熊本大学グローバル化戦略(KU Globalization Strategy as of 2023)
デジタル・イノベーションが地球規模で急速に進むとともに、ニュー・ノーマル時代が到来し、デジタル・トランスフォーメーションへの対応やカーボン・ニュートラルへの挑戦など、人類は直面する多くの複雑で困難な課題を解決しなければならない状況下にある。こうした背景の中、熊本大学は、大学改革を通じてこれらの課題解決に向けた原動力となり、地域と世界に開かれ、共創を通じて社会に貢献する教育研究拠点大学たることが期待されている。
熊本大学では、第4期中期目標期間(2022~2027年度)が始まるに当たり、九州の中核的総合大学として、国・地域・分野等様々な枠組みを飛び越えSDGsの達成を企図し、2030年までを見据えた中長期的なビジョンとして、「熊本大学イニシアティブ2030」を策定した。本イニシアティブは、熊本大学が目指す“地域と世界に開かれ、共創を通じて社会に貢献する教育研究拠点大学”の実現に向けて、教育、研究、社会との共創・医療の3つの戦略に基づく取組をまとめた。
一方で、熊本大学は、2014年度に、構想名「地域と世界をつなぐグローバル大学Kumamoto」で、文部科学省スーパーグローバル大学創成支援事業(以下「SGU」)に採択され、これまで教育力と研究力で我が国を牽引する真のグローバル大学を目指して、国際性の高い学部教育のグローバル化、外国人留学生に対する多様な受入れ体制の提供、世界最先端の研究を支える大学院教育のグローバル化と先鋭化、世界に開かれた地域づくりを牽引するグローバル・キャンパスの提供の4つの目標の達成に向けて、様々な取組を展開してきた。
SGUの事業期間が10年間であることから2023年度は最終年度にあたること及び「熊本大学イニシアティブ2030」で掲げられたビジョンを着実に実行する観点を踏まえ、SGU終了後の10年を見据え、教育・研究・社会との共創の国際化をより一層推進するための羅針盤とすべく、「熊本大学グローバル化戦略(KU Globalization Strategy)」を策定し、本戦略に基づく取組を推進していくことで、国際標準・世界に伍する教育研究拠点大学への構造・体質改善を図り、ひいては大学全体の経営改革を促進していく。なお、本戦略は、状況に応じ適宜見直すものとする。
グローバル化戦略のコンテンツ
本戦略では、本学のグローバル化の推進に必要となる要素を、Network、Human、Education、Research、System、Environmentの6つの要素に分類したうえで、2033年を見据えた可視化可能な具体的な達成目標を設定する。
Ⅰ. グローバル・ネットワークの構築
Ⅱ. グローバル人材の育成
Ⅲ. 教育のグローバル化
Ⅳ. 研究力・産学連携のグローバル化
Ⅴ. アドミニストレーションのグローバル化と国際広報強化
Ⅵ. キャンパスのグローバル化と早期異文化理解体験支援
Ⅰ. グローバル・ネットワークの構築
人と知を含む各種の資源が国境を超えてグローバルに動き変容し続ける環境下にあって、世界や我が国社会が持続可能な発展を遂げるためには、異なる文化や歴史を有する人々と共存していくことが不可欠であり、そのためにはグローバルな人的ネットワークを構築・拡大していくことが効果的である。一方、グローバル・ネットワークを恒常的に拡大していくためには、可能な限り財政支出を抑えた施策を講じていくことが肝要であることから、いわゆるハコモノ設置から人的資源の有効活用への発想の転換を図ることが適切である。こうした視点に立脚して、以下の方策を講じていく。
〇「リエゾン・プロフェッサー」制度の構築
本学の同窓生等で、海外の高等教育機関や研究機関で活躍している者(参考:2021年度卒業・修了者で高等教育機関/研究機関に就職した者:36名)に「熊本大学リエゾン・プロフェッサー」の称号を与え、本学との当該機関・国・地域との連携を担ってもらう。また、定期的に「リエゾン・プロフェッサー・アセンブリ」を熊本で開催し、熊本大学の国際展開についてディスカッションする機会を設ける。
〇海外同窓会の増加
