年頭所感

熊本大学長  谷口 功 皆様、新年明けましておめでとうございます。
真白な雪につつまれた清らかな年末年始を御家族やご友人等と共に和やかに楽しくお過ごしいただいたことと思います。皆様には新たな年に向かって鋭気を充分に養っていただけたでしょうか。今年は兎年、文字通り次のステップへ飛び跳ねる「飛躍」の年にしたいものです。年頭に当たり新たな飛躍に向けて所感を述べさせていただきます。

はじめに
昨年は、日本人のノーベル化学賞受賞や「はやぶさ」の帰還など、嬉しい出来事もたくさんありましたが、一方で、我が国を取り巻く国際社会や経済・財政の状況は大変厳しいと感じられた年でもありました。先が見えない時代にあって、人々が不安や萎縮した状況から未だ充分には脱却できていないのではないかと思います。国際社会の中で、特にアジア諸国の中での我が国の存在感が低下していることも否めません。しかし、今こそ我が国がこれまで培ってきた様々な叡智を結集して新しい時代を創りだすことが重要です。社会は新しい価値の創造と変革を求めています。したがって、 今年は高等教育機関の役割が益々大きくなると考えられます。私たちはその期待に応えなければなりません。

我が国の高等教育を取り巻く状況
昨年は、高等教育や基礎科学・技術研究、さらには人材育成などについても予算削減の問題が提起されました。「新成長戦略」の中で、明るい未来に向けて政治のリーダーシップのもと「将来への投資」としての高等教育の重要性について言及されていたにもかかわらず、財政難からそれに反する対応となったことに対して、我が国の高等教育の将来を危惧する関係者や市民の皆様の声が噴出いたしました。この声を背景に、昨年末に提出された政府の予算原案では、人材育成や科学・技術振興の重要性を勘案いただき、この皆様方の声を予算原案にかなりの程度反映させていただくことができました。特に、科学研究費補助金について30%以上の大幅増の提案は、私としても政府の基礎科学研究支援の立場を明確にしたものとして高く評価しているところです。

本学の取り組みの基本的な考え方
しかし、一方でこのことは、新しい時代の創造に向けて、われわれ高等教育機関が、社会の負託に応えて、自らその使命を達成するために最大限の努力をする責任を負っていることを要請されているものでもあります。本学は、社会の期待に応えて、自ら策定し公表した第二期の6カ年の中期目標計画期間における、目標・計画に基づくアクションプラン2010の実現に向けて努力していきたいと思います。すなわち、一昨年の新制熊本大学設立60周年を経て、次の60年に向けて踏み出した昨年に引き続いて、 第二期中期目標計画の第二年度である今年を、その目標計画の実施のための基盤の確立と飛躍の年にしたい と思います。
ご承知の通り、平成23年度の予算については、高等教育予算の総額は、前年度並みが想定されているものの、一般運営費交付金については大学改革促進係数による新たな削減率(本学は、マイナス1.3%)が設定されています。また、「仕分け」の結果として、科学技術振興調整費が組み替えられ、競争的資金でなくなったことによる間接経費の削減やグローバルCOE(G-COE)等の経費の減額等も考えられています。さらに教育研究に関する諸事業の新規採択中止などの結果は、本学の予算においても少なからず影響を受けるものと考えております。
また、平成24年度以降については、今年半ばまでに政府の「中期財政フレーム」の改訂が予定されており、その改訂内容によっては、国立大学法人関係の予算措置についても大きく変動する可能性があります。このことを、十分に認識して、将来への対応を考えていくことも必要になります。
こうした状況を踏まえながらも、大幅に増額される予定の科学研究費補助金やその他の競争的な経費等を充分に活用して、本学全体としての教育研究経費を確保して、 社会の要請に応えられる高度な教育研究を進めていきたい と思います。
教育や研究、診療をはじめとする様々な社会貢献等、大学が果たすべき使命・役割を充分に認識して、限られた財源を効果的に活用して、 「我が国を代表する研究拠点大学」としての熊本大学の輝かしい未来を創りだすために、本学の使命の達成に全力を尽したい と思います。

