平成25年度熊本大学入学式 式辞
本日ここに、御来賓各位の御臨席を賜り、理事、副学長、部局長、役員、教職員と共に一同に集い、熊本大学第65回入学式を執り行うことができますことを、大変嬉しく思います。学部学生、編入生合わせて1854名、特別支援教育特別専攻科学生20名、養護教諭特別別科学生45名、大学院学生769名、総勢2688名の若き希望に満ちた皆様の一人一人を心から歓迎いたします。この中には12カ国に及ぶ国々からの留学生、72名が含まれています。ようこそ熊本大学へ(For International Students, welcome to Kumamoto University).
入学を果たされた皆様の、これまでの研鑽と努力に心から敬意を表します。また、その志を支えてくださった、保護者の方々、ご家族、ご友人、ご指導いただいた先生方など、数多くのご支援いただいた方々に深く感謝しつつ、支援者の皆様にも心よりお慶び申し上げます。
重ねて、新入生の皆様、入学おめでとう!
熊本大学の歴史と概要
さて、皆様が入学された本学の歴史を少し振り返ってみます。本学は、肥後細川藩が255年余り前に設置(1756年設置)した、日本初の医療施設である再春館・医学校や薬用植物園としての蕃滋園に源を有する熊本医科大学や熊本薬学専門学校に加えて、夏目漱石、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)等の教授陣を有し、二人の首相や寺田寅彦をはじめ数多くの人材を各界に輩出した第五高等学校(1887年設置)の他、熊本師範学校、熊本工業専門学校等を前身として1949年(昭和24年)に新しい制度の下で熊本大学となったものです。本学は、再春館医学校から数えれば250年を優に超え、また第五高等学校から数えて125年を超える我が国で最も歴史のある大学であります。
現在では、7つの学部と8つの大学院、その他に附属病院、この秋にリニュアルオープンされる附属図書館、附属学校・園、さらに研究所、教育、研究センターなど、18の施設を持ち、約1万1千人を超える学生・生徒と1千5百人に及ぶ教職員を擁する我が国を代表する総合大学です。今日まで10数万人の有為の人財を社会に送り出してまいりました。
熊本大学の理念と目標
ご承知の通り、大学の社会的使命は、教育、研究と、その成果を通した社会貢献にあります。しかも、今日、これらの使命を、国際社会を視野に入れて、達成する必要があります。本学は、「我が国を代表する研究拠点大学」としての役割を果たすことを社会に対して約束しているところです。また、「大学院教育においては、国際社会のリーダーとして活躍できる先導的研究者及び高度専門職業人を養成する。」ことを、「学部教育においては、その基礎としての幅広い教養を持ち高度な課題解決能力を有する人材を育成する。」ことを掲げ、「教育・研究活動の成果を活用して、広く地域及び国際社会に貢献する。」ことを約束しています。
さて、ここで、これから本学で学ばれる皆様に心得ておいて欲しい事柄をお話しします。
社会の人「財」として学修する
皆様は、なぜ大学で学ぶ必要があるのでしょうか? 皆様が、これから本学で学業に励まれる理由はただ一つです。それは「皆様自身が社会の人々の役に立つため」です。皆様も「社会に貢献したい」と思っておられると承知しています。改めて、皆様には、「社会の人々の役に立つために」ということをしっかりと心得ていただきたいと思います。
本学では、皆様を社会の単なる一構成要員としての「人材」とは思っておりません。皆様、一人一人が社会の財産、宝としての「人財」であり、そのように育って欲しいと考えています。そのためには、皆様にも自らを厳しく鍛え上げて、「社会の人々の役に立つ」社会の財産として、自らの道を着実に歩んでいただきたいと思います。新入生の皆様には、大学で学ぶにあたって、受け身の習うという「学習」の姿勢から脱却して、自ら学ぶ、自ら進んで能動的に学び修める「学修」をしていただきたいと思います。
