平成21年度入学式式辞

平成21年度入学式

本日ここに、御来賓各位の御臨席を賜り、副学長、理事、部局長、教職員と共に一同に集い、熊本大学第61回入学式を執り行うことができますことは、1947年(昭和24年)学制改革によって、新制大学として発足を起点に数えて、60周年を迎える本学にとりまして大変喜ばしいことでございます。学部学生、編入生合わせて 1897名、特別支援教育特別専攻科学生23名、養護教諭特別別科学生38名、大学院学生910名、総勢2、868名の若き希望に満ちた皆さんの一人一人を心から歓迎いたします。この中には15カ国以上に及ぶ国々からの留学生70名が含まれています。ようこそ熊本大学へ(Welcome to Kumamoto University)。

入学を果たされた皆さんの日頃の研鑽と努力に敬意を表します。また、その志を支えてくださった、ご両親、ご家族、ご友人、ご指導いただいた先生方など数多くの方々がおられるかと思います。ここに深く感謝しつつ、ご支援いただいた方々にも心よりお慶び申し上げます。新入生の皆さん入学おめでとう!

○熊本大学の歴史と概要
さて、本学は、肥後細川藩が250年余り前に設置した、日本初の医療施設、再春館や蕃滋園に源を有する医科大学、薬学専門学校、夏目漱石、ラフカディオ・ハーン等の教授陣を有し、二人の首相、また、物理学者で随筆家でもある寺田寅彦をはじめ数多くの偉人を輩出した第五高等学校の他、師範学校、工業専門学校等をそれぞれの前身とする七つの学部とそれに対応する大学院により、その教育組織が構成されています。また、本学は、これらの7学部・大学院と附属病院、附属図書館、附属学校・園、そして研究所、教育、研究センターなど、十五余の施設を持ち、約一万二千人の学生・生徒と二千人の教職員を擁する総合大学であります。その前身から数えると長い歴史の部局では250年余、比較的新しい部局においても、110年余の我が国有数の長い歴史と伝統を持つ大学であることは既にご承知の通りでございます。

開学以来、本学は、「総合大学として、知の創造、継承、発展に努め、知的、道徳的、及び応用的能力を備えた人材を育成することにより、地域と国際社会に貢献する」という、理念に基づいて、地域の知の拠点として、地域のリーダーとしての役目を果たすことはもとより、世界に向けて様々な情報を発信しながら、世界の学術研究拠点、グローバルなアカデミックハブとして、その存在感を高める努力をして参りました。

今日では、生命科学、自然科学、人文社会科学のバランスある発展を目指して「人の命、人と自然、人と社会」を支える各学術研究分野において、世界を先導する教育研究を進め、その成果を社会に還元する総合大学として、文化、科学技術、医療、教育などの発展に貢献しているところでございます。

特に、教育においては、累計30件にも及ぶ「特色ある教育プログラム」が優れた取り組みとして文部科学省から認定されてきたことからも分かります通り、その教育力の高さと質の高い教育内容は定評のあるところです。

皆さんが卒業後に活躍する社会は、現在よりもさらにグローバル化が進んだ社会であり、皆さんには世界を舞台に活躍いただかなければなりません。そのために、本学の教育は、国際水準の教育であることを基本として、その上に特色ある熊本大学の教育が形成され、皆さんのこれからの豊かな人生の設計のお手伝いをいたします。

施設面での整備も急速に進んでおり、例えば、現在、キャンパスは、千数百台の教育用パソコンや、350を超える中継局で全学の大部分をカバーする無線LANで結ばれた高度情報化キャンパスにもなっています。

一方、研究面においては、その取り組みや成果が社会からも一目置かれる高度な内容であることを自負しています。次の時代に活躍する皆様を育てるのですから、当然、教育の場は次の時代を見据えた先導的な研究が進められる現場でもあることが重要になると考えています。

本学は、発生医学分野、エイズ等の感染症分野、それに衝撃エネルギー科学分野の3分野で、グローバルCOEと言われる世界を先導する教育研究拠点として選定されているばかりでなく、遺伝子改変マウス、環境に優しいマグネシウム合金、バイオエレクトリクス等の分野では、本学が中心になった国際的ネットワークが形成されています。また、この4月からは文学部に附属「永青文庫研究センター」が設置され、世界的価値を有する細川家に伝わる古文書としての歴史的な史資料に関する研究が進められているところです。さらに、歴史考古学、生命倫理、ナノテクノロジー、環境関連科学、太陽電池等のクリーンな新エネルギー研究等、数多くの分野で日本をリードする特色ある研究がなされています。

