唯一生き残るものは変化できるものである

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本年度は法人化3年目、すなわち、第1期中期目標計画期間(6年)の中盤に入り正念場を迎えます。法人化後2年間、なすべき改革を進めて来ましたが、まだ多くの課題もあります。昨年度の取組みを振り返りつつ、今後の大学発展の施策と課題についてお伝えします。

「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残るものは、変化できるものである。」ダーウィンのこの言葉の妥当性は、迅速に変化して活力を持ち続ける企業や、変化できずに突然死又は経営困難に陥る企業がある状況を見れば明らかですが、大学という組織に対しても真実味を持って迫って来ています。法人化以来、熊本大学にも必要な変化が求められており、この2年間、なすべき改革を進めて来ていますが、まだ多くの課題も残されています。

まず、この4月からの教育研究組織の新設、改組について言えば、社会文化科学研究科に設置したe-ラーニングプロフェッショナルを養成する「教授システム学」専攻(修士課程)、薬剤師養成のための薬学部薬学科(6年制)と創薬開発人材を養成する創薬・生命薬科学科(4年制)と創薬研究センター、COEや拠点研究と連携した3つの先端融合講座を持つ新専攻を核とする自然科学研究科の大学院重点化、そして、工学部の5学科から7学科への改組が挙げられます。いずれも構成員の努力と英知を集めた新組織の誕生であり、円滑に軌道に乗せることと目指す成果をあげられるように関係部局と共に努力を継続せねばなりません。

組織に関する今後の課題としては、「教職大学院」の設置計画と社会文化科学研究科(社文研)の前期・後期区分制大学院としての整備充実があります。既に法学研究科、文学研究科を廃止し、社文研の前期課程とする改組素案が3部局から提案されていますが、教職大学院との関係で教育学研究科の見直しも課題となります。この意味では、本学の将来構想である「人と社会」すなわち人文社会系の大学院の再編充実を具体化する時が来たと考えています。

「教職大学院」の設置は、教育学部・研究科の充分な見直しに基づく計画でなければ難しいと言われていますので、私としては
、教育学研究科も社文研の前期課程として再編し、法学系、文学系教員との連携協力のもとにシナジー効果を発揮し、教科専門を充実させると同時に、アカデミズムとエンプロイアビリティを備えた新たな専攻群を創るという方向性を追求すべきであると考えています。改組後の社文研では、法学、文学、教育学、学術等の修士号を有する高度専門職業人を養成し、さらに、現行の博士課程に加えて教育学博士等をも実現する道を指向すべきと考えています。いずれにしても今後の教育の課題と生き残り策は、大学院教育の実質化と質保証であることを念頭に置き、関係部局との充分な議論を尽くし、10年以上先を見越した立派な改組案を作成し、実現して行きたいと考えており、この為に担当の副学長を任命した所です。

大学をとりまく科学技術政策環境も変わりつつあります。まず、今年度は第3期科学技術基本計画(5ヶ年)の初年度となっており、これに基づく科学技術推進事業や国立大学の施設整備5ヶ年計画も策定されます。事業は、例えば科学技術振興調整費等の形で具体化され、資金として投下されますので、獲得は厳しい競争となります。事業プログラムには、研究指向のものと施策誘導を目的とする改革指向のものがあり、後者に属するものとして、「助教」等の教員組織新設に対応したテニアトラック制の導入に関するもの、男女平等参画に関するもの等があり、本学も応募した所です。特に、今回の男女平等参画プログラムは、女性研究者の育成を目的としており、保育施設等の整備充実が課題となります。

大学独自の取組みとしては、まず、五高記念館を、数年かけて熊本大学博物館として整備し、準博物館としての登録を申請します。本学の学生の学芸員資格取得のための実習を行えるようにすると同時に、平日開館を実現し、市民や修学旅行の中学生、高校生にも訪れていただけるようにしたいと考えています。