時代は人「財」を求めている
ではなぜ今、皆様に社会の財産としての人財として大きく育っていただかなければならないのでしょうか。
我が国は、今、この150年の中で3度目の大きな歴史の転換期にあります。約150年前の明治維新に際しての近代日本の形成には、本学の前身の第五高等学校の学生たちの中から、高い志を持つ多くのリーダーが育ちました。70余年程前には、我が国は第二次世界大戦後のゼロからの出発をいたしましたが、「奇跡」と呼ばれる目覚ましい発展を成し遂げました。そこでも、本学の幾多の卒業生が中心的な役割を果たしました。そして、今日、我が国は3度目の大きな転換期にあります。今日の社会は一層グローバル化が進展して、何事も世界的な視点で考えることが求められます。アジアやアフリカ諸国の発展は目覚ましく、また、情報通信技術の発展で情報は瞬時に世界を駆け巡ります。 好むと好まざるとに関わらず、我々は、世界とともにあります。これから先は、世界を先導して様々な課題を解決する役割を果たさなければなりません。特に、我が国は、大震災からの復興という比較的長期的な課題を克服して、これまでとは質的にも異なる大きな飛躍が求められています。それを支え担うことができる人「財」が今、三度必要になっています。
皆様には、心身を鍛え、幾多の困難を克服して前に進む力を身につけていただくことが必要です。大学は、そのための力をしっかりと身につける場です。自らが専攻した専門分野はもとより、教養教育で視野を広め、読書をし、仲間と議論し、さらに、サークル活動やボランティア活動などの課外活動を通して、チーム力、リーダーとしての資質を磨くなど、やるべきことは数多くあります。本学は責任を持って皆様の力を鍛え磨いていく手助けをいたします。
今年も、「学長特別講義」として新入生の全ての皆様と直接お話をする時間を創りました。新入生の皆様には4月から6月までの間に、国の重要文化財で、かつて日本の近代化を担った人々が学んだ由緒ある本学の教室で、近いうちに改めてお目にかかります。
知の拠点:本学の先端研究
次に、本学の世界に誇るべき研究面について少しお話しします。本学は、その使命として、様々な特色ある研究や世界最先端の研究を進めています。
例えば、生命科学分野では、先端医療に関する研究はもとより、発生医学研究所が我が国の全国共同利用・共同研究拠点機関としての役割を担っています。また、エイズ学などの感染症分野、さらに、遺伝子改変マウスの供給など、先端医療に関連した様々な分野で世界に貢献しています。これらを含めて、「国際先端医学研究拠点」を形成しています。
自然科学分野では、4月(1日)にパルスパワー科学研究所を設置いたしました。瞬間的に発生させた巨大なパワーが様々な分野で新しい学術領域を生み出すと期待が寄せられ、世界を先導する教育研究拠点となっています。「先進マグネシウム国際研究センター」で進められている新素材としての
KUMADAI
マグネシウム合金等の分野を含めて、国際的な研究ネットワークも形成され、「国際革新技術研究拠点」となっています。
また、地域の防災への寄与を目指した「減災型社会システム実践研究教育センター」の活動や地域の財産でもある水環境に関して、アジア・アフリカ諸国をはじめとする世界の水環境をマネージメントできるリーダーの育成への寄与も高く評価いただいています。
人文社会分野では、文学部附属の「永青文庫研究センター」で、世界的価値を有する肥後細川家に伝わる貴重な史資料に関する研究が進められています。その一部の史資料については、今年、国の重要文化財としての価値があると認められているところです。他にも数多くの分野で我が国をリードする特色ある研究を実施しています。
これらの研究を支え、また発展させるのも皆様です。
大学院入学の諸君に
特に、大学院に入学される皆様には、これから多くの時間を研究生活に割かれることになります。皆様が日々研究に邁進されるべき理由もはっきりしています。新しい価値や真実を見いだし、それによって、社会の発展に貢献するためです。全ての研究は社会を発展させ、人々に貢献することが使命です。