私共教職員は、このような伝統と実績を有する熊本大学で、教育・研究・医療等に従事することを誇りに思っていますし、皆さんがその一員として加わっていただいたことを大変嬉しく思っています。

○ 新入生の皆さんへ
入学式にあたり、新入生の皆さんには、お祝いのメッセージを述べたいと思います。
実は私も皆さんと同じ1年生です。本日、ご来賓としてご出席いただいている前学長から熊本大学の約束としての「あなたのための熊本大学:KU4U」を引き継いで、この4月1日に学長に就任したばかりです。ちなみにKU4Uとは、
Upgraded Education: 未来を生き抜く人材の養成(知力あるプロの養成)
Unique Research: 知的価値の創造
Union with Community:社会連携(地域連携と社会貢献)
Universal Contribution:国際化(留学生教育と国際貢献
のことで、本学の理念をキーワードとして表しています。皆さんのために、社会のために大学が働くことを誓ったものです。

私も1年生ですから、今、皆さんと同じ様に、希望にあふれた本学の将来を見据えています。これから、皆さんと一緒になって、学び、悩み、考えながら、前を向いて行動することで、熊本大学を世界的にも益々存在感のある大学にしたいと思っています。
ここで皆様に申し上げている激励の言葉は、そのまま私自身の心を奮い立たせる言葉でもあります。

ご承知の通り、国立大学には国からの相応の経費が支援されています。国が皆さんに投資をするのは、皆さんが次の世代を担う社会の資産であり、社会から大きな期待をかけられているからに他なりません。したがって、皆さんには、社会からの期待に応えて、その責任を果たし、自らと社会の幸せに貢献するための能力を養うことに尽力していただきたいと思います。

我が国は、地下に埋蔵された資源に乏しい国ですので、人が貴重な資源です。一人一人の能力の中に新しい価値を生み出す源を求めざるを得ません。新しい創造的な社会的価値を生み出し、社会を良い方向に改革していくこと、それを昨今では「イノベーション」と表現されています。新しい社会への変革に向けて、皆様の新しいセンスやアイデアで、イノベイテイブな社会を創りだす担い手になって欲しいと思います。

皆さんが、自らの将来の豊かな人生の設計のために、また、新しい社会づくりに貢献するために、必要な情報を集め、考え、判断して、それを実行に移すことができる力を持った人として育って欲しいと思います。獲得した知識や技術を基本として、考え、判断して行動できる力としての「知力」を獲得していただきたいと思います。

では、知力はどのようにして身につけるのでしょうか。その答えを皆さん自身が大学生活の中で追求してください。人生を豊かにし、様々な角度から自らの判断や行動を評価するためにも様々な教養科目を学び、読書をし、さらに、サークル活動、アルバイトやボランティア活動など、自らの行動、活動の中で「自らの生き方」を見いだしていく以外に方法は無いかと思います。

教養教育に加えて大学が提供する専門教育は、皆さんが社会に出てそれぞれの分野で生きていくための力強い手段を手にするためのものです。それぞれの学術分野の最先端を基礎からしっかりと学びながら、次の最先端を担える力をつけてください。

特に、新しい発見を目指して、研究に多くの時間を割かれる大学院に入学される皆様には、世界を先導する仕事をしていただきたい。新しい概念、新しい切り口、考え方の構築、新事実の発見やその解明、新しい手法や技術の開発など、世界で誰も出来なかったこと、誰もやらなかったことに挑戦して欲しいと思います。自然科学のみならず、人文社会科学、生命科学、文化、芸術、医療等全ての学術領域で、新しい知の創造と蓄積に寄与してください。その全ては、やがてイノベーションにつながっていくと確信しています。

