平成24年度熊本大学入学式 式辞

本日ここに、御来賓各位の御臨席を賜り、理事、副学長、部局長、役員、教職員と共に一同に集い、熊本大学第64回入学式を執り行うことができますことを、大変嬉しく思います。学部学生、編入生合わせて1884名、特別支援教育特別専攻科学生20名、養護教諭特別別科学生36名、大学院学生785名,総勢2725名の若き希望に満ちた皆様の一人一人を心から歓迎いたします。この中には16カ国に及ぶ国々からの留学生、55名が含まれています。ようこそ熊本大学へ(Welcome to Kumamoto University).

入学を果たされた皆様のこれまでの日頃の研鑽と努力に心から敬意を表します。また、その志を支えてくださった、保護者の方々、ご家族、ご友人、ご指導いただいた先生方など、数多くのご支援いただいた方々に深く感謝しつつ、支援者の皆様にも心よりお慶び申し上げます。
重ねて、新入生の皆様、入学おめでとう!

東日本大震災から1年、被災された方々に対して心からのお見舞いを申し上げるとともに、残念ながら犠牲になられた方に対し、衷心より哀悼の意を表します。私どもは、新しい仲間の新入生とともに心を一つにして、被災地域の復興に向けて、できる限りの支援を継続させていただきたいと思います。

さて、ご承知のように、最近、大学の「秋入学」が、社会の大きな話題になっています。これは何を意味しているのでしょうか。「秋入学」の言葉自体が踊った面もありましたが、秋入学とは、勿論、単に学期の移動による国際標準化だけの問題ではありません。人材育成の国際化に関する話で教育改革、教育の質の改革の話です。
振り返ってみれば、我が国は、明治5年(学制発布:1872)から大正9年(1920年)の間、高等教育機関は9月入学でした。本学の前身の第五高等学校も秋入学だったのです。それはかつて、我が国の近代化のため高等教育機関が欧米の制度を取り入れ、外国人教員を導入して人材の育成を行ったからです。そのときから1世紀を経た今、新たな国際化時代、グローバル化した社会を迎え、再び国際化した社会の中で教育の質の改革の議論が出てきているということです。この教育改革については、後ほど少し触れます。

○熊本大学の歴史と概要
まず、本学の歴史を少し振り返ってみます。本学は、肥後細川藩が255年余り前に設置(1756年設置)した、日本初の医療施設である再春館・医学校や薬用植物園としての蕃滋園に源を有する熊本医科大学や熊本薬学専門学校に加えて、夏目漱石、ラフカディオ・ハーン等の教授陣を有し、二人の首相や寺田寅彦をはじめ数多くの偉人を輩出した第五高等学校(1887年設置)の他、熊本師範学校、熊本工業専門学校等を前身として1949年(昭和24年)に新制熊本大学となったものです。今年は、折しも、第五高等学校開学125周年でもあります。
現在では、7つの学部とそれに対応する大学院、その他に附属病院、附属図書館、附属学校・園、さらには、研究所、教育、研究センターなど、合せて18の施設を持ち、約1万2千人の学生・生徒と2千人の教職員を擁する我が国を代表する総合大学です。今日まで10万人を優に超える有為の人財を社会に送り出してまいりました。

○熊本大学の理念と目標
今日の大学の社会的使命は、教育、研究と、その成果を通した社会貢献にあります。しかも、これらの使命を国際社会を視野に入れて達成する必要があります。本学は、「我が国を代表する研究拠点大学」としての役割を果たすことを社会に対して約束しているところです。そのために、「アジア諸国はもとより広く海外の諸大学等との人的・文化的交流を通じて、教育・研究の国際性を高め、大学院教育においては、国際社会のリーダーとして活躍できる先導的研究者及び高度専門職業人を養成する。」ことを、また、「学部教育においては、その基礎としての幅広い教養を持ち高度な課題解決能力を有する人材を育成する。」ことを掲げ、「教育・研究活動の成果を活用して、広く地域及び国際社会に貢献する。」ことを約束しています。
ここで、本学の理念・目標に関連して、教育、研究、社会貢献、国際化の4つの取り組みについて少し説明したいと思います。