また、昨年の上海フォーラム実施、上海オフィスの設置に続く熊本大学の環黄海(東アジア)連携・協力の戦略の一環として、熊本大学フォーラムin KOREAを9月に開催します。

事務職員の人事面では、法人化以降、大学独自の人事が可能となりましたので、現在、課長職については学内の人々をも登用していますが、今後は部長職についても道を開くつもりであります。独自の人事という点では、広報戦略室に民間の広告会社より専門職を採用いたしました。キャリア支援課長、国際戦略室長に続き3人目の民間からの採用です。ユニバーシティアイデンティティの確立と広報戦略を担当いただいています。昨年来のロゴマーク策定にも参加いただき、本誌に紹介しています熊本大学の新しいロゴマークを決定しました。伝統のいちょうの校章と共に、前進する熊大を象徴するロゴマークとして使って行きたいと考えています。

平成18年度予算については、昨年度比約28億円増ですが、その内訳は、施設費補助金、借入金、借入金償還経費での約24億円と、病院収入、外部資金等の自己努力による増収見込約4億円となっていますが、事業費ベースでは実質減となります。すなわち、e-ラーニングに関する特別教育研究経費が新規に認められたのみで、効率化減1%の物件費分と学生の休退学数増による運営費交付金減(合わせて約1.2億円)の影響で、学部等への直接配分は昨年度比約3%減となります。病院の経営改善については、病院長のリーダーシップのもと努力が重ねられ、少しずつ見通しのつく状況になってきています。中央診療棟の設備費がほぼ満額措置されたことから、この6月の中診棟の完成でさらなる効率的な運営が期待されます。なお、大学における病院経営の重要性に鑑み、病院長を副学長といたしました。同時に医師、研修医、コメディカル職員を含む若手人材の確保・育成の為の処遇改善にも努めたいと考えています。

施設整備としては、放送大学との合築による図書館の増築部分(南棟)が完成し、この4月に開館しました。放送大学共々、活用いただきたいと思っています。また、旧発生研の建物の改修にも補正予算が措置されましたので、保健学科の学年進行に対応する整備を進めることができます。今後の施設設備としては、東病棟、医学部図書講義棟、社文研棟の新設、法・文・教育棟や附属学校の耐震改修等が懸案事項ですが、次期の施設整備5ヶ年計画のテーマである「人材育成のための老朽構造物の再生」に合致するようにソフト(教育内容改革や組織の改組)の計画と同期させて予算獲得の可能性を高める必要があります。

国に準じた給与の制約(人事院勧告対応)や、今年度より5年間で5%の人件費削減等、厳しい条件が付加されつつありますが、逆境にめげずに、構成員一人ひとりの努力により活動のための資金をつくり出さなければなりません。この意味では、組織としても「熊本大学基金」を創設し、種々の活動を支えるファンディング事業の展開にも力を入れたいと考えています。ファンド形成については、いずれ御支援をお願いすることになりますが、その節は御理解と御協力をいただきたいと存じます。

熊本大学は、世界水準の教育と人材養成を着実に進め、国際的にも存在感を示し得る教育・研究・医療により社会に貢献し続けます。法人化3年目を迎えるにあたって、学内外の皆様の御理解と、さらなる御支援をお願いします。

最後に、昨年も示した本学運営の基本方針を示しておきます。

(1) 学問の自由、大学の自治の理念を踏まえた自主性、自律性、公明性の確保
(2) 教育研究の長期性や社会と大学の持続的発展の視点の重視
(3) 「将来像」、「目標・計画」の堅持と確実な実現
(4) 構成員の創意と構成員間のビジョン・目標・情報の共有に基づく戦略的トップマネジメントと教員・職員の一体的協働
(5) 学生とその活動の尊重と手厚い支援
(6) 教育の機会均等、基礎研究、先端医療、地域医療など競争や経営になじまない部分の重視と堅守
(7) 教職員の意識、意欲、能力、豊かな人間性、夢を醸成する条件整備
熊本大学長
崎元達郎




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