まちが抱える問題を、都市計画の視点で解決する

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まちが抱える問題の解決を支援する都市計画

健児くん(以下◆): 先生のご研究について、教えてください!

本間先生: 私たちの研究室は都市計画がテーマ。都市計画というと、道路や橋梁、ダム、港湾といったインフラの研究をイメージされるかもしれませんが、私達は住宅や人々の暮らしなど、人間にフォーカスして、計画や設計、デザインを考えています。

今取り組んでいるのは、大きく2つのテーマです。
1つは、日本の現状の課題に対するソリューションを目的にしたもの。熊本地震からの復興にもチャレンジしています。具体的には、健軍商店街地区の再開発です。VRやARを使って、再開発のイメージづくりをして、どんな商店街にしていくかを、商店街の皆さんと考えています。また、既存ストック、つまり空き家の改修もテーマの一つ。中山間地に増えている空き家をどうするか、限界集落と言われる地域の今後のまちづくりをどう考えるか、などのお手伝いもしています。

さらに、熊本では、古町新町の町並み調査などもやっています。熊本地震後、急激にコインパーキングが増加し、まちが穴だらけになっています。私たちは、これをスポンジ化現象と呼んでおり、今後のまちづくりでは問題の一つになっていくと考えています。小さなコインパーキングが点在すると、その後の土地活用がしにくくなり、最終的に空き地の点在につながるからです。このように、まちの将来像を見据えた、調査や計画などに取り組んでいます。

もう一つのテーマは、海外の途上国における持続可能(サスティナブル)な地域開発の支援です。


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先進技術を使って、海外の都市開発を支援

◆:海外の都市計画にも携わられているんですよね。

本間先生:海外では、「G-space Studio」という名称で活動しています。地理空間情報を扱う研究室という意味で、GISと呼ばれる地理情報システムを使った計画づくりや、まちの三次元モデリングやまち並みのデザイン・シミュレーションが主なテーマです。

もともと海外での活動に興味があったので、海外の都市計画をサポートできないか、と思っていました。現在は、ミャンマーの都市開発を手伝っています。ミャンマーは日本とは真逆で、これから開発をすすめていく、という国。どんなまちづくりをするのか、環境や歴史、防災についても考えながら、サスティナブルな地域開発をテーマに先進的な都市計画を考えています。

ミャンマーでやっているのは、一つは農村地域の防災計画。ミャンマーには、大きな水害がおきてもその被害状況などを把握する技術が不足しています。そこで、ドローンを飛ばして、被災地の上空からどこまで被害があったかを定量的に記録し、実情に基づいた防災計画の作成のお手伝いしています。

もう一つは都市開発です。大きな川沿いの都市のまち並み整備について、景観や対岸のまちとの関係も考慮したウォーターフロント計画をやっています。

また、最近世界遺産になったバガンで、政府と共同で古い寺院の3Dデータづくりもやりました。ドローンにより撮影した画像から、点群データを作成し、建物を3Dモデル化するというものです。精度6mmで建物の表面を3D化しました。以前は長期間かけて手作業で寸法を測らないと図化できなかったのですが、今は、表面だけなら1日で測量できるんです。

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ドイツ留学で学んだまちを考える建築

◆:先生が建築の中でも都市計画に興味をもたれたきっかけは?

本間先生:もともとは設計に興味があって建築学科に入りました。学生の頃は都市のことはピンときていなくて、建物のことばかり考えていました。その後、ドイツに留学をしたのですが、そのときに、都市のことをよく調査して、よく考えた上で建物をデザインしないといけない、ということに気付かされました。一軒の家を設計する際にも、500分の1のまち全体の模型に、自分が設計した建物の模型を置いて考えるんです。その設計がまちにとってどういう意味があるか、とか、その住宅から数キロ先にある教会はどのように見えるか、とか。7割くらいまちのことを考えて、残りが建物設計のこと。日本では、今もこのような都市計画的な発想は弱く、法体系も対応できているとは言えません。でも、まちをつくるということは面白そうだな、と思いました。そこで、都市計画をメインに取り組むようになったんです。

