平成17年度卒業式・修了式式辞

熊本大学長 崎元達郎

皆さん、ご卒業・修了おめでとうございます。

本日、ここに、ご来賓及び名誉教授の諸先生方のご臨席を賜り、副学長・理事・部局長と共に平成17年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。

短期大学部、学部、大学院のそれぞれの課程に必要な年限を本学にて修業され、晴れて本日のこの式典に臨むことができますのは、皆さん自身の努力と研鑽の賜物であり、深く敬意を表します。

中でも病気や経済的理由等の避けられない事情で規定の年限以上に在学せざるを得なかった方々、そして母国の期待を担い、本学での留学を立派にまっと全うされた留学生諸君、あるいは、熊本大学への強い愛着のため規定の年数以上に在学された方々にとっては、感慨もひとしおと推察いたします。

諸君の今日がありますのは、教職員や諸先輩の温かな指導・助言、ご家族や学友の協力と励ましなどの力添えがあったからであることをこの機会に改めて認識していただきたいと思います。

そこで、僭越で押し付けがましいのですが、ここで少しの時間を皆さんに差し上げますので、目を閉じて皆さんがお世話になった人々の顔を思いおこしてください。
どうぞ!〈 10秒間 〉

ありがとうございました。そして、今皆さんが最初に思い浮かべた方々、おそらく学費等の経済的支援を受けたお父様、お母様をはじめとする保護者の方々が多いと思いますが、その方々に、卒業証書・学位記をお見せして、"ありがとうございました"と口に出して、感謝の意を表すことをお願いいたします。

私としましても、これまで皆さんを深い愛情によって支えて下さったご家族をはじめ、惜しみないご指導ご助言をいただいた教職員、諸先輩各位に対し、衷心より深く感謝申し上げます。

「巣立ち」と言いますが、ツバメの様な鳥類のふ化から巣立ちまでの期間は3週間程度であり、その寿命に比べて非常に短いものです。その短い期間に食べること、飛ぶこと、外敵から身を守ることを習い自立するのです。それに比べ人間という動物は、皆さんがそうであった様に人生の約三分の一に当たる20数年の長い間、巣立ちまでの準備をする訳でして、その期間の長さは、人間が営んでいる社会が如何に複雑であり、自立して生きるのが困難かを示しています。そこで、皆さんが巣立って行かれる社会についての二つの側面をとらえ、いかにすれば自らの満足と幸せを築くことができるかについて私なりの考えを述べたいと思います。

現代社会を表現する多くの言葉のうち、ここでは「知識基盤社会」と「地図の無い社会」という二つの言葉を取り挙げてみたいと思います。

「知識基盤社会」とは、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめとする社会のあらゆる領域の活動の基盤として決定的な影響を持つ社会のことであります。この意味では「知」の創造と継承を使命とする大学の存在は以前に増して重要でありますし、皆さんが大学で創造し、また継承した「知」の活用によって、豊かな文化を育むより良き社会の構築、少子高齢化社会における医療と福祉、科学技術による環境問題、エネルギー問題の解決、経済の再建等に貢献していただけるものと期待しています。

もうひとつのキーワード「地図の無い社会」でありますが、変化が激しく未来の予測ができない社会であることを意味しています。変化の激しさを音楽を楽しむ道具の例でみて見ますと、LPというレコード盤から始まって、テープレコーダー、ウォークマン等の磁気テープ、CDプレーヤー、MDプレーヤー、iPodという様に、皆さんが生まれて現在に至る20数年の間に、大きさだけをとっても100分の1以下というふうに急速に変化しています。企業でみれば変化に対応できなければ突然死したり経営不振に陥るという状況が生じている訳ですが、諸君の未来にはさらに激しい変化が待ち受けていることを強く認識する必要があります。組織としても、個人としても、ルール通りに変化の少ない業務をこなしていれば一生安泰という状況は存在しないということであります。

この様な社会に旅立とうとする皆さんは、希望と幾ばくかの自信と共に一抹の不安感を持つのも当然でしょう。しかし、悲観的になってはいけません。現在の社会を前向きにとらえなおせば、努力次第で自己実現できる社会、自分で地図を作れる時代、自分次第で幸せを築くチャンスにあふれているエキサイティングな時代とも見ることができます。この様な「地図の無い社会」を生きて行くのに最も重要なことは、自分のやりたいことや夢、志、すなわち地図における目的地に相当するものをできるだけ早い時期に確定し、持ち続けることであります。なぜなら、夢や志を持つことが行動力の源になりますし、それを達成しようと努力するプロセスが人を幸せにするのも事実であるからです。やりたいことや夢は、社会の表面的変化や価値観の変動に左右されにくいものが望ましいですし、人々の幸せや豊かさにつながるものであればそれが最善です。

