第12代熊本大学長就任のご挨拶
本日、熊本大学第12代学長として就任いたしました谷口 功でございます。宜しくお願いいたします。
学長就任に当たり、改めてその重責に身の引き締まる思いです。ここに本学の教職員の皆様とともに、心を奮い立たせて難局に取り組むつもりですので、皆様のご協力を重ねてお願いいたします。
1. 熊本大学の将来に向けての所信
今年度は、法人化第一期6年の最終年度であり、法人評価の結果を踏まえて、平成22年度からの第二期における本学の飛躍のための準備の年でもあります。第二期の中期目標計画期間に向けての運営は、本学の将来を決定づける極めて大事な時期になります。この認識に立って、また、本学は、地域の知の拠点として、かつまた、グローバルなアカデミックハブとしての役割を目指していることから、第一期の成果を伸ばしつつ、見直すべきところは見直しながら、本学の理念を具体的に実現すべく進めて参ります。
運営の基本的な考え方について
今日の大学の社会的使命は、周知の通り、教育(人材育成)、研究(知の創造)、社会貢献(人材や知の創造に基づく社会的な還元)の3点に集約されます。
本学にあっては、その基本方針である、「人の命、人と自然、人と社会」の諸科学の深化を通して、総合大学として、教育と研究のバランスある発展を図り、その成果を社会に還元するという使命を引き続いて果たして参ります。
この基本的な構造と、本学が法人化第一期に掲げた中長期的な7つの課題である
1)社会の要請への機動的な対応
2)「人の命、人と自然、人と社会」の科学を推進する総合大学
3)新しい学術領域の創成
4)柔軟な教育研究体制の構築
5)社会との連携、社会貢献
6)高度情報化キャンパスの構築
7)学長のリーダーシップに基づく戦略的な大学運営
などを一層進めます。
さらに、これらに加えて、
8)国際化の推進
を一層鮮明にして進みたいと思います。そのために、本年度より、従来の理事副学長に加えて、国際交流担当の副学長を新たに任命いたしました。
学内外に向けての「あなたのための熊本大学(KU4U)」もその内容をさらに充実させながら、基本的に引き継いで参ります。
2. 教育や研究等についての課題
(1)教育
教育においては、今後益々必要になる総合力の源としての教養教育の重要性に充分配慮して一貫した教育体系の整備が重要と考えています。社会に貢献する多様な人材の育成が必要です。もとより、熊本大学の教育については、多くの教育GP等の獲得でも分かります通り、定評のあるところでは有りますが、さらに、世界を舞台に活躍できる人材の育成に力を注ぐ必要があると考えています。本学の教育力をさらに向上させ、世界標準の教育を基本として、その上に特色ある熊本大学の教育が形成される必要があると思っています。
学生諸君が、自らの将来の豊かな人生の設計のために、また、社会に貢献するために、必要な情報を集め、考え、判断して、それを実行に移すことができる力を持った人材として育っていくために必要な教育とはどのようなものかを、教育の原点に立ち返って考える必要が増大していると思います。獲得した知識や技術を基本として、それを基に、学生が、考え判断して行動できる力としての「知力」として発揮できるための教育を実現していく必要があります。
世界標準の、さらには、世界の先端をいく高い質の教育をもって、海外からの留学生の誘致にも努力したいと考えています。現在本学は、約300名の留学生が在籍していますが、それを、出来るだけ早い時期に500人とし、将来的には、10人に一人が留学生、すなわち、本学の学生数は、総計約1万人ですので、世界の各国から1000人の優秀な留学生が熊本大学に来て学んでいるという状況を目指したいと思います。そのためには、現在、23カ国82機関と広がりつつある協定大学等との連携を中心に、さらに広く門戸を世界に拡げつつ、一方で、厳選して優れた学生を誘致する仕組みをきちんと作り上げる必要があります。将来的には、我々が、外に出て行く、外に分校をつくるということも視野に入れる必要が有るかもしれません。このような国際的な環境のキャンパスの中で日本人学生も自ずと国際化していくことが期待されます。多くの卒業生は、これからは益々、世界を舞台に活躍することになります。そのためにも国際的に開かれた大学が不可欠になります。熊本大学はじめ我が国の大学で学んだ、日本の文化や日本語を理解できる、留学生が世界の各地で活躍する姿は、我が国の将来にとっても極めて重要?ことと考えています。我々もまた、世界からの留学生を受け入れるために、彼らの国々の文化や考え方を理解する努力をしなければなりません。世界の人口は増加していますので、特に九州地域における少子高齢化社会は、視野を少し拡げて考えれば、新しい切り口も見えてきます。