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熊本地震の衝撃を、地域の元気に

◆:熊本地震後のまちづくりでは、どんな変化がありましたか

本間先生:熊本地震直後は、まず、被害をうけた方の生活再建を基本にお手伝いをしてきました。その後、時間がたって見えてきたのは、地震という大きな衝撃はあったが、新しい未来につながる可能性もできている、ということです。商店街の研究は地震前からやっていましたが、そのころから、商店主の後継者不足や高齢化、シャッター商店街など、商店街が抱える問題はたくさんありました。なんとかしたいと言いながら、なかなか動かない状況で熊本地震が起きたんです。確かに大きな被害はでましたが、まちが新陳代謝する機会と考えることもできます。新たに若い人がお店を始めたり、更地をまとめて新しい建物を考えようという話もでてきています。問題解決になかなか動けなかった商店街が、大きく動き、元に戻るのではなく、一歩進んでいくような未来が見えてきたんです。地震前より元気になっていく可能性もあるんじゃないかと思っています。

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コミュニケーションの壁を越えて伝わったときがうれしい

◆:ミャンマーでの都市開発は、いろいろな難しいことがありそうですね。

本間先生:海外とのプロジェクトでは、どうやって伝えていくか、が一番の課題です。例えば言葉。ミャンマーはビルマ語が共通語なので、ビルマ語から英語の通訳を入れて、英語を理解する、ということもあります。多言語に対応するのは少しまどろっこしいときもありますね。また、地元の人にアンケート調査をすることもあるんですが、これはビルマ語で作成しないといけません。大丈夫かなと思ってGoogleなどの翻訳機能を使って一気に翻訳したことがあったのですが、現地の大学の先生から「これはビルマ語ではない」と言われて、一からやり直すことになりました。同じアジア人なのに、英語やヨーロッパ言語に比べてアジアの言語には興味を持っていなかったな、と気づきました。確かに英語は多くの国で使えるようになっていますが、本当の研究をしようと思ったら、その国の言葉を理解しないといけないんですよね。

また、こちらのアイデアを伝える、ということの難しさも感じています。これは国内でも同じなのですが、古い建物をリニューアルするとこうなるよ、通りがこう変わるよ、と言葉や文章だけ言ってもなかなかピンときてもらえないんです。そこで、CGで将来のまちのイメージを作ったビデオを見せたり、VRでまちの様子を映し出すツールを作って見せるんです。「おお!」と喜んでくれて、最初は無理だと言っていた人たちが、俄然やる気になってくれました。CGやVRを作っても作らなくても、言っていることは同じだと思っていたのですが、アイデアの提示の仕方はとても重要で、イメージを共有できるツールの活用はとても大事だと思っています。
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海外チームと国内チームの連携で、新しいアイデアを創造したい

◆:今後、どんな研究をしていきたいと考えていますか?

本間先生:現在、研究室はプロジェクト単位で学生が分かれ、それぞれの事業をやっています。海外チームと国内チームではやっていることも進行具合も違っているのですが、いずれは、この2つを連携させたいと思っています。お互いの情報や体験をつなげることで、いいところを吸収しあい、新しいアイデアが生まれるんじゃないか、と思っています。

ミャンマーの開発で感じたのは、知識や技術は圧倒的にこちらが上で、教えるだけだと思っていたら、暮らしぶりや考え方など、日本に足りない部分をたくさん持っているんじゃないか、ということでした。日本とは異なる考え方や多様性がある、というか。また、宗教観の違いも重要だと思っています。日本は宗教観があまりないのですが、海外は宗教がとても重要です。生きていく上でもっとも重視すべき考え方の基準はなにか、ということが宗教でびしっと決められていてわかりやすいんです。これは国内のプロジェクトだけでは感じられないかもしれません。意外かもしれませんが、建築を突き詰めていくと、文化や哲学、宗教など考えるべき範囲がすごく広いんです。いろんな情報に揉まれて、いろんな価値観や多様性を学んでいくきっかけを作っていきたいです。

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経験を増やして、柔軟に、失敗を恐れず考えてほしい

◆:学生の皆さんへメッセージをお願いします

本間先生: 学生には、柔軟に、失敗を恐れず常に何パターンも考えるようになってほしいと思います。効率的にすすめることも大事ですが、設計案にしても、一つのアイデアに固執するのではなく、不都合なことや難しいことがおきたら、全く違う発想でやってみるという発想の転換ができるようになるといいですね。

そのためには、いろんな本を読んだり、旅行をしたりするのが効果的です。特に、まちづくりは、いろんなまちを見た人が強いです。都市計画にやまちづくり興味がある人は、旅行をいっぱいしてください。そのときに、まち並みや建物を見るだけでなく、いろんな人とおしゃべりして、いろんなものを食べて、遊んで、楽しんで、経験を増やすこと。きっと豊かな発想につながりますよ。

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(2019年12月6日掲載)

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総務課 広報戦略室

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