平成27年度熊本大学卒業式・修了式 式辞

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卒業生、修了生の皆さんおめでとうございます。本日、ここに、ご来賓各位の御臨席を賜り、部局長、並びに教職員と共に平成27年度の卒業式・修了式を挙行し、合計2,481名の諸君を送り出すことができますのは、熊本大学にとって大きな慶びであります。
皆さん方は、今日熊本大学での勉学を終え、一生の中でも記念すべき門出の日を迎えられました。卒業や入学には晴れやかさや歓びがつきものですが、数年前に入学された時とは、また違った気分だろうと思います。それは、皆さん方がこの数年間の大学生活の中で成長されたからです。先生や友人との触れ合い、クラブ活動、あるいは学外での活動など、おそらく二度とない学生生活をしっかり思い起こしてください。大学内外での多くの人々との交流、これらは全て皆さん方の人格形成のために掛け替えのないものであり、これからの人生に大きな影響を与えるに違いありません。ここで、皆さん方の一人ひとりが生まれてから今日に至るまで、皆さん方をずっと支え、励ましてくれたご家族をはじめ、恩師、友人、先輩、後輩など周りの全ての方々に対し、皆さんと一緒に、改めてお礼を申し上げたいと思います。

皆さん方が熊本大学で学んだこの数年間、日本だけでなく世界は激しく動いて来ました。今年は東日本大震災から五年ですが、まだまだ多くの問題が残っています。また、昨年は世界各地で、集中豪雨による被害があり、我が国も例外ではありませんでした。エネルギー問題、水の確保、感染症等も今日世界の大きな課題になっています。日本では、原子力発電所の再稼働を巡って、依然として様々な議論が展開されています。廃炉に関しても先が見えない暗澹とした状態です。エネルギーの確保は、今日の世界的な課題でもあります。また水は生命(いのち)の根幹ですが、大きな災害をもたらす力も持っていることは、集中豪雨や台風、津波による被害で思い知ったところです。西アフリカを中心に広がりを見せたエボラ出血熱が終わったかと思ったら、韓国でのMERS、ブラジルを中心としてジカ熱の感染症が流行しています。国際的な協力の下にこれらの感染症は制圧しなければならないでしょう。中東の混乱、テロ、シリア難民問題など社会不安も増大しています。オイルマネーと中国経済等の影響で株安円高が進み世界経済にも暗雲が立ち込めています。今日の我々が直面しているこれらの課題を世界的な視野の中で解決していくことが、今後益々重要になってまいります。社会の財産としての皆様の叡智が今後、様々な形で求められるところです。
これまで学んできた知識を知恵に転換することが必要で、それによりイノベーションを起こす必要があります。ここでいうイノベーションとは、生活環境が一変する革新的な発見や考え方(思想)を言っています。単なる学問・技術の発展・推進とは異なります。革新的な発見は、連続的知識の集積からは生まれません。それが伝統を重んじるヨーロッパや日本等の大学でイノベーションが起こりにくい原因の一つです。アインシュタインの相対性理論やインターネット技術開発は大学の外で起こりました。つい最近、電子メールの生みの親、レイ トムリンソン氏の死去が報道されました。電子メールは、彼の発見後、爆発的に普及し、現在39億もの電子メールアドレスが使われていると言われています。手紙という通信手段が一変しました。これこそ正にイノベーションです。この電子メールの発見も彼がマサチューセッツ工科大学MITを卒業した後に行われました。今、皆さんは、大学の束縛から解き放たれ、自由な発想を掻き立てることのできる社会へ出て行かれます。大学で培った知識をもとに大胆な発想を呼び起こす叡智を最大限に発揮してください。そのためには、自由な発想・創造とそれを具現化する情熱が必要です。熊大スピリットを伝える言葉として、本学が掲げているコミュニケーションワード「創造する森 挑戦する炎」を胸に社会に旅立っていただきたいと思います。

英国オックスフォード大学の研究者が発表した、あと十年で「消える職業」「なくなる仕事」というのがあります。レジ係、レストランの案内係、チケットもぎり係、など実に702の職種が挙げられており、この論文では、これらの仕事はコンピューターに取って代わられる確率が90%以上と算定されています。とすれば、コンピューターで出来ない方向性を、これらの分野でも打ち出す事が出来れば、生き残れる可能性があるはずです。
平成28年度から大学では第三期の中期目標中期計画が始まります。第二期の時もそうでしたが、これらの計画はPDCAサイクルを回し進められます。Pとはplanで計画、Dはdoで実行、Cはcheckで検証、Aはactionで実施のことであります。物事を計画し、それを実行します。そしてそれを検証し、問題点を洗い出し再実施するというものです。このPDCAサイクルは会社での効率的仕事のやり方としてハウツー本などでも紹介されています。したがって、何も中期計画作成のためだけのものではありません。当初このPDCAサイクルを初めて耳にした時、素晴らしい計画実行のやり方だと思ったものですが、よくよく考えると、優秀な研究者や大学院生など、無意識にこのPDCAサイクルを動かしています。まず仮説を立て、実験をします。データーを解析し問題点を、あるいは仮説と一致しないところを洗い出します。さらに、仮説証明のため実験を繰り返します。このようなPDCAサイクルを回し真理を見出し、理論を組み立てていくのです。いかに早く、いかに効率良くこのサイクルを回すかが鍵になってきます。逆にPとDだけで終わってしまう人もいます。仮説を立て実験をし、それで満足するような人です。PlanとDoで終わってしまえば、当然クリエイティブな仕事はできません。
コンピューターはプログラミングさえすれば多くのPlanを記憶し、人間より確実にそのプランの実行doをします。ICカードの普及で駅員の切符きり等がなくなったのも当然です。)しかし、コンピューターはプログラムの補正、特に自動補正はできません。フリーズするでしょう。PとDまではコンピューターが勝ります。あと十年で「消える職業」「なくなる仕事」とは、そのほとんどがPとDで終わっているのです。医者や教育者、研究者、芸術家は十年後も無くならない職業でしょう。しかし、これらもPとDで終わってしまえば、平々凡々とした、無くなる寸前の仕事となってしまいます。今後、あらゆる仕事で自己検証が必要です。そして先を見越した計画をいかに立てるか、いかに情熱を持ってその計画を遂行していくかで、皆さんのコンピューターに勝る価値が形成されていくと思います。また、そこにイノベーションが生まれる素地があるでしょう。
プラン「P」とチェック「C」には何より創造性が必要です。DoとActionには実行する情熱が要求されます。つまりPDCAサイクルを回すということは、先ほどお話ししました本学のコミュニケーションワード「創造する森 挑戦する炎」の精神を実践し、繰り返すことに他なりません。

熊本大学がさらに発展するための原動力は、熊本大学に学び、熊本大学を愛される方々の世代を超えた絆の中にあると思います。母校の伝統の担い手として、「創造する森 挑戦する炎」を胸に、積極的に母校のために力を寄せてください。熊本大学で学んだことに誇りと自信を持って、これからの人生を力強く歩んでください。
今後の皆様のご健闘を祈りつつ、卒業・修了に際しての心からの祝辞といたします。

平成28年3月25日
熊本大学長 原田信志

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