平成17年度入学式 式辞

熊本大学長 崎元達郎 桜咲く本日ここに、副学長、理事、部局長、教職員各位と共に一同に集い、熊本大学第五十七回入学式を執り行うことができますことは、本学にとりまして大変喜ばしいことであります。大学院学生および諸外国からの留学生を加え、総勢二、八四三名の若き血潮みなぎる皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。また、入学を果たされた皆さんの研鑽と努力に敬意を表し、その志を支えてくださった親御さんや先生方に深く感謝しつつ、心よりお慶び申し上げます。入学おめでとう。

本学は、明治中期以降の高等教育を担ってきた第五高等学校、各種専門学校をその前身とする七学部とぞれぞれの大学院研究科、そして十余の教育研究センターと施設を有する西日本有数の総合大学であり、百有余年の永きにわたり、その教育と研究により日本の文化、科学技術、医療、教育の発展に貢献してきました。

特に、ここ数年においては、学務情報支援システムと全学情報基礎教育の二つのプロジェクトが文部科学省の「特色ある教育プログラム」として選定されていますし、研究面においては、発生医学と衝撃エネルギー科学の分野で世界的教育研究拠点(二十一世紀COEプログラム)に選定されるに至っています。

私ども教職員は、このような伝統と実績を有する熊本大学で教育・研究・医療に従事できることを誇りに思っていますが、皆さんも是非誇りに思い胸を張っていただきたいと思います。

私どもは、皆さんに国際水準の教育を授けることをお約束し、新たな知を創造する研究を諸君と共に行うことを望んでいます。皆さんも、春の桜、初夏の楠若葉、秋の銀杏の黄金色に輝くキャンパスで、豊かな文化を育むために何を成すべきか、今、社会が何を求めているのか、日本の国は如何にあるべきか、そして、世界に何を発信すべきか・・と言ったことに思索を深めて頂きたいと思います。

今、皆さんは、意気揚々と高ぶる気持ちを抑えきれずにいると思いますが、大学に入って何をしようと考えていますか?

大学は、それ自身、人類の幸せに貢献するために存在するのですが、同時に皆さんが〈幸せに生きるための力を養う所〉であります。〈幸せに生きるための力〉とは、夢ややりたいことを実現する力、幸せな状態を実現する力です。その様な〈幸せに生きるための力〉として、私は次の三つのことを在学中に獲得していただきたいと考えています。
その一つは、「専門家として創造的に考える力」であり、二つ目は「生きるための哲学の基礎」、そして、三つ目は「人間力」であります。

「専門家として創造的に考える力」は、専門教育や大学院教育で養われます。我々の前には、新たな文化の創造、二十一世紀の社会共生の知と技法の確立、少子高齢化社会における医療と福祉、環境を重視した科学技術による経済の再構築など解決しなければならない課題や新たな知の発見への夢がたくさんあります。
これらの課題の解決や夢の実現において、その主役となり得るのは、二十一世紀を生きる皆さん以外にはありません。

研究に多くの時間を割かれる大学院に入学された皆さんには、この意味で在学中の具体的な目標を立てることを勧めます。

例えば、世界で初めての考え方や理論の構築、世界初の事実の発見、世界初の現象の解明を目標とすることです。「世界で初めて」と言ってもたじろぐことはありません。論文を書くということはどんなに小さなことでも、世界で初めての部分を含む必要がありますから、皆さんにもできるのです。

万有引力を発見し、法則化したと言われるニュートンも、すべてゼロから自分で成し遂げた訳ではありません。コペルニクスの地動説から始まって、ティコ・ブラーエが生涯をかけて集積した天体観測データ、それを分析することによって得られたケプラーの惑星運動に関する法則等があって初めて万有引力の法則化という偉業が可能になったことは科学史の教える所であります。

このように、自然科学のみならず、人文科学も含めて、科学は人類の営々たる知の蓄積なのです。皆さんはそれを少し又は大きく前に進めることができるのです。

二つ目は、「生きるための哲学の基礎」を作ることです。生きるための哲学を確立することは時間のかかることであり、時に修正が必要かもしれないのですが、人間として、どの様に生きるかという考え方、方針の基礎を作ることは必要でしょう。そのためには、いわゆる教養科目を学ぶこと、読書をすることなどにより、先達の〈生きる哲学〉を知り、自分なりに解釈して、歴史観、世界観、人間観の形成といった生きるための哲学の基礎を身につけることが重要です。

最後の「人間力」にはその意味の説明が必要でしょう。私なりの定義は、判断力、交渉力、心身の健康を維持する力、協調性、国際性、リーダーシップなどであり、抽象的には、人間的逞しさ、優しさ、豊かさも含まれます。これらのそれぞれの能力を養う組織的な方法論は、確立されておらず、カリキュラムでカバーできる部分も限定的であります。言うなれば、生涯にわたる行動や経験の中で養成されるものでもあります。したがって、大学においても、その一部または基礎を得るために、とにかく行動することが必要です。遊ぶこと、クラブ・サークル等の活動をすること、アルバイトやボランティア活動をすること、旅行をすることなどカリキュラム以外の活動を精力的に行うことが「人間力」を養うために皆さんにできることです。

「何でも見てやろう」「何でもしてやろう」という気持ちを持ち続けて行動に移して下さい。行動し、できれば限界状態を数多く経験する中で、他の人の人格を尊重すべきことを学び、また、自分の性格を見つめ、人間としての自分や他者との関係の在り方を追及することもできます。その結果、自分はどのような人間で、何を求めているのか、何がしたいのか、どう生きれば自分で満足する生き方ができるのかを新たに発見することができます。また、皆さんの入学の動機や目的を再確認し、強固なものかつ持続的なものにするという成果も得られるでしょう。

「人間力」の中に「国際性」を挙げましたが「国際性」を養うひとつの方法として、海外旅行を自ら計画して実行することを勧めます。一度国外に出ることで幾ばくかの自信が得られると同時に、いかに自分が日本のことを人に説明できないか、なぜ英語等によるコミュニケーション力が必要か等を、身をもって知る貴重な経験となります。そこで皆さんが国際性を身につけることを支援するために国際活動のための本学独自の奨学金給付制度を今年度から開始しますので、この制度も大いに活用してください。

多くのことを話した様ですが、言いたいことを要約しますと『〈幸せに生きるための力〉として、私が必要と考える三つのこと、すなわち「専門家として創造的に考える力」「生きるための哲学の基礎」そして「人間力」を日々の行動により獲得すべきである』ということです。

国立大学法人熊本大学は、先端的研究、基礎的研究の推進とその成果に基づいた質の高い教育を行う大学として、諸君と共に躍進を続けます。

最後に、皆さんが、合格発表の受験番号を見た時の気持ちや初心を忘れず、志を高く持ち続け、毎日に全力投入して行動し、悔いを残さない充実した学生生活を送られますよう祈念して式辞とします。


熊本大学長
崎元達郎




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