生命を未来につなぐ減数分裂の世界を解明したい

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性別をもつ生物は、父親と母親から染色体を受け継ぎ、種をつないできました。その際、重要な役割を担うのが「減数分裂」。染色体を正確に半分に分裂する減数分裂について、子育てと両立しながら研究を続けている、高田幸先生にお話を伺いました!

遺伝情報を正確に継承する、神秘の減数分裂

健児くん(以下◆):先生の研究内容を教えてください!

高田先生: 哺乳類の減数分裂のメカニズムを解明する研究をしています。減数分裂は有性生殖を行う生物にとって、遺伝情報を次世代に継承するための重要なプロセスなんです。

人は父親と母親からきた2本で一対になった染色体を23セット持っています(これを”2n”と表します)。体細胞分裂の際は、分裂後の新しくできた細胞も”2n”になります。しかし、精子や卵子の細胞分裂では、染色体が厳密に分配されて半分になり、染色体の状態としては”n”、つまり半分になった細胞が作られます。この細胞分裂が減数分裂です。なぜ、半分になるのか。それは、精子と卵子が受精して一つの細胞を作るから。”n”の精子と”n”の卵子が受精して”2n”になる。そのためには、正確に半分にならないといけない。最終的に”2n”になるからといって”0.5n”とか”1.5n”になってはいけないんです。そうなると染色体異常が起こってしまいます。

正確に半分にするために、減数分裂は二段階にわけて行われていることがわかっています。そのうち最初に起きる第一分裂だけに、体細胞分裂とは異なる特殊な機構が見られるんです。なので、第一分裂のときの核の中でなにが起きているのかを観察し、減数分裂特有の分裂様式を明らかにしたいと思っています。

◆: 正確に半分になるなんて、すごいですね!

高田先生: そうなんです!さらに、私たちの研究では哺乳類にこだわっているというのも特徴です。高等動物を研究する際には、遺伝子を人為的に操作したノックアウトマウスなどを使うのですが、なかなか作るのに時間もかかるし、体外で生殖細胞を培養する技術もとても難しく簡単に応用できません。ショウジョウバエや酵母などでの減数分裂の研究は進んでいるのですが、これらの生物と哺乳類は完全に同じように分裂しているわけではない。だからこそ、ヒトに近い哺乳類をモデル生物にして研究をすすめているんです。

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減数分裂に関わる重要なタンパク質「コヒーシン」

◆: 今わかっているのはどんなことなんですか?

高田先生: 生殖細胞の減数分裂期に特有の染色体構造因子の一つ、「コヒーシン」というタンパク質に注目しています。コヒーシンタンパク質は体細胞にも見られ、体細胞分裂の際は、DNAを複製するタイミングで染色体がバラバラにならないよう束ねておく役割を持っています。

コヒーシンタンパク質にもいくつかの種類があり、減数分裂期にしか発現しないものもあります。それが「Rad21L」「Rec8」という2つのタンパク質です。Rad21LとRec8をなくしたマウスを観察すると、第一減数分裂期の染色体構造がおかしくなり、最終的に子供を生むことができないということもわかっています。

実は、生殖細胞は減数分裂期に入る前は、体細胞分裂をしています。このときにあるのは「Rad21」というタンパク質で、減数分裂期に入った瞬間に「Rec8」「Rad21L」が核の中に発現して置換されるんです。なので、この2つのタンパク質を中心に、減数分裂と体細胞分裂との違いはどこにあるのか、体細胞分裂から減数分裂にスイッチするときに染色体構造がどのように変化するのか、などを、核の中の染色体構造の変化を中心に解析しています。

コヒーシンは女性の卵子の中では年齢が高くなるにつれ、減少していきます。そのため、精子より卵子の方が染色体分配異常が起こりやすくなるという報告もあります。研究を続けることで、高齢出産における染色体異常の増加の原因を探る一端を担うことにつながれば、と思っています。

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目で見た染色体のインパクトが忘れられない!

◆: この研究を始められたきっかけは?