目的地までの道は白い地図に自ら描くしかありません。未来の予測ができなければ、方法論としては、その時、その場で最適な解を求めて決めながら進むしかありません。すなわち自分で予見し、構想し、実行して行く能力が必要であります。その様な能力の基礎を皆さんは本学で獲得したはずですが、皆さんが得た知識や技術の有効性は残念ながら10年以下であると考えた方がよいでしょう。

したがって、社会に於ける活動と経験を積み上げる中で、大学で獲得したもうひとつの力である"自ら学習する力、考える力"を発揮して、予見し、構想し、問題を解決する能力に磨きをかけ続けるという「誠実なる努力の持続」が必要であることを自覚し、実行すべきであります。

将来、リーダーや幹部となられる諸君にあっては、変化に対応するに留まらず、変わらないもの、変えるべきでないものを見極めて守り、変えるべきにあっては、変化の方向を定めるという役割を果たす能力が求められるのであります。変化が激しく未来が予測できない「地図の無い社会」であればこそ、その様な能力を持つプロフェッショナルが求められているのです。

もうひとつ大事なことを忘れてはなりません。それは、人間は生身の壊れ易い生き物であるということです。肉体的健康に加えて、心の健康が重要です。絶望から破局へ至ることなく、スランプや窮地に陥った時には自らを慰めるすべを知ること、そして、自分や愛する人々の命より大事なものは無いと言い聞かせて「開きなおり」から再び歩き始める元気を生み出すという脳細胞のプログラムをあらかじめ作成しておくことを勧めます。

さて、熊本大学も先進的研究、基礎的研究、高度先進医療の推進とこれらに裏打ちされた世界水準の教育、研究、診療に組み込まれた人材育成を通じて国際的に存在感を示す大学であり続けるという変わらない目標を設定しつつも厳しい競争的環境の中で必要な変革の為に誠実なる努力を継続いたします。この様な決意を表すために熊本大学の新しいロゴマークを作成しましたのでここで皆さんに紹介いたします。

これは、熊本のKの字の左側の壁に相当する縦の線を取り去った矢印の部分、あるいはひらがなの「く」を図案化したもので、校旗を彩る伝統のスクールカラー、紫紺とうこんで彩色したデザインです。伝統を尊重しながらさらに前進する熊本大学を象徴するコミュニケーションマークとして活用したいと考えています。

もうひとつのお知らせは、諸君に生涯メールアドレスを付与する件であります。皆さんの充実した人生、幸せな人生がそのまま熊本大学の教育力の証となる訳ですし、熊本大学の存在価値を高めることになります。したがって、私共は皆さんの生涯に渡って情報を交換し合って、お互いを高めて行く必要があると考えました。この式の後、学部・学科での証書受け渡しの際に説明がありますので是非アドレスを取得し交流を保っていただくようにお願いいたします。

さて、お知らせをはさみましたので、前半に申し上げたことの印象が薄くなったきらいがありますので、もう一度3つのことにまとめて申し上げます。ひとつは、やりたいこと、夢や志をできるだけ早く確定し、それを実現しようと努力すること、ふたつ目は、夢や志の実現のためにも「心身の健康」を保つすべを知ること、そして最後に、プロフェッショナルとしての「誠実な努力を持続」することであります。これらのことが「地図の無い社会」に諸君なりの輝かしい道を書き込んで行く方策であると考え、はなむけの言葉といたします。

最後に巣立っていかれる皆様の生きる力強さ、元気さを確かめたいと思います。一人ずつのお名前を読み上げて返事をいただきたいところですが、学部等の別に卒業生、修了生の所属と人数を申し上げますので該当する人々は人数を読み上げた直後に"はい"または"オー"と大きく答えてください。声の大きさで諸君の「明るい未来」を確認したいと思います。

【文学部185名】、【教育学部及び専攻科・別科370名】、【法学部217名】、【理学部191名】、【医学部99名】、【薬学部94名】、【工学部590名】、【医療技術短期大学部および専攻科174名】。
【大学院文学研究科】、【教育学研究科】【法学研究科】【医学研究科】【医学教育部】、【薬学教育部】、【自然科学研究科】、【社会文化科学研究科】、【法曹養成研究科】合計743名。

ありがとうございました。以上、総勢【2663名(内、留学生48名)】の皆さん一人一人に対し、熊本大学を代表し、皆さんの前途洋々たる船出を祝します。おめでとう!!そして、Bon Voyage!!

平成18年3月24日


熊本大学長
崎元達郎




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