(2)研究
研究においては、グローバルCOEを始めとする世界最高水準の研究を強化することは、勿論、極めて需要なことです。研究面において、社会からも一目置かれる存在であることが熊本大学の存在感の重要な部分を占めることにもなります。また、次の時代に活躍する学生を育てるのですから、当然、次の時代を見据えた先導的な研究が進められる現場で教育していくことが重要になると考えています。
人文社会分野では地域や社会の未来を見据えた施策形成や文化形成への寄与がありましょう。特に本日発足した永青文庫研究センターは、今後世界的な教育研究拠点として、G-COE拠点を目指して発展していただいきたいと思います。このセンターは、もとより、今後、人文社会系の研究の特徴を生かして、また、全学的総合的な力を結集して学際分野を含めて、新しいG-COEの獲得を目指したいと考えています。
自然科学分野では、地域の産業の育成や我が国の新しい科学技術の展開を含めた技術革新への寄与などがあります。特に、現在G-COE研究として、推進されている衝撃エネルギー科学研究や新しい環境負荷の少ない熊大マグネシウム材料研究等はもとより、新しい産業を興していくような様々な科学や技術に対する取り組みを強化したいと思います。特に、昨今の世界的な産業活動縮小の中で、拡大が期待されている分野としての環境エネルギー関連分野としての太陽電池など自然エネルギー活用に関する研究が期待されます。エコキャンパスを目指して、例えば、キャンパスを一つの実験場として太陽電池を活用、研究すること等が考えられます。昨今の我が国政府の産業育成の基本方針とも相まって、既に自然科学の工学系を中心に検討していただいているところです。環境やエネルギーに強い熊本大学として、益々発展させたいと考えています。
生命科学分野では、2つのG-COE研究をはじめとして、先導的な研究が数多く進められているところです。医学薬学系で、合わせて11に及ぶ寄附講座は、社会の本学の研究教育力への期待の表れでもございます。高度医療の推進や地域医療への貢献など、高齢化社会の中での健康管理など、社会からの要請が極めて大きなものがあると考えています。
また、新しい知、概念、考え方などの形成や各分野の学際、複合、融合領域等、次のシーズを生み出す先導的な学術の育成をめざした、大学院先導機構の果たす役割も極めて大きなものがあると考えています。
もとより、G-COEなどに代表される先進的な研究に加えて、次の発展のためのシーズとしての、自由な発想に基づく多様な分野の基礎研究や新たな研究拠点の形成も極めて重要であることは言うまでもありません。
新しい概念を生み出すような、未来にチャレンジする研究、50年後に花開くような研究へのチャレンジを大事にしたいと思います。特に若い研究者のチャレンジ精神あふれた取り組みに期待したいと思っています。
(3)社会貢献
社会との繋がりに関しては、本学は、地域の知の拠点として、人文社会分野では地域や社会の未来を見据えた社会の方向性を提示することや、自然科学分野では、産業界との連携や経済活動の活性化、生命科学分野では、地域医療や先端的な高度医療の担い手としての大きな寄与があります。
これらを通して、社会の変革(イノベーションと呼ばれている)全般への寄与が求められています。本学が、社会のオピニオンリーダーとしてまた、それぞれの分野を牽引する世界のリーダーとして貢献することが、今後益々重要になると考えています。
(4)病院
大学病院については、大学全体の予算の中でその占める割合が大きいこともあり、これまで、病院長をはじめ職員の多大な努力により病院の経営・運営に当たって参りました。今後とも、地域医療、先端医療、医療人育成を担う大学病院の役割を十分発揮するとともに、病院の経営・運営に注力して参りたいと考えています。