○私のささやかな経験
私は、化学を専門としています。少し細かく言うと、生物電気化学という領域です。電気と化学の境界領域の電気化学、それに研究対象を生物系の物質を用いて、あるいは、生物に学んだ仕組みを取り入れた生物電気化学という領域を専門として学び、また研究して参りました。最近この分野では、物質が持っているエネルギー(化学エネルギーと言います)を生物と同じ仕組みを使って、電気のエネルギーに変える生物燃料電池の研究などが急速に進んでいます。私が学生の頃に、生物の体内での酸化還元反応の仕組みの一端を知りたいと思って先生方や仲間と一緒に始めた小さな研究領域が、多くの失敗を重ねながら偶然と幸運の重なりの中で、少しずつ進歩し、今では、次世代に向かっての新しいエネルギー変換法や情報変換法として、注目を浴び大きく成長して、産業界も参画した学術分野の一角を形成しつつあります。

○学生の皆さんへのエール
この私のわずかな経験の中から、学んだことを基に皆さんに大学生活に対するヒントとエールを送りたいと思います。

21世紀は、皆さんが支え、担い、発展させていく世紀です。皆さんへの社会の期待が大変大きいことを改めて認識してください。自らの未来を切り拓いて、次の時代を創りだすための力を身につけてください。

そのために、皆さんには好奇心を持って、いろいろなことにチャレンジしていただきたい。臆病にならずにいろいろなことに挑戦して欲しいと思います。本学には、海外活動奨学金なども設定されています。海外経験を含めて様々な経験の中で、視野を広めていただきたいのです。

もっと身近な例でお話しします。
先のWBC(ワールドベースボールクラッシク)決勝戦の日本と韓国、両国の力を出し切った見事な試合に感動した方はたくさんおられると思います。特に真剣勝負で、最後まで粘って、その末に勝ち取ったイチロー選手の劇的な勝ち越し安打に感動した方は、数多くおられるかと思います。私もその一人です。そのイチロー選手は、その時々に彼の哲学をいろいろ話します。その短い言葉の中に本質をついた言葉が数多く有る様に思います。例えば、「イチロー語録」の中に、「夢をつかむと言うことは一気には出来ません」とか、「小さなことを積み重ねることで、いつしか信じられないような力を出せるようになるのです」というような言葉もあります。「天才イチロー」は、志を高く持って、それに向かっての日々の一歩一歩の努力の中で、築き上げられたことを私たちに教えてくれます。 WBCの結果は、その努力の成果であったことが理解できます。

また、テレビの大河ドラマ「天地人」の主人公の直江兼続が仕えた上杉家は、後に出羽米沢藩を治めますが、その第9代藩主の上杉鷹山(うえすぎ ようざん)の有名な言葉です。皆さんも良くご存知と思います。私の大好きな言葉の一つです。「成せばなる、成さねばならぬ何事も、成せぬは人のなさぬなりけり」、というのがあります。イチロー選手も「出来なくても仕方が無い」とは終わってから思うことであって、途中でそれを思ったら絶対にできない」と言っています。
出来るか出来ないかは、やるかやらないかであり、すべて私たち自身の意志、気持ちの中にあることを言ったものです。

○まとめに
志を持って挑戦し、それを実現するための努力を怠らなければ、能力は後から無限についてくると思います。是非、日々の努力の中から、激変する社会を恐れるのではなく、むしろ積極的に取り込んで、自らの夢に向かって新しい時代を切り拓いていく人になって欲しいと思います。それを実現するための力を身につけていただきたいと思います。

新入生の皆さんには、熊本大学の学生として、誇りをもって、また、今日の希望に満ちた高い志をいつまでも持続されて、個性豊かな学生生活を送られることを期待しています。また、社会からは「熊大生」として、畏敬の念を持って迎えられる様に心がけていただきたいと思います。

そして、卒業するときには、皆さん一人一人が心の底から熊本大学に来て良かったと思えるように、お互いに共に力を合わせて、「誇れる」熊本大学に磨きをかけましょう。さらに、社会の皆様から「憧れられる」熊本大学にさらにさらに磨きをかけようではありませんか。

教職員一同、最大限の努力をして皆様の輝かしい未来を共に作り上げていくことをお約束いたしまして、新入学の皆さんへのお祝いの式辞とします。

平成21年4月4日
熊本大学長     谷口 功


平成21年度入学式
新入生を代表して宣誓する尾本響子さん
平成21年度入学式 平成21年度入学式
熊本大学フィルハーモニーオー
ケストラの演奏で新入生を歓迎

熊本大学体育会応援団および
九州応援推進ネットワークの皆さんが
演舞を披露


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