平成22年度予算編成に関する要望(声明)

熊本大学長  谷口 功 平成22年度の予算編成に先立ち、「事業仕分け」作業が進められ、大学関連の予算も対象になっています。事業仕分けの現状を見ますと、新政権に期待した高等教育関係の予算が充分に確保されるという私たちの期待に対して、必ずしも期待どおりには進んでいないのではないかと危惧しているところです。
本学は、これまで社会の皆様からのご期待に応えるべく、地域の拠点大学として、教育、研究、医療、社会貢献等を構成員一丸となって推進してきた立場から、これ以上の高等教育機関の弱体化による我が国や地域の活力の低下を招かないように、平成22年度の予算編成に際して、下記のことを要望します。

新政権の高等教育機関に対する基本姿勢の堅持と推進を
マスコミ報道等にありますとおり、「地域科学技術振興・産学官連携」やいわゆる“グローバルCOE”などの「大学の先端的取り組み」や国際化社会への対応としての「国際化拠点整備事業」などの補助金等に関する仕分け結果が、「廃止」や「削減」とされる等、先端的研究関係予算や地域産学官連携予算、学術・科学技術関係予算の大幅な減額が提案されています。また、国立大学の基盤経費である「国立大学法人運営費交付金」についても「国立大学のあり方を含めて見直し」、「特別教育研究経費については予算要求の縮減」とされました。この仕分け結果は、新政権が挙げていた政策(「国立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直し」、「国立大学病院運営費交付金については、・・・速やかに国立大学法人化直後の水準まで引き上げ」等の記述:『民主党政策集INDEX2009』にある)と方向が異なるようにも見えます。
周知のとおり、国立大学法人の運営費交付金は、これまで年々削減されています。本学においても法人化後の5年間にいわゆる効率化係数及び附属病院の経営改善係数分として毎年4億円近い削減を経験してきました。この減額に対応して、人件費の大幅削減や業務の見直しを含むあらゆる努力によって節約を実施し、病院経営の大幅な効率化、さらに外部資金の獲得努力等による収入増を図るなどの経営努力を進めてきました。そのなかで大学の本務としての教育・研究の高度化・改善及びその成果の社会的な還元に果敢に取り組んで参りました。おかげさまで、社会からは大きな讃辞や期待のエールをいただいております。しかし、これらの努力も限界に来ており、社会の皆様からの負託に応えて次世代を担う人材の育成や研究開発を高い質を維持して遂行するにあたり、これ以上の経費削減は到底看過できるものではありません。

大学の使命達成に向けた高等教育予算の充実が必要
現時点では、平成22年度予算の編成手順が必ずしも明確ではありませんが、報道されている担当者の談話等を勘案しますと、仕分け作業の結果が反映されると言われています。もとより、今般の「事業仕分け」の作業において、そのWGが追求しておられる「無駄の排除」や「効率性の追求」という観点は、一般的には、極めて重要です。また、予算編成過程を透明化することも優れた取り組みと考えております。加えて、昨今の財政事情のもとで、予算に多くの制限が生じることは充分に理解できます。
しかし、人材育成や研究開発を推進するための運営費交付金等の高等教育・研究予算の在り方については、我が国の将来に対する長期的な国家ビジョンや展望を見据えて議論されるべきものであります。「友愛」、「コンクリートから人へ」と人を大事にする社会で、「架け橋」としての役割を果たし、国際的にも畏敬の念を持って迎えられる我が国の姿を理念として掲げる新政権において、その将来像を実現するためには、国家の知的基盤である大学の教育研究の振興は不可欠です。また、大学が担っている高等教育や学術研究の本質から言っても、短期的な経済合理性のみの観点からの議論で「廃止」、「削減」等の判断をすべきものではありません。「無駄」か否かやその内容についても充分な議論が必要です。
仕分け作業においても、地方に位置する大学の重要性や基礎研究等の重要性が認められているところです。これらの意見を充分に反映させて、来年度からの法人化後第二期の中期目標・計画期間において、国民の負託に応えて高度な人材育成機関としての国立大学の役割を果たすためにも、将来を担う人材の育成に対する投資の拡大を基本とする「見直し」を実施の上、充分な予算的な配慮が必要です。

豊かな未来を創るために
本学もその社会的使命を果たすべく、最大限の努力を重ねることは言うまでもありません。この間、人材育成はもとより、高度医療、研究開発等においても幾多の成果を上げ、国民生活の水準向上や地域産業の活性化にも尽力して参りました。これからも、法人化後第一期の成果と課題を検証し、不断の改革を進めながら、地域における知の拠点としての役割を担って参ります。地域の文化拠点、産学連携の中核的な役割、地域医療の拠点として地域社会への貢献を果たしつつ、研究拠点大学として、厳しい競争環境のなかで世界の第一線での先端研究を進め、世界にその研究活動の成果を発信し、国際社会のリーダーとして活躍する人材を輩出して国際社会に貢献して参ります。
グローバル化が急速に進行するなかで、資源に乏しい我が国の将来のためには、高度な人材育成が不可欠であり、一方、我が国の高等教育に対する公的資金の投入割合がOECD諸国のなかで最悪(国際的な平均の半分以下)の状態であることを考えると、我が国が持続的に発展していくためには、高等教育において、基盤的経費(国立大学運営費交付金など)と競争的資金(科学研究費補助金など)のバランスの取れた充実こそが、我が国の将来にとって不可欠であると考えます。
大学が、その使命を充分に果たすことができるように、充分に配慮した財政措置についての政治主導の決断を切に望みます。

重ねて、我が国の将来を担う大学の運営において、輝く未来に責任を持って、教育(人材(財)の育成)、研究(我が国の推進力としての先端的な研究開発による、知の創造)、社会貢献(成果の社会への還元)を推進するために、新政権の見識ある判断をお願い申し上げる次第です。




平成21年12月1日
熊本大学長  谷口 功


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