平成18年度入学式式辞

熊本大学長 崎元達郎

本日ここに、副学長、理事、部局長、教職員各位と共に一同に集い、熊本大学第五十八回入学式を執り行うことができますことは、本学にとりまして大変喜ばしいことであります。大学院学生および諸外国からの留学生を加え、総勢二,八五一名の若き血潮みなぎる皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。また、入学を果たされた皆さんの研鑽と努力に敬意を表し、その志を支えてくださった親御さんや先生方に深く感謝しつつ、心よりお慶び申し上げます。入学おめでとう。

本学は、夏目漱石、ラフカディオ・ハーン等の教授陣を有し、二人の首相はじめ多くの偉人を輩出した第五高等学校の他、師範学校、医学、薬学、工学の各種専門学校をそれぞれの前身とする七つの学部と対応する大学院研究科、附属病院、そして十余の教育研究センターと施設に一万人の学生と二千人の教職員を擁する西日本有数の総合大学であり、百十有余年の永きにわたり、その教育、研究、医療により日本の文化、科学技術、医療、教育の発展に貢献してきました。

特に、ここ数年においては、学務情報支援システムと情報基礎教育の二つの全学プロジェクトの他、教員養成、ものづくり技術者養成、創薬研究者養成についてもすぐれた特色のある教育プログラムとして文部科学省から選定されています。また、研究面においては、発生医学と衝撃エネルギー科学の分野で世界的教育研究拠点(二十一世紀COEプログラム)に選定されていますし、考古学、生命倫理、エイズ等の感染症、遺伝子改変マウス、ナノテクノロジー、マグネシウム合金、その他多くの分野で日本をリードする研究がなされています。

私ども教職員は、このような伝統と実績を有する熊本大学で教育・研究・医療に従事できることを誇りに思っていますが、皆さんも是非誇りに思い胸を張っていただきたいと思います。

特に薬学部の二学科、工学部の七学科、社会文化科学研究科教授システム学専攻、自然科学研究科に入学された方々については、新しい学科、専攻の第一期生になられる訳ですから、私共も大いに期待していますので、皆様も一期生としての誇りを持ってがんばっていただきたいと思います。

ところで、教授システム学専攻に入学された方々は、今、全国各地にあって、この式辞を電子メールで受け取り、入学後の決意を固めておられると思います。遠隔教育e-ラーニングのみで学位取得が可能な日本初の教授システム学専攻の開設は画期的なことと自負しています。この意味では、本年度は熊本大学のon line University元年として位置付けられます。

関連して申し上げますと、熊本大学は、10 Giga bit の光ファイバーネットワークによる学内LAN、ラップトップ、ノートパソコンがいつでもどこでも使える無線LAN、千台余の教育用パソコン等を装備した高度情報化キャンパスを構築しており、質の高い情報環境と全学情報基礎教育により、皆さん一人ひとりに情報社会へのライセンスをお渡しできます。

このように私共は、皆さんに国際水準の研究に裏打ちされた国際水準の教育を授ける自信がありますし、新たな知を創造する研究を諸君と共に行うことを望んでいます。言い換えれば、皆さんの将来やりたいこと、夢や志を実現する力、到達能力、すなわち「専門家として創造的に考える力」を養う外的条件は十分に整っています。残る必要条件は、皆さんの夢や志の強固さ、持続性とやる気、原動力であります。多くの皆さんは、やりたいこと、夢や志を実現するために学部、学科を選択したと信じていますが、進路指導の先生に勧められたから、とか、自分で十分に考える時間と経験が無かった人、とにかく入れる所に入学した、などという人も含めて、もう一度、やりたいこと、夢や志を行動する中で再確認したり強固なものかつ持続的なものにする必要があると思います。皆さんのやりたいこと、夢や志が新たなあるいは豊かな文化の創造、21世紀を支える子供達の教育のあり方、紛争解決や社会共生の和と技法の確立、少子高齢化社会における医療と福祉、環境を重視した科学技術による持続的で豊かな社会の構築等に貢献するものであることを願っています。