本学の新年における取り組み
本学は、アクションプラン2010にも示しております通り、 「憧れの大学」 として磨きをかけるべく、新たな課題に挑戦してまいります。また 「我が国を代表する研究拠点大学」 として、学生が国際社会の中で元気に輝く教育の実現、世界を先導する特色ある研究の推進、さらに国際化の推進等によって、世界的に卓越した存在感を示す大学として大きく飛躍したいと思います。
昨年には、第二期のスタートの年として、既にいくつかの重要な取り組みも始まっています。
教育においては 、学生の立場に立った教育の在り方を議論して改善に取り組むことが確認され、平成23年度より、教養教育の一部の改善が始まります。これからの学生諸君には、変化の激しい時代にあって、国際社会で活躍できる人材として成長していくことが必要です。大学はこのための教育内容を準備し継続的な改善を進めることが必要で、それを実行して参ります。また、本学の歴史的文化的な資産でもある第五高等学校時代の煉瓦づくりの建物を活用して、本学の学生としてのアイデンテイテイーや誇りを醸成することを目指した新しい講義等も開始したいと思っています。
研究については 、3つのグローバルCOE研究をはじめとする大型の研究プロジェクトが進んでいます。新たに生命科学系の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」事業、自然科学系の「地下水環境リーダー育成国際共同教育拠点」事業等も進められています。人文社会科学系の「永青文庫研究」等の成果も社会で大きく取り上げられています。 KUMADAI マグネシウム合金材料やパルスパワー応用研究をはじめ、各学術分野で数多くのユニークな世界的な研究も大きな成果が示されているところです。さらに新しい研究成果が数多く出てきておりますが、皆様には独自の特徴ある研究の推進に一層の努力を期待したいと思います。
また、社会の リーダー人材育成 にも資する学生諸君とルース駐日アメリカ大使との懇談会やスーザン令夫人との男女共同参画シンポジウムの開催(昨年10月)等、国際的な諸課題に対する取り組みも評価されているところです。新年早々には、鈴木文部科学副大臣を交えた法学部GPシンポジウムも実施されます。
大学の 国際化については 、留学生500人計画をはじめとして国際化に向けてパートナー校の拡大・連携強化、地域の関連組織と連携した留学生の活動の活性化等、様々な取り組みを進めているところです。現在、留学生も400人近くになり、協定校数も110近くに至っています。加えて、昨年12月には、建都1000周年の記念の年であったベトナムのハノイ市にて第8回熊本大学フォーラムを開催し、ベトナムの主要大学と連携を深めたところです。これからも国内外で本学の活動をご理解いただくための広報活動を積極的に進めてまいります。
地域連携・地域貢献強化 の一環としては、「高等教育コンソーシアム熊本」の活動や地域の発展に向けての県や市と連携した「くまもと都市戦略会議」の設置等にも寄与してきたところです。国際都市熊本としての取り組みを進め、また、アジアへの進出も連携して推進することを確認しているところです。
これらの大学としての取り組みを含めて、大学の社会的な使命の達成を運営面で力強く支えるための 事務機構の大きな改革 も順調に進んでいます。

平成23年度からの新規事業
これらの 目標や計画を実現するために 、新年度より「自然科学研究科の複合新領域専攻の改組」、「生命資源研究・支援センター及び薬学部附属創薬研究センターの改組」などが進められます。他にも、リーデイング大学院(博士課程教育リーデイングプログラム)等への申請も考えていきたいと思います。また、特別経費等による「グローバルなアカデミック・ハブを目指す国際拠点推進」事業、「産学官共同による共創的地域マネージメント創成」事業、「ノックアウトマウスを用いた疾患関連遺伝子の解析」、「新生児仮死後脳症に対する地域型集中医療システム構築」事業、「発生医学の共同研究拠点」等の継続事業はじめ、新規事業としては「生物多様性のある八代海沿岸海域環境の俯瞰型再生研究」プロジェクト、「革新ものづくり展開力の協働教育」事業、「臓器移植医療改革のための附属病院移植医療センターの構築」等の教育研究プロジェクトが内定しています。さらに、地域の産業の育成・振興に資するために、有機薄膜材料に関する地域科学技術振興・産学官連携事業として、地域の「有機薄膜技術高度化支援センター」事業等を強力に推進したいと考えています。
熊本大学の発展の基盤としての 施設整備 についても、継続事業の他、新規に「附属病院関連の整備」、「附属特別支援学校整備」、「黒髪南地区のライフラインの再生事業」等が進められる予定です。これらの基盤的な整備の成果を有効に活用いただき、教育・研究の高度化や地域医療・先端医療の推進に尽力いただきたいと思います。加えて、平成22年度から実施されている全ての事業所でのエネルギー消費量(CO2も連動)の年1%削減義務に対応する整備も引き続いて進めさせていただきます。皆様のご協力を御願いする次第です。
人事運営面では 、いわゆるポイント制の有効活用による各部局等の効果的な運用による活力ある人事制度の構築、障害をお持ちの方が充分に活躍できる体制・環境の整備等を進めてまいります。

総力を結集して「憧れの熊本大学」へ
本学の諸活動は、担当理事、副学長、病院長、各部局長等との連携協力のもと、各部局や附属組織の教員の皆様、病院関係者、技術職員、新しい組織に生まれ変わった事務組織(経営企画本部、マーケテイング推進部、教育研究推進部、学生支援部、附属病院事務部、運営基盤管理部)の職員、それに学生諸君等、本学を構成する皆様一人一人によって支えられています。皆様の本学の将来への熱い思いと志、それぞれの立場での献身的な努力と創意工夫で成り立っております。日頃のご尽力に対して改めて心から感謝いたしますとともに、新しい年においても皆様一人一人の一層のご尽力、ご努力をお願いする次第です。
本学が地域のリーダーとして、また、国際的にも存在感のある大学として社会の皆様から「憧れの大学」として認めていただき、今後も益々大きく成長できるように、皆樣方の力を結集していただきたいと思います。

むすびに
平成23年は、 熊本が注目される年 でもあります。九州新幹線の全線開通で注目され、次年度の政令都市に向けての飛躍の年でもあります。豊かな自然環境と歴史・文化に育まれた熊本が、学生諸君をはじめとする若者が生き生きと活躍する学園都市として、また、高度な医療体制に支えられた安全安心な都市であり、かつまた知的な研究開発型の知識基盤社会の中核的な都市として益々進化し、 我が国を代表する国際都市として大きく飛躍すること が必要です。明るい将来を皆様と共に創りだすためには、 大学の役割は益々大きくなると思います 。重ねて皆様の一層のご協力と様々なお知恵の提案をお願いいたします。
結びに、新しい年が皆様にとって、すばらしい年でありますよう、皆様の御健康と御活躍を祈念いたしまして、年頭の挨拶といたします。




平成23年1月4日
熊本大学長 谷口 功

お問い合わせ
経営企画本部 秘書室
096-342-3206