〇海外オフィスの戦略的活用
現在設置している5つの海外オフィス(韓国オフィス、インドネシアオフィス、スーダンオフィス、台湾オフィス、タンザニアオフィス)を拠点として、海外における教育研究活動及びそれを通じた国際交流を強化する。
〇「ProSPER.Net」への加入によるSDGsへの取り組み加速
「ProSPER.Net(アジア太平洋環境大学院ネットワーク)」は、日本の環境省の出資のもと、アジア太平洋地域で持続可能な発展のための教育(Education for Sustainable Development)の推進に主導的に取り組む高等教育機関による大学コンソーシアムであり、当該ネットワークへの参画によって、「熊本大学イニシアティブ2030」が掲げるSDGsへの取り組みを加速させる。
〇「AUN+3」への積極的参画
一度にASEANの複数国の複数大学関係者と交流を図ることができる絶好機であることを踏まえ、学長会議及び国際交流担当ディレクター会議等への参加を通じて、ASEAN諸国との連携を強化する。
〇国立大学協会主催国際会議への積極的参画
国立大学協会が、米、英、仏、独、豪、台湾、ASEANの大学協会との連携を展開しているため、当該学長会議等への参加を通じて、国際ネットワークを強化する。
〇UMAP(アジア太平洋大学交流機構)への積極的参画
アジア太平洋地域における高等教育機関間の学生・教職員の交流促進を目的としたコンソーシアムであるUMAPの年次総会等への参加を通じて、国際ネットワークを強化する。
Ⅱ. グローバル人材の育成
国際社会において、自己の能力を発揮して社会に貢献するためには、基礎的・基本的な知識・技能を活用して課題を見いだし解決するための思考力・判断力に加え、国際公用語たる英語を駆使した表現力が必要となる。また、地球規模の問題解決と持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献するためには、多様性に富んだ国際社会における様々な課題に対し、その背景となる政治・文化・歴史等を解釈し、定見を持って解決策を創出できる、高度な知的基盤に基づく行動力を兼ね備えた人材を育成することが必要となる。こうした視点に立脚して、以下の方策を講じていく。
〇学生の英語力強化
・オンデマンドe-Learningによる1年次英語科目(必修)の開講
・TOEICの活用推進
AI監視機能付きTOEIC-IPテスト全学一斉実施及びTOEIC点数換算可能模擬テスト付きオンライン英語教材の活用を推進する。
・IELTS及びTOEFLの活用推進
IELTS団体受験枠の積極的活用に加え、現行の無料IELTS対策講座の拡大若しくは一部有料化によって利用学生の拡大を図る。また、TOEFL教材の活用に取り組み、学生の英語学習方法を充実する。
・「学修成果可視化システム(ASO)」の活用による英語能力の的確な把握及び管理の継続実施
全学一斉実施TOEIC-IPテスト結果及びオンライン教材のTOEIC点数換算可能模擬テスト結果が一括登録される他、英語外部試験のデータを学生自身が入力することで、データの集積と分析により、英語運用力の達成度の検証や英語教育の内容の高度化を推進する。
・分量の多いリーディング・アサイメントとプレゼンテーション&ディスカッションで構成し、自修に重点を置く修学形式の「English Boot Camp(1単位)」の開講
・「Multidisciplinary Studies」の全学的な運営体制の構築
〇日本人学生の海外研修・留学者の増加
・JASSO奨学金等の採択数増加による経済的支援の強化
・「熊大FleCS」の周知徹底による海外研修・留学の誘因強化
・新たなハイブリッド型留学システムの開発・実施
COILによる授業実施後、学生及び教員を海外に派遣し、Project-Based Learningを実施する。あわせて、派遣に係る学生の経済的負担の軽減策及び担当教員への支援を検討・実施する。
・海外危機管理体制の強化による海外研修・留学に対する安心感の醸成
〇ICT/DS(データ・サイエンス)教育の全学必修化
・ICTリテラシー科目及びDSリテラシー科目の新設