皆さんを待っている社会は、五年先にどうなっているか誰もわからない程度に激しく変化する社会で「地図の無い社会」とも言われます。「地図の無い社会」と言えども、目的地に相当する将来やりたいこと、夢や志を持たなければ、方向の定まった生き方ができません。そして、目的地に到達する道は、皆さん自身が描いて行かねばなりませんが、専門家として将来を予見し、創造的に考え実行して行く能力がなければ、地図に道が描けません。皆さんが描く道は、決して直線的なものではないかも知れませんが「地図の無い社会」であればこそ、皆さんはそのような能力を有するプロフェッショナル(高度専門職業人)として生きて行くすべを熊本大学で獲得すべきです。それが、人類が永々と蓄積して来た知を皆さんに継承し、また新しい知を創造するという使命を有する大学の存在意義であるからです。

こうして、目的地に到達する道を白い地図に描くことのできるプロフェッショナルとしての能力の養成は、私共の用意したカリキュラムと皆さんの努力で可能となりますが、最後の問題は、その様な自らの能力を養成する努力のための原動力をどの様にして得るか、であります。将来やりたいこと、夢、志が十分強ければ、それで十分な原動力が得られるかも知れませんが、持続できる原動力を得る必要があります。皆さんは今まで何を原動力に行動して来られましたか?食欲、異性の存在、劣等感からの反発、こうあらねばならないとの脅迫感、幼い頃における親からの刷り込み、人より優れていること心良しとする優越願望、惨めな気持ちを味わいたくないという自尊心の確保、金銭、名誉、地位への所有欲等、比較的受動的あるいは感情的なものではなかったでしょうか。これらはこれからも原動力になり得ますが、さらに持続できる、あるいは長持ちする原動力としては、人生に対するあきらめからの開き直りや知的好奇心、新しいことにチャレンジして物や事を創造したいと思う心、物や事を達成する喜び、自分や人を幸せに導こうとする心、人類の幸せに貢献しようとする使命感等が考えられますので是非皆さんもこの様な持続し得る主動的あるいは精神的な原動力を獲得していただきたいと思います。

皆さんにとってのもうひとつの大学の存在価値は自由な時間です。学部への入学生の皆さんは、受験勉強から解放されて思い切り遊びたい !と思っておられることでしょう。結構です。脱線しない範囲で思い切り遊んでください。そして、できるだけクラブ、サークル等の活動をすること、アルバイトやボランティア活動をすること、海外旅行をすることなどカリキュラム以外の活動を精力的にかつ計画的に行い、社会人として必要な「人間力」、そして、人間的逞しさ、優しさ、豊かさを養ってください。

さて、熊本大学も国立大学法人となって三年目を迎えますが、学生とその活動の尊重と手厚い支援等七つの運営の基本方針の基で必要な改革の為に誠実なる努力を継続いたします。この様な決意を表すために熊本大学の新しいロゴマークを作成しましたのでここで皆さんに紹介いたします。

これは、熊本のKの字の左側の壁に相当する縦の線を取り去った矢印の部分、あるいはひらがなの「く」を図案化したもので、校旗を彩る伝統のスクールカラー、紫紺とうこんで彩色したデザインです。伝統を尊重しながらさらに前進する熊本大学を象徴するコミュニケーションマークとして活用したいと考えています。

熊本大学は、先端的研究、基礎的研究、高度先進医療により世界に存在感を示すと共に、それらの研究を皆さんと共に行いながら、あるいはその成果に基づいた質の高い世界水準の教育を行う大学として、諸君と共に躍進を続けたいと思います。皆さんが、合格発表の受験番号を見た時の気持ちや初心を忘れず、夢や志を高く持ち続け、持続し得る原動力を獲得し、毎日に全力投入して行動し、「地図の無い社会」で夢や志を実現する力、自らと愛する人々の幸せを築く力を獲得されんことを願って、式辞といたします。

平成十八年四月四日

国立大学法人熊本大学長

崎元達郎

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