教育研究予算の確保についてのご支援のお願い



熊本大学長 谷口 功 1.はじめに
8月末に各省庁の平成23年度予算の概算要求が提出されました。その中で 国立大学法人の運営費交付金は、概算要求額が本年度に比べて2.8%の増加になったという報道がなされておりますが、実情は極めて厳しい ものがあります。皆様方にその状況をお知らせし、ご理解とご支援をお願いしたいと思います。

2.国立大学法人運営費交付金の概算要求の中身
今回の概算要求の仕組みは、従来のものと異なり、 「要求枠」 (従来の概算要求と同様のもの。) と「特別枠」 (今回新たに設けられたもの。「元気な日本復活特別枠」と言われる。) に分かれて いて、それらを合わせて要求しています。この 特別枠については「政策コンテスト」と呼ばれる「仕分け」があり 、そこでの評価の結果によって、予算措置の有無が左右されます。
さて、平成23年度の国立大学法人運営費交付金に関する概算要求は、22年度に比べて 要求枠は560億円の減 、その上で、 特別枠に884億円を要望しています ので、合わせて22年度より324億円の増(報道にある2.8%の増)になっています。

※平成23年度国立大学法人運営費交付金概算要求額


(単位:億円、%)
22年度予算額(A) 23年度概算要求額 増△減額(率)
要求枠(B) 特別枠 計(C) (B)-(A) (C)-(A)
11,585 11,025 884 11,909 △560(△4.8) 324(2.8)

今回の特別枠の規模は総額で「1兆円を相当額超えるもの」と閣議決定されていますが、各省庁が特別枠として提出した要望総額は約3兆円になっています。よって、 文科省の特別枠8,628億円(その中に運営費交付金の884億円が入っています)が、そのまま認められる訳ではない ことをご理解いただきたいと思います。仮に特別枠での申請が全く認められなかった場合は、23年度は22年度に比べて4.8%の減額になります。また、単純に1兆円の財源に対して3兆円の要望額があるのですから、例えば、その3分の1が措置されたとすれば、884億円に対して295億円程の措置になります。その場合、今年度に比べて来年度は約2.3%の減ということです。いずれの場合でも極めて厳しい減額となります。仮に2.3%減で計算しますと本学では、最低でも3.5億円の減を考えなければなりません。この可能性は現時点で極めて高いと言えます。いずれにしても極めて厳しい状況があることがお解りいただけると思います。従って、特別枠の確保はこれからの本学にとっても重要な意味を持ちますが、この特別枠の確保に向けては、大学関係者はもとより国民の皆様や関係各位のご理解とご支援をいただくことが必要になります。

3.政策コンテストに向けて
特別枠の事項については政策コンテストで仕分けされることになっています。文科省の特別枠8,628億円の中で、大学関係は、国立大学法人運営費交付金の他、私学助成や科研費、学生の育英奨学金などを含めて、2,759億円あります。これらが3分の1になった場合でも、学生諸君の奨学金や授業料減免などに大きな影響が出ます。また、基盤的な研究経費としての科研費にも大きな影響が出ることが容易に想像できます。さらに、これらの特別枠に関する経費を多く確保したいとなれば、大学運営の基盤となる「要求枠」の削減にも言及されることも想定しておかなければなりません。
他省庁の特別枠についても、それぞれその必要性を訴え要求しており、これらと競争して、特別枠の確保に努めることになります。政策コンテストを乗り切ることが大事になることがご理解いただけると思います。
この政策コンテストでは、各省庁の要望事業を首相官邸のホームページ上に公開した上で、国民からの意見を募集(パブリック・コメントと呼ばれるものです)し、その結果を基礎資料とし、新たに設置される「評価会議(仮称)」において評価し、政策の優先順位づけ行うこととされています。多くの 意見・関心が集まらない事業の予算措置はまず考えられません 。皆樣方におかれては、このパブリックコメントに対し、 様々な立場から、国立大学あるいは高等教育を支える経費の必要性等を意見として訴えていただきますようお願いいたします


4.おわりに
天然資源の希薄な我が国の資源は人材であり、その無限の知恵と創造力が大きな「資産」です。アジア諸国はもとより世界の国々が人材育成を将来社会の発展の基礎に据え、国を挙げて人材育成に社会資本を投入している様子を目の当たりにすると、我が国の将来に対する不安を拭い去れません。高等教育は、社会の発展に不可欠であるばかりか、各個人にとっても社会的な様々な格差の解消を可能にする極めて有効な手段です。
国立大学は、教育研究活動を活発に行い、地域の「知」の拠点としての大きな役割を果たしてきました。地域の産業界との産学連携の中核的役割、地域高度医療の拠点、地域文化拠点などとしての役割はこれからも極めて重要です。大学は、その存在価値を、直接の経済効果とともに、大学本来の機能としての人材育成や研究成果を通して、また、その社会への還元を通して国民の皆様に充分に理解いただきたいと思います。
我が国を代表する世界に開かれた国際都市として、また、我が国の良さを世界にアピールできる自然豊かで文化と歴史あふれる地域にあって、本学は“我が国を代表する研究拠点大学”としての誇りを持って、これからも市民の皆様や社会が“憧れる大学“に向けての努力を続けたいと思います。
大学が、本来の役割を果たすことができますよう、 高等教育研究費の確保について重ねてご支援のほど、お願い申し上げます

平成22年9月28日
熊本大学長  谷口 功


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