(5)環境整備
学生や職員が、安全で快適に過ごせる教育研究環境を整備していく必要がありますので、財政難の中で困難が伴いましょうが、全学的なキャンパス整備も重要な課題です。優先順位を付け、計画を立てて、順次整備を進めていきたいと考えています。
(6)体制整備
構成員の一体的な取り組みに向けて、各部局、附属学校園との連携を強化するために、各理事・副学長には、それぞれの所掌事項に加えて、担当キャンパスを決めて、それぞれの部局からの現場の声が身近に届く様にもしています。また、国際交流については、その重要性と多面的な業務を踏まえて、特に担当副学長を設置いたしました。病院長にも病院の経営面と医療人材育成の面の重要性に鑑みて、副学長としての役割もお願いしています。
また、本学が男女共同参画を推進する先進的な組織でもありたいと考えています。
3.学内行事等
今年度は、法人化第一期6年の最終年度でありますとともに、1949年に制定された新制大学の制度から数えて、60周年にあたります。新制大学発足60周年、還暦の年です。新たな飛躍への区切りの年になりますので、本年秋を中心に、本学の活動を広報する意味で、いくつかのイベントを計画しています。
まずは、11月1日にホームカミングデー、2日には60周年記念式典を執り行います。また、その周辺での多彩な行事が計画されています。例えば、これまで国内各地に加えて、中国、韓国、インドネシアなど海外で行ってきた熊本大学フォーラムは、今年度は、外に出かけることはいたしませんが、協定大学など世界の教育研究機関の方々を熊本にお招きして、熊本で国際会議などを、熊本大学フォーラムとして開催したいと思っています。また、11月20日から29日には、東京・上野の国立科学博物館で、熊本大学の紹介のための熊本大学展が計画されています。加えて、各部局にも独自の様々な企画をお願いしているところです。
我が国の財政状況や昨今の景気動向が益々深刻になる中で、おそらく、今後も運営費交付金の増加が困難なことを念頭に置きますと、大学運営は全体的に極めて難しい時期になるかと思います。また、昨今の経済情勢の中では、熊本大学基金の募金も困難を極めるかもしれません。一方、法人化後、第二期の中期目標計画期間に向けての本学の運営は、本学の将来を決定づける極めて大事な時期になります。
従って、構成員の英知を結集することで、様々な先導的な取り組みを実行して、これまで築かれてきた本学の国内外に於ける存在感を、今後ともに、さらに一層、高めることが重要であると考えています。本学の特徴を最大限生かして、社会からの要請に対応した先導的な教育研究に対する取り組みが益々重要になります。また、社会と連携することで、さらに社会に、世界に開かれた大学を目指していきたいと思っています。
4.終わりに
あえて絞って、当面特に重要な3項目を再度あげますと、
1)学生が豊かな人生を送るための支援としての知力を獲得するための「教育」の強化、いわゆる「熊大力」の精査と強化、
2)G-COEをはじめとする特色ある研究の推進と研究力の強化、加えて、特に、人文社会系へのG-COE育成。
3)大学の国際化に向けての国際交流の強化
の3点に留意して推進したいと思います。
これからも 本学構成員の皆さんと協力して、全学を挙げて本学の存在感を高め、社会から求められる大学であり続けることで、本学の明るい未来への展望をきり拓きたいと考えています。
これらを通して、熊本大学は、在学生、卒業生、職員の皆様が、誇れる大学であり。社会から憧れられる存在として、また地域に根ざしてグローバルに展開する熊本大学として益々磨きをかけたいと考えています。
本学はそれが出来ると確信しています。私も学長として先頭に立って、最大限の努力をしたいと思います。
平成21年4月1日
第12代熊本大学学長
谷口 功
注:KU4U
Upgraded Education: 未来を生き抜く人材の養成(知力あるプロの養成)
Unique Research: 知的価値の創造
Union with Community:社会連携(地域連携と社会貢献)
Universal Contribution:国際化(留学生教育と国際貢献)
経営企画本部 秘書室
096-342-3206