第一に、まず教育についての方針です。本学は、学生諸君が、社会の担い手として貢献し、また、自らの豊かな将来を設計するために、知識や技術を活用して社会で活躍できるための教育を実施しています。ここで、新入生の皆様には、大学で学ぶにあたって、受け身の学習から脱却して、自ら学ぶということ、すなわち、主体的、能動的に学「修」することを求めます。
先に「秋入学」とは、教育改革の話である事を述べました。20年程前には、我が国は、Japan as number one と言われ、その国際競争力を誇っていました。しかし、急速に社会が変化し、国際化が進んだ今日、求められる人材像は大きく変化しています。その中で、近隣諸外国が力を付け、我が国の相対的な国際競争力が低下したことは否めません。
しかし、勿論、自信を無くすことはありません。私達は、これまで、目標を定め、スケジュールを設定して努力して取り組むことで、何事も見事に成し遂げてきた歴史があります。今日、日本の底力は世界が認めています。皆様が自らを信じて結束して進めば、大震災からの復興を成し遂げ、さらにその先に、新しい我が国や世界を創りだすことができるはずです。
今日のような先が見えない、予測困難な社会と言われる中で、皆様は、どのような状況にも対応して自ら道を切り拓いていかなければなりません。何事にも立ち向かい、前に進む力を身に付けることが必要です。大学は、そのための力をつける場です。本学は責任を持って皆様の力を鍛え、磨いていきたいと思います。
特に、皆様には、社会が、次世代社会を担える人材として育っていただくことを求めています。そのために、しっかりと教養科目を学び、読書をし、さらに、サークル活動やボランティア活動など、課外活動等を通して、チーム力、リーダーとしての資質を磨くなど、多くを学び、身につけていただきたいと思います。その中で、「自らの生き方の規範」としての自己形成に努力いただきたいと思います。
今年も「学長特別講義」として新入生の全ての皆様と直接話をする時間をつくりました。新入生の皆様には4月から7月までの間に、かつて日本の近代化を担った人々が学んだ本学の教室で改めてお目にかかります。

第二に、研究面については、いずれ、各部局でそれぞれの研究成果の話があると思います。本学は、様々な特色ある研究を推進し、また、世界の最先端の研究を進めたいと考え、実行しています。
例えば、発生医学分野では、発生医学研究所が我が国の全国共同利用・共同研究拠点機関としての役割を担っています。エイズ学等の感染症分野、先端医療に関連した様々な分野で世界に貢献しています。
パルスパワー・衝撃エネルギー科学分野なども、グローバルCOEと呼ばれる世界を先導する世界的な教育研究拠点となっています。さらに、遺伝子改変マウス、環境に優しい KUMADAI マグネシウム合金等の分野では、本学が中心になった国際的な研究ネットワークが形成されています。先般、「先進マグネシウム国際研究センター」を設置したところです。また、地域の財産でもある水や水環境に関して、アジア・アフリカ諸国の水環境をマネージメントできるリーダーの育成にも寄与しています。さらに、資源探査や自然エネルギーの活用などについても数多くの実績を積み重ねています。加えて、文学部には附属の「永青文庫研究センター」が設置され、世界的価値を有する肥後細川家に伝わる貴重な史資料に関する研究が進められています。他にも枚挙に暇が無い程の数多くの分野で我が国をリードする特色ある研究を実施しています。

特に、研究に多くの時間を割かれる大学院に入学される皆様には、世界を先導する仕事をしていただきたいと思います。原子力発電所の問題に端を発して、今日、エネルギーを如何に確保するのかについても世界的な議論がなされているところです。人文社会科学、自然科学、生命科学等幅広い領域にわたる多くの課題が浮き彫りになっています。これらの課題を解決していくのもまた学術やサイエンスの力であるはずです。大学院入学の皆様には、学術を極め、その適用によって、知的・文化的・社会的な貢献ができる担い手になっていただきたいと思います。世界で誰もできなかったこと、誰もやらなかったことに挑戦して、新しい学術分野を創り出し、また、社会の発展に貢献していただきたいと思います。
かつて第五高等学校校長であった嘉納治五郎先生の依頼により、学生に対して勝海舟先生が揮毫した言葉が本学に残っています。そこには、「入神致用(にゅうしんちよう)」と書かれています。学問を究め、人格を高め神の境地に入って、はじめて人や社会の役に立つ、大きな働きができる、そのように道を極めなさいという意味です。この言葉は、学術領域を創り出そうとする皆様に、そのまま当てはまると思います。

第三に、本学は、地域の知の拠点としての役割を果たしています。人文社会分野では、地域社会の文化的な拠点として、自然科学分野では、産業界との連携や経済活動の活性化を推進し、また、生命科学分野では、大学病院と共に地域医療や先端的な高度医療を担う役割などを果たしています。さらに、法曹人や教員の養成など、多数の地域社会を支える人財を輩出していることは周知の通りです。
特に、九州新幹線全線開通から1年、この4月から熊本市は政令指定都市として出発しました。我が国では20番目、九州では、福岡、北九州に次いで3番目の政令指定都市ということになりますが、この順番が問題なのではありません。政令指定都市になるということは、熊本が我が国のリーダーとしての役割を果たすということです。我が国の将来に責任を持って明るい将来を導くために、地域の力を充分に活かして役割分担をするということです。本学もこの地域の一員としての責任を果たしたいと思います。「我が国を代表する国際都市くまもと」、また「学園都市熊本」を目指して、産業界や行政機関とも連携しながら、本学は、地域の発展のために大いに貢献しています。

