人間が“共に生きる社会”とは何かを追究し続ける

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「国家とは何か」を探究する

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健児くん(以下:◆):先生のご専門は「政治思想史」と伺いましたが、どんな研究をなさっているんですか?

伊藤:過去の歴史、政治、思想・哲学を研究し、現在の政治や人間の在り方について考察するものです。私はユダヤ人の政治思想家であるハンナ・アーレントの研究を通して、人間が“共に生きる社会”とは何かを導き出そうとしています。彼女は、ナチスの迫害を受ける中で、人間が幸せに生きるための根源的な条件は、“社会の中で居場所を持つ”ことであると痛感。「国家は、一人一人の人間が作るものだ」というのが彼女の思想です。
◆: 現代において“社会の中で居場所を持つ”とはどういうことだと考えられますか。
伊藤:職業であり、社会保障であり、人間関係であると考えています。それらを得て初めて社会を形作る一員になることができ、ひいては“社会の中で居場所を持つ”人々によって国家が成立するのだと考えます。
◆:ふ、深いですね。
伊藤:約250年前に発行された“The Moral and Political Works of Thomas Hobbes of Malmesbury, London, MDCCL.”という本の挿し絵を見るとイメージしやすいかもしれません(※ トップ画像参照 )。これは1651年にトマス・ホッブズが著した『リヴァイアサン』という有名な本ですが、よ~く見て下さい。この人物を形作っているのは、一人一人の人間。社会において、それぞれの役割を持った人間の集合体が“人工国家”の姿なのです。

学生の発言力を高める

image_004.jpg ◆:先生は、地域づくりをゼミで取り組んでいらっしゃると伺いました。
伊藤:はい。私のゼミでは、熊本大学、九州大学など九州にある5つの大学が集まって地域づくりなどについて研究する「九州五大学合同ゼミ」を開催したり、アメリカ・サクラメント市議会を傍聴するなど海外研修も行っています。前者は、もう12年の取り組みになりますね。
◆:なぜそのような取り組みを始めたのですか。
伊藤:最初、私のゼミでは、ハンナをはじめ、ルソーなどの本を読み解いていたんですよ。しかし、ただの知識の伝達にとどまって「机上の空論」で終わるため、学生がなかなか自分自身の言葉で語れなかったんです。
◆:これではいけない、と。
伊藤:はい。そこで、地域づくりに取り組む村などに実際に赴き、現地の方々や他大学の学生を交えて議論し合いながら、その取り組みや人々の思想に直に触れる取り組みを開始しました。とにかくフィールドワークをさせますね。自分で歩いて、見て、感じて、それを基に自分の言葉で議論し合う。学生は、自分の言葉で積極的に発言するようになり、プレゼンテーション能力も上がりました。アメリカの研究生や学生などとも動じることもなく議論をしています。

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学生とともに成長する日々

image_006.jpg 伊藤:私は、学生たちが社会に出た時に、社会を形作る一人の人間として生きていける力を身に付けられるようにしたいと考えています。だから、「社会で求められる力とは何か」を常に考えて取り組んでいます。
◆:社会で求められる力とは何だとお考えですか。
伊藤:コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力とともに、絶えず探究する心を持ちながら世界を相手に闘うことができる力だと思っています。
◆:ゼミでの取り組みは、その一環というわけなんですね。
伊藤:現在はまだ発展途上です。今後、さらに世界を広げるためにアメリカ以外の国に行くことも予定しています。
◆:ところで先生は、現在、本を執筆中だと伺っています。
伊藤:はい。人間が、“共に生きる”ことの難しさについて考えてきた歴史を、地域社会など多様な共同体をめぐる政治学という観点から書いています。ハンナのほか、水俣病問題に立ち向かった石牟礼(いしむれ)道子さんや人間の疎外について考えた日本の政治学などの事例を挙げ、比較・関連させながら書いています。いろいろと暗中模索しているところです。人間が“共に生きる”ためにはどうすれば良いのかは、一生考え続けるテーマですね。 学生とともに、成長させられる日々です。


◆:終始、柔和な笑顔で語られた伊藤先生。たくさんのお話を聞かせていただきありがとうございました!

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(2012年6月6日掲載)

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