平成18年度熊本大学卒業式・修了式式辞

熊本大学長 崎元達郎 桜が咲き始め、欅の新芽も目に鮮やかな本日、ここに、ご来賓及び名誉教授・顧問の諸先生方のご臨席を賜り、副学長・理事・部局長と共に平成18年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。皆さん、ご卒業・修了おめでとうございます。

短期大学部、学部、大学院等のそれぞれの課程に必要な年限を修業され、本日のこの式典に臨むことができますのは、皆さん自身の努力と研鑽の賜物であり、深く敬意を表します。

中でも病気や経済的理由等の事情で規定の年限以上に在学せざるを得なかった方々、そして母国の期待を担い、留学を立派に全うされた留学生諸君、あるいは、熊本大学への強い愛着のため規定の年数以上に在学された方々にとっては、感慨もひとしおと推察いたします。

諸君の今日がありますのは、教職員や諸先輩の温かな指導・助言、ご家族や学友の協力と励ましなどの力添えがあったからであることをこの機会に改めて認識していただきたいと思います。

そこで、僭越で押し付けがましいのですが、ここで10秒程度の時間を皆さんに差し上げますので、目を閉じて皆さんがお世話になった人々の顔を思いおこしてください。
どうぞ!〈 10秒間 〉

ありがとうございました。そして、今皆さんが最初に思い浮かべた方々、おそらく学費等の経済的支援を受けたお父様、お母様をはじめとする保護者の方々が多いと思いますが、その方々に、卒業証書・学位記をお見せして、“ありがとうございました”と口に出して、感謝の意を表すことをお願いいたします。

私としましても、これまで皆さんを深い愛情によって支えて下さったご家族をはじめ、惜しみないご指導ご助言をいただいた教職員、諸先輩各位に対し、衷心より深く感謝申し上げます。

さて、皆さんが船出して行かれる現代社会は、複雑で、つかみ所が無く、解答の無い社会とも言われます。しかし、次の3つの事実は明白であり、皆さんの仕事や生活に確実な影響を及ぼすことを、まず、十分に自覚すべきです。

そのひとつは、少子高齢化と人口減少、次にグローバル化と知識基盤社会の進展、そして、地球環境やエネルギー等、地球規模の課題の顕在化であります。また、解答が無い、未来の予測ができないといえども、解答を得ようとする方向、人々が思い描く未来というのは、明確でない訳ではありません。すなわち、我々の目指す社会は、

1)ガン等の病気の克服と福祉の充実による生涯健康な社会
2)災害等から命を守る安全・安心な社会
3)豊かで多様な人生を送れる精神文化の高い社会
4)環境・エネルギー・食糧・水等、世界的課題解決に貢献する世界に開かれた社会
等と言うことができます。

未来の予測ができない一因は、社会の変化の激しさであります。それは、皆さんが物心ついてから、現在までの世の中の変わり様を考えて見れば明らかです。1970年代のレコードプレーヤーから、磁気テープ、CDを経て、iPodに至る音楽機器の発展と微細化、1969年の米国国防用コンピュータネットワークに始まるインターネットや携帯電話の普及、1973年のGPS開発に始まるカーナビや地図情報サービスの普及は、その一例です。これからも変化の激しさは、さらに加速されます。例えば、20年後の社会がどのようになるか?実現可能性の高いものとして考えられているものを、いくつか挙げてみましょう。

・カプセル1錠で寝ながら健康診断
・衝突できない自動車
・一家に1台の家庭ロボットで家事から解放
・ヘッドホンひとつであらゆる国の人々とコミュニケーション
・走れば走るほど空気を綺麗にする自動車
等々です。

科学技術は、経済復興を急ぐあまり、人の命、健康に対する害、環境破壊や精神文化の希薄化等の深刻で悲惨な副作用を生みましたが、その反省のもとに、環境との共生、持続可能な社会の構築の方向に大きく修正されつつあります。工場排煙とスモッグの空を青空に、また、異臭のする川を魚の住める川に蘇らせたのも科学技術の力であります。40年前の学生時代に私は、哲学の先生に「工学に身を置くことになる諸君は、いずれ、地球を滅亡させることに加担することになるだろう。」と警告されたのですが、その警告の意味を40年間噛みしめつつも、まだ、科学者・技術者として、科学技術におけるイノベーションが地球を救うと信じています。イノベーションと言っても、全く新しいノーベル賞級の発明・発見だけに支えられるのではないことを皆さんには良く認識して欲しいと思います。天才でない人にもできるイノベーションは、既存の技術や概念を再構築したり、組み変える、という創造作用であります。例えば、電気の無い発展途上国に、手廻し式の動力源を持つラップトップ・コンピューターを供給し、情報格差を地球規模で無くそうという発想、書道の筆を作る日本の伝統技術が、高性能の化粧筆として世界市場を拡大しつつあるという事実等は、その良い例であります。