本学は研究拠点大学ですので、世界を先導する仕事をしていただかなければなりません。今日、世界が解決しなければならない課題は山積です。人文社会科学、自然科学、生命科学等幅広い領域にわたる多くの課題が浮き彫りになっています。本学の教職員とともに、これらの課題を解決していくのもまた皆様自身です。大学院で研究に従事される皆様には、世界で誰もできなかったこと、誰もやらなかったことに挑戦して社会の発展に貢献していただきたいと思います。
優れた研究成果を背景に、健康生命科学に関する分野融合的な新しい国際大学院教育プログラムも始まります。
本学の社会的役割:創造する森、挑戦する炎
本学は、このような教育や研究への取り組みを表す言葉として、新しく「創造する森、挑戦する炎」という言葉を用いることとしました。「学園都市熊本」の地にあって、産業界や行政機関とも連携しながら、本学は、国立総合大学として、地域を代表するオピニオンリーダーやシンクタンクとして、また社会発展のコーデイネーターとしての役割を果たすとともに、地域を国際社会に繋ぐ役割をも果たすことを宣言するものです。その中で、社会の発展を担うことのできる、逞しくて粘り強いリーダーや新しい社会を創りだす担い手を育てることで、「世界の熊本大学」としての役割を果たそうとするものです。
皆様には、これから、我が国はもとより国際社会を舞台に活躍いただかなければなりません。そのためには、日頃から国際的な視野を持ち、国際社会と対話することが求められますので、本学は、教育研究に関する国際交流も活発に行っております。現在では、大学間・部局間の協定を、欧米はもとより、全世界の29か国、140カ所に及ぶ機関と締結し、中国、韓国、インドネシア、トルコなどに7つの海外オフィスあるいは共同研究拠点を構えています。
また、本学には、全世界の45カ国から450名近い留学生が在籍しています。皆様には近い将来、これらの世界の仲間と一緒に世界を舞台に活躍いただきたいと思っています。
新入生の皆様へのエール
式辞の締めくくりとして、新入生の皆様へのエールを送りたいと思います。本日の入学式にあたり、新入生の皆様には、応援の気持ちを込めて、次の3つの心構えを胸に刻んで欲しいと思います。
第一は、皆様は、常に高い志を持って、社会の発展に寄与する社会の財産としての「人財」であることを忘れないでいただきたい。皆様それぞれの存在は社会のためにあります。皆様が社会のために「やれること」をしっかりと進めることで、社会の期待に応えることが重要です。
第二は、逞しく、また、怯まず挑戦し続けることが大切です。挑戦なくして未来を拓くことはできません。何事も挑戦からその一歩が始まります。
第三は、価値や立場の異なる様々な方々と、自分の言葉で語ることのできる「コミュニケーション力」を磨くことです。皆様の活躍する場は世界です。従って、外国語を自在に操ることができることも必要です。
勿論、これらは簡単にできることではありません。この3つの視点から自らを磨くにあたっては、まず、今のありのままの自分を認めるところから出発してください。そしてその先に大きく飛躍する自らを想定して、それに向かって努力をしてください。
未来は皆様自身が創るものです。過去を変えることはできませんが、皆様の将来には無限の可能性があります。
留学生の皆様には、それぞれの専門分野の学術を究めていただくと共に、日本語や熊本そして日本の良い面を是非多く学んでいただき、「くまもと」を母国に紹介していただきたいと思います。留学生の皆様自身が母国と日本の架け橋になってください。
結びに、教職員一同、皆様一人一人を心からの「誇り」として、新入生の皆様の輝かしい未来を共に創っていくことをお約束して、新入学の皆様及び支援者の皆様へのお祝いの式辞といたします。
ご入学おめでとうございます。
平成25年4月4日
熊本大学長 谷口 功
お問い合わせ
経営企画本部 秘書室
096-342-3206