平成22年度熊本大学入学式 式辞

平成22年度入学式

本日ここに、御来賓各位の御臨席を賜り、副学長、部局長、役員、教職員と共に一同に集い、熊本大学第62回入学式を執り行うことができますことは、大変喜ばしいことでございます。学部学生、編入生合わせて1,903名、特別支援教育特別専攻科学生25名、養護教諭特別別科学生37名、大学院学生885名、総勢2,850名の若き希望に満ちた皆様の一人一人を心から歓迎いたします。この中には17カ国に及ぶ国々からの留学生、67名が含まれています。ようこそ熊本大学へ(Welcome to Kumamoto University)。

入学を果たされた皆様のこれまでの日頃の研鑽と努力に敬意を表します。また、その志を支えてくださった、保護者の方々、ご家族、ご友人、ご指導いただいた先生方など数多くの方々がおられると思います。ここに、ご支援いただいた方々に深く感謝しつつ、支援者の皆様にも心よりお慶び申し上げます。
重ねて、新入生の皆様、入学おめでとう!

○熊本大学の歴史と概要
さて、本学は、肥後細川藩が250年余り前に設置した、日本初の医療施設である再春館や薬用植物園としての蕃滋園に源を有する熊本医科大学や熊本薬学専門学校に加えて、夏目漱石、ラフカディオ・ハーン等の教授陣を有し、二人の首相や寺田寅彦をはじめ数多くの偉人を輩出した第五高等学校の他、熊本師範学校、熊本青年師範学校、熊本工業専門学校等を前身として1949年(昭和24年)に我が国の学制改革によって、新制熊本大学となったものでございます。
現在では、七つの学部とそれに対応する大学院、その他に附属病院、附属図書館、附属学校・園、さらに研究所、教育、研究センターなど多くの施設を持ち、約一万二千人の学生・生徒と二千人の教職員を擁する総合大学となっています。我が国有数の長い歴史と伝統を持つ大学であることは既にご承知の通りでございます。今日まで10万人を超える有為の人材(財)を社会に送り出してきたところです。
また、昨年度は、学制改革によって設立された新制熊本大学から数えて60周年にあたりましたので、その「還暦」の記念式典をはじめ、数多くのイベントを開催させていただいたところです。

○熊本大学の理念と目標
もとより、今日の大学の社会的使命は、教育、研究、社会貢献の3つに集約されます。本学では、世界を先導する教育研究を進め、その成果を社会に還元する総合大学として、文化、科学技術、医療、教育などの発展に貢献しているところでございます。

今年度からはじまる国立大学の第二期の中期目標計画においても、その前文に、「熊本大学は、生命科学、自然科学、人文・社会科学の各分野にわたる、充実した学部、大学院、研究所等を備えた、 我が国を代表する研究拠点大学 としての役割を果たす。そのために、アジア諸国はもとより広く海外の諸大学等との人的・文化的交流を通じて、「人の命、人と自然、人と社会」に関する活発な研究活動を推進し、その成果を基盤として教育・研究の国際性を高め、大学院教育においては、国際社会のリーダーとして活躍できる先導的研究者及び高度専門職業人を養成する。学部教育においては、その基礎としての幅広い教養を持ち高度な課題解決能力を有する人材を育成する。また、教育・研究活動の成果を活用して、広く地域及び国際社会に貢献する」と記載し、その役割を果たすことを社会に約束させていただいております。

本学の理念・目標に関して4つの点をご紹介いたします。
第一に、本学は、学生諸君が、自らの将来の豊かな人生の設計のために、また、社会に貢献するために、獲得した知識や技術を基本として、考え判断して 行動できる力 としての 「知力」 を発揮できるための教育を実現して参ります。
教育においては、累計32件にも及ぶ「特色ある教育プログラム」が優れた取り組みとして文部科学省から認定されてきたことからも分かります通り、本学の教育力の高さと質の高い教育内容は定評のあるところです。
学部新入生の皆様 には、人生を豊かにし、様々な角度から自らの判断や行動を評価するためにもしっかりと教養科目を学び、読書をし、さらに、サークル活動、アルバイトやボランティア活動など、自らの行動、活動の中で 「自分らしい生き方」 を見いだしていただきたいと思います。

第二に、研究面において、 特色ある研究を推進し、世界のトップ を走りたいと考えています。
本学は、例えば、発生医学分野では、発生医学研究所が我が国の全国共同利用・共同研究拠点機関としての役割を担っておりますし、エイズ学等の感染症分野、それにパルスパワー・衝撃エネルギー科学分野などとともに、グローバルCOEと言われる世界を先導する世界的な教育研究拠点となっています。さらに、遺伝子改変マウス、環境に優しい KUMADAI マグネシウム合金、バイオエレクトリクス等の分野では、本学が中心になった国際的な研究ネットワークが形成されています。また、文学部には附属の「永青文庫研究センター」が設置され、世界的価値を有する細川家に伝わる歴史的な古文書としての貴重な史資料に関する研究が進められています。他にも枚挙に暇が無い程の数多くの分野で我が国をリードする特色ある研究がなされています。
特に、研究に多くの時間を割かれる 大学院に入学される皆様 には、世界を先導する仕事をしていただきたい。新しい概念、新しい切り口や考え方の構築、新事実の発見やその成り立ちの解明、新しい手法や技術の開発など、世界で誰も出来なかったこと、誰もやらなかったことに挑戦して欲しいと思います。そして 新しい学術分野を創り 出して欲しいと思います。その全ては、やがて、新しい創造的な社会的価値を生み出し、社会を良い方向に改革していくことにつながっていくと確信しています。