第四に、本学は、国際的に存在感のある大学を目指しています。世界の諸機関との交流を拡大して、「世界の熊本大学」としての使命を果たして参ります。卒業後、皆様には国際社会を舞台に活躍いただかなければなりません。そのためには、皆様には日頃から国際的な視野を持つことが求められます。キャンパスの国際化や留学生の増加は、国際的に活躍できる人材の育成に役立つものです。チャンスを見て留学生を通して世界とのネットワークを拡げることも有効です。勿論、キャンパス内は高度なセキュリテイー管理下での全学をカバーする無線LANが張り巡らされ、24時間、世界と繋がっています。
教育研究に関する国際交流も活発に行っております。皆様が、国際社会で活躍できることを支援すること、また、留学生の人材育成を通して国際貢献することは、我が国の将来にとって極めて重要な意味を持っています。現在では、大学間・部局間の協定を、欧米はもとより全世界の27か国、131カ所の機関と締結し、中国、韓国、インドネシア、トルコなど、海外にオフィスあるいは共同研究拠点等を7ヶ所構えるに至っています。世界に開かれた国際都市の一つである上海には、従来のオフィスを拡大して、この1月に、県、市と共に充実した上海オフィスを開設したところです。また昨年、中国北東部をカバーするために大連にも本学のオフィスを設置しています。
現在、本学には、この3月時点で410名を超える留学生が在籍しています。本日、55名の新しい留学生も仲間に加わりました。できるだけ早い時期に500人とし、将来的には、世界の先端大学の標準である10人に1人が留学生、すなわち、世界の各国から1000人の優秀な留学生が本学で学んでいるという状況を実現したいと思っています。
学生諸君が、国際的な環境の中で学び、また、卒業後、皆様が世界の仲間と世界を舞台に活躍することができる大学でありたいと思っています。

○新入生の皆様へ
本日の入学式にあたり、新入生の皆様には、改めて3つのことを心に刻んで欲しいと思います。
第一は、皆様は、単に社会を構成する一員ではなく、「社会の財産」だということです。従って、人材の材の字には、材料の材ではなく財産の財の文字を充てた社会の「人財」です。これは、皆様が社会から大きな期待をかけられているからに他なりません。皆様は、このことをはっきりと意識して、社会からの負託に応えて、自らの役割を果たすための能力を大学生活の中で充分に養っていただきたいと思います。

第二は、持続的な努力で「予測困難な社会を生き抜く力」を磨いて欲しいということです。深い教養と高度な専門力が社会の諸課題を発見し解決するために必要です。これらを、教えられるという受け身の立場ではなく、自ら学ぶ、学んで身につけるという主体的、能動的な学びの中で身につけ、切磋琢磨して、いかなる事態、状況にも対応できる生き抜く力、生涯学び続ける力を鍛え上げてください。

第三には、国際社会の中で充分な理解を得るための、「コミュニケーション力」を身につけて欲しいということです。国際社会においては、世界的な視野に立って、自分の意見や夢を分かり易く語ることが極めて重要です。そのためには、異なる世代や立場や価値を異にする人々等とも話し合い、また、協力して事を成し遂げるためのコミュニケーション力が必要になります。語学力はもとより、人間としての力を磨くことが必要です。本学には、皆様の海外活動のための支援制度などもあります。海外経験は、我が国の良さを発見し、我が国をより深く理解するために大いに役立つものです。

○まとめ:新入生の皆様へのエール
21世紀は、皆様が創る時代です。皆様が主役です。高い志を持った皆様の将来には無限の可能性があることを忘れないでいただきたい。
新入生の皆様には、熊本大学の学生として「プライド」を持って、個性豊かな学生生活を送られることを期待しています。また、市民の皆様からは「熊大生」として、畏敬の念をもって迎えられ、「憧れの存在」であるように心がけていただきたいと思います。
留学生の皆様には、それぞれの専門分野の学術を究めていただくと共に、日本語や熊本そして日本の良い面を是非多く学んでいただき、「我が国を代表する国際都市KUMAMOTO」を母国に紹介していただきたいと思います。留学生の皆様自身が母国と日本の架け橋になってください。

結びに、教職員一同、新入生の皆様の輝かしい未来を共に創っていくことを重ねてお約束して、新入学の皆様及び支援者の皆様へのお祝いの式辞といたします。

ご入学おめでとうございます。

平成24年4月4日

熊本大学長  谷口 功

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