〇外国人留学生(正規生)の増加
・「国費外国人留学生優先配置プログラム」2プログラム採択ループの構築
・eラーニング教材を活用した日本語教育システム構築による日本語教育体制の充実
・「Kumamoto University Day」の開催による大学院のプロモーション
海外協定校のキャンパスを利用して、本学の大学院進学についてプロモーションする。
・外国人留学生向け就学支援・就職指導体制の強化
・日本及び熊本大学選択の誘因分析と当該データの活用
〇外国人留学生(非正規生)の増加
・JASSO奨学金等の採択数増加による経済的支援の強化
・奨学金支給に関する入学許可時伝達数の増加
・外国人留学生が熊本の歴史、文化、風土、産業等に関わる史跡、施設等を訪問して、熊本の理解を深めつつ日本人学生と共修することを目的とした課外研修の実施
・学生派遣を視野に入れた交流協定に基づく交換留学生の受け入れ強化
・「サマープログラム」、「スプリングプログラム」、「さくらサイエンスプラン」等の超短期受け入れプログラムの学部の参画を組み入れた実施による、学位取得型留学に対するモチベーション啓発
・国際交流会館収容人員超過時及び本荘・大江地区における宿舎需要に対応するための、民間宿舎家賃に係る国際交流会館家賃超過分を支援する「国際交流会館代替宿舎借り上げ事業」の実施
Ⅲ. 教育のグローバル化
教育をグローバルに展開させていくためには、教員のたゆまぬ資質向上と英語による授業科目数を増加させ、英語が公用語ではない国における英語での教育指導状況に追随することが基本となる。そのためには、海外の大学との質の高いジョイント・ディグリー・プログラムやダブル・ディグリー・プログラム等の連携教育プログラムの提供を促進することによって教員の資質向上を図ることが適切である。また、英語による授業科目数を増加させることは、教員の資質向上、日本人学生と外国人留学生の共修環境の醸成、外国人留学生の誘因効果等正の波及効果はとどまることがない。こうした視点に立脚して、以下の方策を講じていく。
〇グローバル・リーダー・コース(GLC)の発展的展開
新たな学部等連係課程の設置を構想しつつ、既存特定分野の履修コースとして、入試方法の改善を含む発展的展開についても同時に検討する。
・4年一貫の支援体制の構築
・「GOKOH School Program」の内容の充実
・「Multidisciplinary Studies」の積極的履修の必須化
・コースに特化した海外留学/インターンシップ・プログラムの増強
・多言語文化総合教育センターと実施学部との連携強化
・既存の教育課程のアドミッション/カリキュラム/ディプロマ・ポリシーの範囲内で、卒業後国際社会で活躍することが期待される分野の履修コースとしての発展的な展開
〇英語のみで修了できる大学院履修コースの設置
〇英語のみで卒業できる学部履修コースの設置
〇英語による授業科目の充実
日本人教員のオムニバスによる英語による授業科目設置の推進の取り組み等によって、英語による授業科目を充実させる。教養教育科目については全学的体制により取り組む。
〇ジョイント・ディグリー・プログラム及びダブル・ディグリー・プログラムによる国際連携教育プログラムの提供促進
〇外国人教員及び海外で学位を取得した教員の増加
〇国際クラス(仮称)を担当する附属学校教諭への支援
附属小学校及び附属中学校に設置予定の国際クラス(仮称)を担当する教諭を対象として、英語による授業能力の向上を図るセミナー等を開催する。
Ⅳ. 研究力・産学連携のグローバル化
我が国が国際社会で存在感を示し続けるためには、研究における国際的競争力を抜本的に強化する必要があるとともに、イノベーション創出の土壌としての自由な発想による質の高い基礎的・応用的研究の広さと深さを充実させなければならない。そのためには、先駆的な国際共同研究や融合研究を推進し、生命科学、自然科学及び人文社会科学分野に設置した国際先端研究組織を更に発展させて、国際的な研究拠点を志向し世界トップレベルの研究活動を展開し、国内外から卓越した研究者が数多く集う我が国におけるオンリーワンの研究拠点を構築する必要がある。こうした視点に立脚して、以下の方策を講じていく。