第三に、本学は、 地域の知の拠点としての高い存在感を示しています 。人文社会分野では地域の社会・文化的な拠点として、自然科学分野では、産業界との連携や経済活動の活性化を推進し、生命科学分野では、大学病院とともに地域医療や先端的な高度医療を進める役割を果たしております。さらに、法曹人や教員の養成など、多数の地域社会を支える人材を排出しているところです。

第四に、本学は、 国際的に存在感のある大学 を目ざして、世界の諸機関との交流を拡大して、飛躍しようとしています。
世界はグローバル化が日々進行しています。卒業後、皆様には世界を舞台に活躍いただかなければなりません。そのためには、国際化はごく当たり前の事となっています。
キャンパス内は全学をカバーする無線LANで結ばれた高度情報化キャンパスになっており、24時間、世界と繋がっています。
さらに、世界を視野に入れた国際交流も活発に行っております。現在では、大学間・部局間の協定を、世界28か国、103カ所の機関と締結し、海外に3ヶ所のオフィスを構えるに至り、これからその数も増やして参ります。
現在、本学には、約380名程の留学生が在籍していますが、それを出来るだけ早い時期に500人とし、将来的には、10人に1人が留学生、すなわち、世界の各国から1000人の優秀な留学生が熊本大学に来て学んでいるという状況を目指したいと思っております。
学生諸君が、 国際的な環境の中で学び 、卒業後、世界を舞台に活躍する際に、多くの 学友が世界の各地に いて互いに助け合うことが出来る様な大学を目指したいと思っています。

熊本大学は、社会に対しての約束として、今、お話しした4点をKumamoto University For You(KU4Uと略称しています)「あなたのための熊本大学:KU4U」として掲げています。ちなみに4Uとは、4つのアルファベットのUのことです。
1.Upgraded Education:未来を生き抜く人財の養成(知力あるプロの養成)
2.Unique Research:特色ある研究(新たな知的価値の創造)
3.Union with Community:社会連携(地域連携と社会貢献)
4.Universal Contribution:国際化(留学生教育と国際貢献)
のことです。皆様のために、社会のために大学が働くことを誓ったものです。

私共教職員は、このような伝統と実績を有する熊本大学で、教育・研究・医療等に従事できることを誇りに思っています。新入学の皆様が今日からその一員として加わっていただいたことを大変嬉しく思っています。

昨年度が新制熊本大学設立60年の還暦の年でありましたので、今年度からは次の60年、100年の新しい歴史の形成に向かってその一歩を踏み出します。今、皆様と同じ様に、本学自身も希望にあふれた輝く将来を見据えて、その新たな挑戦へのスタート地点にいます。

○新入生の皆様へ
ここで、本日の入学式にあたり、新入生の皆様には、私から2つのことをお願いしたいと思います。
第一は、今日まで支援いただいた方々に対する恩返しに加えて、 社会への恩返し を考えて欲しい。ということです。
ご承知の通り、国立大学には国からの相応の経費が支援されています。国民の皆様が諸君に投資してくださるのは、皆様が次の世代を担う社会の資産であり、社会から大きな期待をかけられているからに他なりません。したがって、皆様は、社会からの期待や負託に応えて、その責任を果たし、自らと社会の将来のために貢献することが求められます。その役割を果たすための能力を養うことに尽力していただきたいと思います。

第二は、 国際社会の中で、自らを表現できる「人財」 となって欲しい。ということです。
我が国は、地下に埋蔵された資源に乏しい国ですので、 人が 貴重な 資源であり財産 です。一人一人の努力と皆様の新しいセンスやアイデアで、イノベイテイブな社会を創りだす担い手になって欲しいと思います。
特に、 「情熱を持って自らを表現する能力」 の向上に努めていただきたい。国際社会においては、自分の考え・意見や夢を表現し、語ることができるということが極めて重要です。しかもそれを人の前で社会に向かって言葉でアピールできるコミュニケーション力が必要です。そのためには、日頃から、ものごとを多面的にかつ深く考えることが必要です。また、世界的な視野に立った主張が求められます。自らを表現できるようになるために大学生活の中で、必要な情報を集め、獲得した知識や技術を基本として、考え、判断して行動できる力としての「知力」を獲得していただきたいと思います。