すなわち、現在の社会を前向きに捉え直せば、努力次第で自己実現できる社会、自分で地図を作れる時代、自分次第で幸せを築くチャンスにあふれているエキサイティングな時代と見ることができます。しかし、組織としても、個人としても、ルールどおりに業務をこなしていれば一生安泰、という状況は存在しませんし、社会は何も約束してくれない訳ですから、大事なことは、自ら道を切り拓くしかないと言うことです。

4年前、学部の皆さんの入学式の時に、大学で養うべきこと、行うべきこととして、4つのことを申し上げました。覚えておられるでしょうか?それは、

1)自らの行動に責任のとれる個人としての自立
2)専門家として創造的に考える力
3)生きるための哲学、すなわち、歴史観・世界観・人間観の基礎
4)国際性を養うために海外に出ること
でした。皆さんの成果はいかがでしたか?これらのことを実施し、獲得したとして、これから「地図の無い社会」「解答の無い社会」を生きていくために、さらに必要なことを3つ申し上げます。

最初のひとつは、(1)自分のやりたいことや夢、志、すなわち、自分の目指す目的地を早い時期に確定し、持ち続けることであります。多くの人が進路を決める時に考えたことだと思いますが、皆さんの夢や志は、自ら愛する人々、そして社会の幸せや豊かさにつながるものであると信じています。夢や志を持つことが行動力の源になりますし、それを達成しようと努力するプロセスが皆さん自身を幸せにすることも確かです。ここでは、さらに、激しく変化する社会において修正が必要なことも考慮して、10年毎に具体的な目標を定めることをお奨めします。若い皆さんには、40~50年の未来がありますから、4つか5つの事を成しつつ大目標を達成することが可能です。

2番目は、(2)大学又は大学院で養った創造的専門人としての能力、すなわち“自ら学習する力、考える力”を発揮して、予見し、構築し、問題を解決し、価値を創造する能力に磨きをかけ続けるという「誠実な努力の持続」です。

最後は、(3)心身の健康管理力であります。人間は生身の壊れ易い生き物であること忘れてはなりません。肉体的健康に加えて、心の健康が重要です。スランプや窮地に陥った時には、絶望から破局へ至ることなく、自らを慰める術を知ること、そして、自分や愛する人々の命よりも大事なものは無いと言い聞かせて再び歩き始める元気を生み出すという脳細胞のプログラムをあらかじめ意識して組み込んでおくことが必要です。

熊本大学も、法人化の競争的環境の中で、基礎的研究、先端的研究、高度先進医療の推進とこれらに基づく世界水準の人材育成を通じて、国際的にも存在感を示す大学であり続けるための「誠実な努力を継続」しますが、熊本大学の真の評価は、卒業生諸君が後世への最大遺産となる輝かしい幸せな人生を全うすることにより生まれるのであります。

「Kumamoto University For You」あなたのための熊本大学は、皆さんの輝かしい未来の為にも存在し続けます。ホームカミングデーの開催や生涯メールアドレス付与も行いますので、いつでも母校を訪れたり、メール等による情報交換をしてください。

「心身の健康」を保つ術を知り、10年毎の具体的目標の達成のために、プロフェッショナルとしての「誠実な努力を持続」して、大きな夢や志を実現するという輝かしく、幸せな人生を歩まれることを切に希望し、はなむけの言葉といたします。

最後に巣立っていかれる皆様の生きる力強さ、元気さを確かめたいと思います。一人ずつのお名前を読み上げて返事をいただきたいところですが、学部等の別に卒業生、修了生の所属と人数を申し上げますので該当する人々は人数を読み上げた直後に“はい”または“オー”と大きく答えてください。声の大きさで諸君の「明るい未来」を確認したいと思います。

【文学部189名】、【教育学部及び特殊教育特別専攻科・養護教育特別別科398名】、【法学部217名】、【理学部199名】、【医学部112名】、【薬学部95名】、【工学部564名】、今年度で最後の卒業生、修了生になります【医療技術短期大学部および助産学特別専攻21名】。
【大学院文学研究科】、【教育学研究科】【法学研究科】【医学研究科】【医学教育部】、【薬学教育部】、【自然科学研究科】、【社会文化科学研究科】、【法曹養成研究科】合計707名。

ありがとうございました。以上、総勢【2502名(内、留学生56名)】の皆さん一人一人に対し、熊本大学を代表し、皆さんの前途洋々たる船出を祝します。おめでとう!!そして、Bon Voyage!!


平成19年3月27日


熊本大学長 崎元達郎



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