〇国際的研究拠点の形成や国際交流ネットワークの構築による国際共著論文等の増加
・国際先端医学研究機構(IRCMS)や国際先端科学技術研究機構(IROAST)等本学の強みである研究領域(発生医学・幹細胞学、感染・免疫学、代謝・循環医学、がん医学、創薬科学、天然物科学、材料科学)を先鋭化するとともに、潜在的な可能性がある研究分野を開拓し、新たな国際卓越研究拠点を形成
・国際人文社会科学研究センター等による国際展開を推進
・クロスアポイントメント制度等を活用し、グローバルな研究者交流を加速させ、国際頭脳循環を推進
・ダイバーシティを考慮した開かれた研究環境を整備し、研究交流を積極的に支援
・国際シンポジウムにおける海外若手研究者の積極的招聘
〇グローバル企業及び海外拠点を有する日系企業等との戦略的な国際共同研究等の推進
・知的財産、国際共同研究契約、安全保障輸出管理等の体制を強化
・グローバルに活躍する起業家を育成
〇国際水準の先端研究等を紹介するセミナーを積極的に開催することによる、国内外の研究者・大学・機関等との連携強化を図った質の高い研究交流を通じた研究力の向上
Ⅴ. アドミニストレーションのグローバル化と国際広報強化
キャンパスのグローバル化及び教育研究の国際連携を推進していくうえでは、アドミニストレーターの育成・資質向上が必須であり、かつ、この点に関する諸外国との差が大きいことを踏まえれば、教職員の英語運用能力の向上及びOn the Job Trainingによる知識・経験の蓄積・共有化を図り続けていくことが期待される。他方で、グローバルな高度情報社会となった今日において、国際広報が外国人留学生獲得のための極めて重要な手段となっている現状を踏まえれば、国際広報の強化は必須の課題となっている。こうした視点に立脚して、以下の方策を講じていく。
〇継続的な国際交流関連情報の獲得
事務職員の定期人事異動による組織力の低下を防ぐため、国際交流に関するアドミニストレーションの経験を有するUEAを雇用して、専門知識及び所属学会で得た情報等を学内に還元してもらう。
〇国際広報(英語版HP、各種SNS、冊子等)戦略の強化
Ⅵ. キャンパスのグローバル化と早期異文化理解体験支援
異なる文化・価値観を持った外国人留学生と日本人学生が高度な英語力と異文化理解力を基盤として共修するキャンパスのグローバル化を一層推進するためには、日本人学生と外国人留学生が自然に融合する雰囲気を醸成することが基礎となる。また、英語力と異文化理解力は、大学入学前から育むことによって大学生時に大きく開花させることが可能となるとともに、こうした取り組みは地域の国際化にも貢献することとなる。こうした視点に立脚して、以下の方策を講じていく。
〇キャンパス・グローバリゼーション拠点の設置
・Community Square(黒髪南地区)
・Global Gathering Center(黒髪北地区)
・Global Life Science Center(本荘地区)
〇「english-TALKmon」の改善・強化
キャンパス・グローバリゼーション拠点等において、外国人留学生のリーダーが提案する、毎回異なるテーマやトピックについて英語でフリートークする授業外活動機会を提供する。
〇国際交流会館運営の適切な維持
持続的に改修費用等を入居料で賄うため、入居者を恒常的に確保していくとともに、日本人学生寄宿舎との一体的な管理運営についても検討する。
〇地域に対する早期異文化理解体験支援による高大接続の強化
「熊大グローバルYouthキャンパス事業」参加者の増加を図る。
・外国人留学生と高校生がふれあう機会を提供する「留学生とMeet & Greet」
・交換留学経験学生による留学体験発表や交換留学中の学生とSkypeセッションを行う「サマー・フェスタ」
・海外語学研修経験学生による「海外語学セミナー成果発表会」
・外国人教員による高校生を対象とした英才塾である「肥後時修館」での英語指導及び中学校・高校での「英語出前授業」
・日本人学生と外国人留学生による「中学校・高校訪問」