成長し続ける先生の育成を、わかりやすく、楽しく

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学び続ける教師を育てる、研修の重要性

健児くん(以下◆):教職大学院とは、どんな大学院なんですか?

前田先生:今、求められている教師としての考え方や指導法、マネジメントといった高度な実践力を学ぶ場です。教育学部や他の学部を卒業したばかりのストレートマスターと10年目から20年目くらいの現職の先生が一緒に学んでいます。社会の変化と共に、教師の役割も大きく変化しています。子どもたちを育てていくためには、教え方だけでなく、教育観や子ども観、学校経営についても学ぶ必要があります。長い目で、学校全体を良くしていくのが教師の役割になってきており、そんな教師を育成したいと考えています。

◆:前田先生も学校の先生だったんですよね?

前田先生:小学校、中学校の教員を25年やってきました。教育委員会の教育センターに5年いて、そこで、現職の先生方に研修する担当と、ICT教育の推進や管理の担当をやっていました。

先生方の研修を担当していたころ、研修がとても大切だということに気づきました。学校の先生は何年か経つと、自分のやり方ができてしまい、慣れすぎてしまうことがあります。そうなると新しい学びが生まれにくくなるんです。たしかに、最初の3年くらいは、明日の授業をどのようにやっていくのかに一生懸命になり、教え方、つまり方法論の習得が重要になります。でも、方法論を身につけるだけで教師が成長できるわけではないんです。

教師の学びや成長について研究する教師教育の学会では、以前から教師の成長には「省察(せいさつ)」が必要だと言われ続けています。省察とは、自分がやってきたことを振り返り、子どもたちの学習にちゃんと寄与していたかどうかを検証し、改善していくことです。今、求められている力、資質・能力に対して、今の自分の指導方法がどうなのかを見直し続け、学び続けていくことが必要なのですが、現場の先生方は、目の前の授業をどうするか、ということに注力してしまいがちです。学会で研究されていることと、学校現場がつながらないのでなかなか響かない、という状況が続いていたので、先生方に研修や学び続けること、省察の重要性を知ってもらうためにはどうしたらいいか、ずっと考えてきました。

その後、小学校の教頭を経て、教職大学院の教員になりました。私は、小中学校の教師としての経験もあり、子どもたちのよりよい学習につなげるための先生方への研修の重要性も感じている。だから、教職大学院で教えることは、自分がやりたいことにぴったり合っていて、ありがたいなと思っています。

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学会の研究を現場の先生たちに伝えたい!

◆:前田先生は、先生向けの本をまんがで描いておられますね!

前田先生: 美術専攻で、もともと絵を描くのは好きだったんです。大学受験のとき、歴史が苦手だったんですが、歴史の人物をまんがで描いたら覚えられたんですよ。だから、まんがだったら、わかりやすいんじゃないかと思って、学会で研究されていることで、先生方に知っていただきたいことをまんがで伝えることにしました。

随所に、研究者が考えたことが入っているんですが、文章で読むと難しいことでも、図を使って、まんがで説明するとわかりやすいんです。たとえば、教師の成長に重要だと考えられている「省察」は、アメリカの哲学者ドナルド・ショーンの概念なんですが、それをまんがにして解説しています。また、省察のモデルを作ったオランダの研究者コルトハーヘンのALACTモデルについても紹介してあります。教師教育の世界では当たり前に使われている理論も、まんがによってポイントをわかりやすく説明できるわけです。

本を読んだ先生方からは「わかりやすいけど深い」「読む度に新しい発見がある」という感想をもらっています。教師の役割や教育観、子ども観などを常に学んで考え続けていかなければ教師として成り立たなくなるよ、授業観の転換が必要だよ、という昔から言われてきているけれど、なかなか響かなかったメッセージも伝わったのではないかと思います。

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子どもたちが「自ら学ぶ」授業をつくるICT

◆:今後はどんなことをしていきたいと思っておられますか?

前田先生: 今、熊本市のICT教育のカリキュラムを作っています。日本のICT教育は遅れています。世界ではテストをコンピュータでやるのが普通になっているのに、日本では文字入力もおぼつかない状況です。また、この20年、われわれは、人や本から学ぶだけではなく、ネット検索や動画で学ぶことが多くなってきています。今後もこの状況は続くと思いますが、そうなると、子どもたちに必要なのは、情報の信憑性や、その情報の後ろにあるものを読み取る力です。タブレット端末やパソコンをもっと学習に使って、そのような力を育成するべきなんです。そこで、ICTをもっと学習に使っていけるような先生方の研修プログラムも開発しています。熊本市でやってみて、その他の市町村にも広げていきたいと考えているところです。

これからの子どもたちに必要なのは、与えられた課題を解決するのではなく、自分で課題を発見して解決する力です。その力をつけるためには、自ら考え、学べるような学習デザインが必要になります。ちょっとむずかしい課題でも、子どもたちは力を合わせて一生懸命に考え、ちゃんと調べて、仲間と議論して、解決方法を考えていきます。そうすると、学ぶ意味も分かり、自然に自ら学ぶようになるんです。これはプロジェクト学習という方法なのですが、学校の現場でこれを実践したとき、今までの授業よりも子どもたちも楽しむことができ学力もアップしました。こうしたプロジェクト学習のツールとしてICTはとても有効です。「教師が教える授業」ではなく「子どもが学ぶ授業」になっていくと思います。

子どもたちが自ら学ぶためにどうしたらいいか。そのために教師は何を考え、何をしたらよいか。それは、私が描いたまんがの一貫したコンセプトですし、カリキュラムを作っていく上での基本的な考え方にもなっています。


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価値観が転換する時代、とんがった人になろう

◆: 学生のみなさんへひと言お願いします!

前田先生: 今はむちゃくちゃ面白い時代です。今までの価値観が転換し、新しい産業も生まれようとしています。モノをたくさん持つことには意味がなくなり、人やモノがつながりあって新しいモノやコトを生み出そうという時代です。

そんな時代だからこそ、自分のやりたいことを大事にしてもらいたいと思います。他の人と違っててもいいから、好きなことをめちゃくちゃ一生懸命やったらいいんです。自分の特性を活かして、とんがった人になってほしいですね。

時として、こういう人には支援が必要とされる場合もあります。でも、それは特性が強いから。そんな人たちが自分のもっているものを十分に発揮できるような社会が絶対にいい。自分にしかないものを大事にして、生き生きと生きていきましょう。先生にも、そんな考え方をもってもらいたいと思っています。






(2020年3月24日掲載)

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