートでも、椅子の写真を撮るのではなく、手描きでスケッチさせます。すると、「なぜその形でなければならないか」というデザインの意図に気付きます。実際に自分で作れば、さらに深く分かる。次から椅子を見る時に、デザインの意味を考えるようになります。学生が自分自身でデザインの意味を考え理解できるようになることが大切なのです。
◆:なるほど!
大渕:架空の製品を創出するためのブレインストーミングや、製品の良さをアピールするプレゼンなどもやっています。後はできるだけ自分で手を動かしてものを作ること。授業で作った作品を学外のものづくりコンテストなどにも出品させています。


◆:”便利で使いやすくて、しかも格好いい製品を生み出す学生を育てたい”
先生ご自身の研究はもちろん、学生へ対する想いが伝わってきました。今後も大渕先生の研究、そしてものづくり教育に注目です!

(2012年9月19日掲載)

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