世界初!白色中性子線ホログラフィー技術で元素の世界を可視化する

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微量の原子を可視化する、新しいホログラフィー技術

健児くん(以下:◆):今回、先生方のチームが発表された、「白色中性子線ホログラフィー技術」とは、どんなものですか?
細川:物の中には、いろいろなものが混じっています。料理で言えば、料理をおいしくするために、調味料やハーブなどいろんなものを混ぜていきますよね。半導体や電池などを作るための高性能材料も、その性能をよくするためにいろいろな素材を混ぜていくんです。例えば、 KUMADAI マグネシウム合金。マグネシウムだけでは燃えてしまいますが、マグネシウムに不純物を混ぜることで、固くなったり燃えなくなったりしています。不純物の効果は非常に大きいのです。どんな不純物がどのように入っていて、どんな役割を果たしているのか、その周辺はどうなっているのか、を明らかにするためには、X線や中性子線などの放射光と呼ばれる直線的に飛ぶ光をあてて、跳ね返ったデータを測定するのですが、これまでの技術では、不純物が微量だったり、X線では見えにくいフッ素やリチウムなどの軽元素だったりすると、それらを選択的に見ることはできませんでした。元素自体が見えないので、添加することによりその周囲の構造がどう変わったのか、どんな変化が機能向上に役立ったのか、などを知ることもできませんでした。
今回発表した技術は、白色中性子線をあてることで、これまで見えなかった不純物の可視化を実現するというものです。白色中性子線は水素などの軽元素も計測することができます。ホログラフィー技術とは、物体の姿を立体像として記録する技術です。白色中性子光を照射して得られたデータから、物質中の三次元原子配列をホログラフィー技術で画像化することに成功したということは、微量な添加元素の影響を、微弱なものも逃さずに可視化できるようになるということ。今後、いろいろな微量軽元素の役割の解明などに役立っていくと思います。
◆:すごい技術なんですね!
細川:実は、現在主に使われている画像取得技術は、50年前から使われている技術です。新しい技術がつけ加われば、より明らかにできるものがあるのではないか、と今回の研究が始まりました。研究は、名古屋工業大学、茨城大学、広島市立大学、高輝度光科学研究センター、熊本大学、日本原子力研究開発機構、J-PARCセンター、高エネルギー加速器研究機構、東北大学金属材料研究所の研究者と共同で行った文部科学省のプロジェクトチームで行われました。J-PARCという世界最高強度の中性子源やSPring-8(タイトル写真の施設)という、世界最高性能の放射光が利用できる大型施設を利用して実験してきました。現在の方法はまだ難しいので、今後は、より簡単にこの技術を活用できないか、研究が続けられる予定です。
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今につながる、ドイツとの絆

◆:先生が、現在の研究を始められたのはいつごろからですか?
細川:放射光を扱いたいと思ったのは、大学院生のころです。当時流行した技術があって、担当の先生と一緒に研究を始めました。勉強していて「面白いな」と感じ、研究を続けることにしました。でも、そのためには英語ができないとダメ。そこで、40歳にしてドイツのマールブルク大学に9年間留学しました。本格的な研究はそこからだと思います。原子の運動を調べる方法など、新たに教えてもらう技術もあり、放射光への興味も深まりました。フランスのグルノーブルにはESRFという大きな放射光の実験施設があり、何度も訪れました。当時、お世話になった先生はとても懐の広い先生で、話をよく聞いてくれる人でした。あとで「細川は面白いことをやっている」と他の人に話していた、ということを聞いて、とてもうれしかったですね。
ドイツでお世話になった方たちとのつながりは今も続いていて、今、研究室にマールブルク大学の研究者2名が、研究助手として来ています。いろいろなアイデアを出してきたりして、とても熱心です。
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事実を積み重ねて考える、ミステリーのような魅力

◆:先生にとって、放射光の魅力はどんなものですか?
細川:ミステリー小説やサスペンスドラマを見るのが好きなんですが、中性子の研究はミステリーに似ているなと思うところがあります。実験をするといろいろなデータが出てきます。そのデータが何を意味しているか、一生懸命考えていくんですが、最初はよくわからないことの方が多いんです。ホログラフィーの画像も、亜鉛や錫が入っているものはあるべきところに見えているけど、ヒ素が入っているものはめちゃくちゃ、というようなことがあり、それをどう考えるべきか、みんなで議論していきます。何らかの理由で間違ったデータが出てきているかもしれないのに「こうなるはずだ」という思い込むと間違うこともある。そうなると、いわゆる冤罪になっちゃいます(笑)。
物には物性(物質がもつ物理的性質)があり、それときちんと調和した解釈にならないといけないんです。いろいろなデータを寄せ集めて、ストーリーを考えていく。それがすごくうまくいくこともあるし、無駄になることもある。証拠を集めてそのつながりを考えて、矛盾がないように組み立てるところが、似てると思うんです。
うまくいかないときは、勉強不足、ということが多いです。自分がやる研究の魅力は、これまでの人がどのように考えてきて、研究してきたのか、をきちんと学ぶことからしか見つからないと思っています。興味だけに振り回されず、古くから行われていることについてしっかりと考えていくこと。その積み重ねの中からわかることや明らかになることがあります。簡単に答えや結果は出ませんが、勉強して、考えていけば、自分なりの面白さが見つかりますよ。
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研究機器や成果をつないでゆくことが大切

◆:今後は、どんな研究をしていかれる予定ですか?
細川:実は、定年まで3年半です。2年くらい前から、人や機器を引き継いで活用していく、ということを考えています。研究には、独自の機器が必要です。機器がないと研究ができないこともあります。今まで使ってきた機械が無駄にならないようにしたいんです。使ってもらえるだろう人の考えを聞いて活用できるように手配するなど、興味を持っている人たちが最低限の研究ができるようにしたいと思っています。
研究を続けるためには、人も必要です。人脈づくりを大切にして、研究成果を引き継ぐことも重要だと思います。そこで、研究費を活用して研究者の卵を雇用し、育成することも行っています。実際にやろうとするとすごく大変なのですが、人的資産を確保していくことはとても大切だなと思います。
新しい研究技術が出てくると、新しくわかることが必ずあります。興味を持った人が研究を続けられるようにサポートしていくことが、今の自分の役目の一つかな、と思っているところです。
◆:最後に、熊大生や熊大を目指している人たちへメッセージをお願いします!
細川:熊大にくる学生さんたちは、みんな能力が高いなと思います。でも、表面的な興味や小さな問題に振り回されて、深く勉強していない部分もあるんじゃないかと思います。しっかり考え抜く習慣をつけて研究に臨めば、ぐんと伸びていくと思います。ぜひ、大学の4年間、じっくり考え、勉強してみて下さい!
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(2017年10月31日掲載)
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