○私のささやかな経験
私のささやかな経験を少し紹介させていただきます。私自身は、応用化学を専門としています。少し細かく言うと、生物電気化学という領域です。電気と化学と生物の境界領域で、生物系の物質を用いて、あるいは、生物に学んだ仕組みを取り入れ、それを電気化学の手法によって研究する領域です。
私が学生の頃に、先生方や仲間と一緒にはじめた小さな研究領域について、外国ではどうなっているのかとその様子を知りたくて、往復の飛行機のチケットとわずかなお金だけを持って、怖いもの知らずで、全く面識等が無く、ただ専門書で名前を知っているだけの著名な先生に会うためにアメリカまで行きました。今と違って、35年以上前はびっくりするほど飛行機代が高かったということもあって、出来るだけたくさんの方にお目にかからなければという思いから、通じない下手な英語にもめげずに多くの先生方に面会をお願いしました。気持ちが通じて全ての先生方には快く時間をいただきました。当時、欧米でもこの新しい分野は未だ研究がはじまっていないことを知りました。同時に、先生方から新しい分野への挑戦を大いに励まされました。
その後、多くの失敗を重ねながらも、本学の学生諸君と一緒に進めた一歩一歩の積み重ねと、偶然や幸運の重なりの中で、少しずつ研究が進歩し、今では、この分野は次世代のエネルギーや情報の新しい変換法としても注目を浴びています。産業界も参画した学術分野として大きく成長し、我が国はもとより世界中で研究が進められています。

○新入生の皆様へのエール
この私の経験の中から、皆様に大学生活に対して、 「チャレンジと積み重ね」 という言葉とともにエールを送りたいと思います。
皆様には何事にも好奇心を持って、大いにチャレンジしていただきたい。臆病にならずに、困難に怯むこと無く、また失敗を恐れず、未来を信じていろいろなことに挑戦して欲しいと思います。本学には、海外活動のための支援制度なども設定されています。海外経験は、我が国を改めて理解し、自らの視野を広めるために大いに役立ちます。
21世紀は、皆様が創る時代です。自らの未来と次の時代を創りだすための底力を身につけてください。そのためには継続的な積み重ねが必要です。

今日の日本人の大リーグでの活躍の道を拓いた野茂英雄投手は、「努力は必ず報われる。報われないのはその努力が足りないからである」と言ったそうです。
また、野茂選手が拓いた道をイチロー選手が大きく発展させたことは、皆様もご承知の通りです。
イチロー選手の生き様を表現した「イチロー思考」という本の中に、「打席に立って四球を待っていたら、記録は作れない」とか、「自分は天才ではない」、「生まれながらにしての「天才」なんていない。不断の積み重ねをすれば、誰でも天才になれる」とあります。 目的や志を高く持って 、それに向かっての日々の一歩一歩の積み重ねの大切さを私たちに教えてくれます。
また、「自分で決めたことは死守する。自分は自分にとって、一番厳しい教師」であると言っています。
「努力」という言葉を使わない人も多いようです。先月、熊本にも来ていただいたノーベル物理学賞の益川敏英博士もそうです。日々の積み重ねの原動力を「好きだから」とか、「自然に」とか、「面白いから」、「楽しいから」と言われます。「努力」では無く、「好きになって楽しく」なれば、最高にすばらしいと思います。

○まとめに
志を持って「挑戦」 し、それを実現するための 「日々の積み重ね」 を怠らなければ、能力は後から無限についてくるはずです。是非、日々の一歩一歩の中で、自らの夢を持って、あるいは、見つけて、その 夢に向かって将来を創りだす人 になって欲しいと思います。それを実現するための力を大学生活の中でしっかりと身につけていただきたいと思います。
大学は、それを応援いたします。“University is not for 4 years but for 40 years”という言葉があります。大学は、皆様の一生の友として共にお付き合いさせていただきます。

新入生の皆様には、熊本大学の学生として、「誇り」をもって、また、今日の希望に満ちた高い志をいつまでも持続されて、個性豊かな学生生活を送られることを期待しています。また、市民の皆様からは「熊大生」として、畏敬の念を持って迎えられる様に心がけていただきたいと思います。留学生の皆様には、それぞれの分野の学術を極めていただくとともに、日本語や熊本そして日本の良いところを学んでいただき、母国に紹介していただきたいと思います。母国と日本の架け橋になってください。

そして、卒業するときには、皆様一人一人が心の底から熊本大学に来て良かったと思えるように、共に力を合わせて、在学生、卒業生、教職員、そして市民の皆様が 「誇れる」熊本大学 であるように、益々磨きをかけましょう。さらに、社会の皆様から 「憧れられる」「地域に根ざしてグローバルに展開する」 世界の熊本大学になるために、一緒になって磨きをかけようではありませんか。

最後に、教職員一同、最大限の努力をして皆様の輝かしい未来を共に作り上げていくことをお約束いたしまして、新入学の皆様及び支援者の皆様へのお祝いの式辞といたします。

平成22年4月4日
熊本大学長 谷口 功

入学者宣誓 平成22年度新入生

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