高田先生: もともとはエピジェネティクス(DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム)に関与する「ポリコーム」というタンパク質について研究していました。ポリコームは体節形成にも関与するタンパク質です。そこで、骨格異常が出ると想定して、あるポリコームのノックアウトマウスを作ってみたのですが、意外に骨格へ影響はなくて、普通に生まれて大きくなったんです。なんでだろうと思って全部の臓器を見てみたら、なにかおかしいな、と思って。でも、はっきりとはわからなくて、解剖の先生にも見てもらいました。すると、「精子ができていないよ」と指摘されたんです。不妊なんて自分の研究テーマに関わると思っていなかったのですが、「不妊ってなに?」と思うようになりました。

そのとき、精巣を輪切りにして染めてみたんですが、どこを切っても金太郎飴のように輪っかがきれいに見えることに感動しました。さらに、顕微鏡で生殖細胞を見てみると、21本(マウスなので)の染色体がきれいに見えたんです。DNAの塩基配列など、直接目では見えないものと戦うことが多い世界で、これは大きな衝撃でした。技術を駆使すれば、染色体の構造ははっきりと目で見られるんだな、と思いました。

この染色体をもっと見ていきたい。その思いが今も原動力の一つです。

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3人に子供と研究の両立に苦労。支援を活用して研究を続ける

◆: 先生には3人のお子さんがいらっしゃるそうですね

高田先生: 結婚してしばらくは、研究が楽しくて、子供はいらない、と思っていました。でも、年齢を重ねていくうちにふと「子供がほしいな」と思うときがあって。当時、私は理化学研究所にいて、単年度契約の研究員をしていたんですが、ちょうど基礎科学特別研究員制度に通ったんです。基礎科学特別研究員は3年雇用で育休取得も可能。今なら研究しながら子供を生んで育てられる、と思いました。そして一人目を出産。この期間中にもう1人、と思って、産休育休をとりながら、特別研究員の期間に2人の子供を授かることができました。二人目が臨月のとき、もうちょっと実験すれば論文が受理される、ということがあって。お腹が大きくて辛かったのですが、息を止めて顕微鏡を覗いて、この細胞だ、と思ったら写真を撮って、ふっと息を吐く、というのを繰り返したのをよく覚えています。こんな辛い思いをしたんだから、今後はどんな苦労も乗り越えられる、と思いましたね。

ですがその後、研究をしながら二人の育児をやっていく大変さに、自分でもびっくりして、一旦研究員を辞めました。のんびり生きていけばいいかと、知り合いの先生のところでパートの立場で研究させてもらったり。すると欲が出てきて、自分でもっと自由に研究したい、と思うようになって。そこで、また一念発起して日本学術振興会の特別研究員に応募したんです。特別研究員制度には子育てや出産で研究を中断したことのある研究者が応募できるRPDという枠があります。このポジションも3年が期限ですが、途中出産育児などで休業したらその分延長もできますし、採用開始のタイミングも採用年度内であればある程度自分で選べる素晴らしい制度です。RPD採用が決定したタイミングで3人めの妊娠が発覚。そこで、RPDの採用開始を遅らせて出産することにしたんです。

研究と育児の両立が大変で、まだできるはずなのに応えられない、というネガティブスパイラルに陥ったこともありましたし、今でも泣きそうになることは多々あります。でも、振り返ってみれば、その時々でベストな選択をしてきたんだと思います。力を抜いて「今日できなくてもいいじゃん」と思えるようになりましたし。仕事だけ、プライベートだけ、が人生ではありません。うまく、自分なりのバランスをとりながら、やりたいことがやれている今は本当に幸せだと思います。

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好きなものを、ずっと好きでい続けよう

◆:学生の皆さんへメッセージをお願いします

高田先生:好き、見てみたい、という直感はとても大事だと思います。そこから生まれた体験やエネルギーは、将来どんな職業についても役に立つと思うんです。どんなものでも好きでいていいし、好きでい続けていい。好きなことを繰り返していれば、将来、どこかでそれが活きることを、覚えていてほしいと思います。

(2019年10月11日掲載)

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