平成15年度卒業式・修了式 式辞

gakuchou[1] 皆さん、ご卒業・修了おめでとうございます。

本日、ここに、ご来賓及び名誉教授の諸先生方のご臨席を賜り、部局長と共に、平成15年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。

医療技術短期大学部、学部、大学院のそれぞれの課程に必要な年限を本学にて修業され、晴れて本日のこの式典に臨むことができますのは、皆さん自身の努力と研鑽の賜物であり、深く敬意を表します。

中でも病気や経済的理由等の避けられない事情で規定の年限以上に在学せざるを得なかった方々、そして母国の期待を担い、本学での留学を立派に全(まっと)うされた留学生諸君、あるいは、熊本大学への強い愛着のため規定の年数以上に在学された方々にとっては、感慨もひとしおと推察いたします。

諸君の今日がありますのは、教職員や先輩諸氏の温かな指導・助言、ご家族や学友の協力と励ましなどの力添えがあったからであることをこの機会に改めて肝に銘じていただき、感謝の気持ちを持っていただきたいと思います。

そこで、僭越で押付けがましいのですが、ここで十秒の時間を皆さんに差し上げますので、目を閉じて皆さんがお世話になった人々の顔を思いおこしてください。
どうぞ!〈10秒間 〉

ありがとうございました。 そして、今皆さんが最初に思い浮かべた方々、おそらく学費等の経済的支援を受けたお父様、お母様をはじめとする保護者の方々が多いと思いますが、その方々に、卒業証書・学位記をお見せして、"ありがとうございました"と口に出して、感謝の意を表すことをお願いいたします。

私としましても、これまで皆さんを深い慈愛によってお支え下さったご家族をはじめ、惜しみないご指導ご助言を給わった教職員、諸先輩各位に対し、衷心より深く感謝申し上げます。

さて、"Boy's be ambitious"の言葉でも有名な札幌農学校のクラーク博士の名前は聞いたことがあると思いますが、そのクラーク博士の薫陶を受けた明治の思想家 内村鑑三の講演に「後世への最大遺物」というのがあります。この講演録は岩波文庫にもなっていますので、皆様も読まれた方があるかも知れませんが、少し紹介したいと思います。 この講演では、普通の人間にとって実践可能な人生の真の生き方とは何か?我々は後世に何を遺してゆけるのか?について語られました。発想の前提は私共が命を得たこの地球、国、社会、郷土にこれらへの愛の証として何かを遺して死んでゆきたいというキリスト教信者としての思いでありますが、私が話したい結論は、皆さんにその思いが今あるか無いかにかかわらず成立するものです。内村は、まず、それを用いて種々の問題解決ができる「お金」を遺すのが良いと言います。自分の子に遺産を残すという意味では無く社会の為に残すということです。日本にはその例は少ないのですが、アメリカのロックフェラー、フォード、スタンフォードなどの名とその財団の功績が思い浮かびます。お金を貯める力を持っていなければどうしたら良いのか。次に「事業」を遺すのが良いと言い、新田の開発のための疎水開削や河川改修などの土木事業やリビングストンによるアフリカ探検などの例を挙げています。これもできなければ、文学、著述又は学校の教師になって自分の考えや思想を残せないかと続けます。そして最後に、金も事業も思想も遺せない普通の人間にとって遺せるものは何か? と問うのです。その答えは、「勇ましい高尚なる生涯」であると言っています。そして、次のように結んでいます「後世に遺すものは何も無くてもアノ人はこの世の中に活きている間は真面目なる生涯を送った人であると言われるだけのことを後世の人に遺したいと思う」。

皆さんに想定される"高尚なる生涯"とは自らが選んだ道において熊本大学で培った力を発揮し、豊かな文化を育むより良き社会の構築、少子高齢化社会における医療と福祉、環境を重視した科学技術による経済の活性化等に貢献することです。・・・・と言っても社会に貢献するということを大上段に考える必要は全くありません。既に皆さんは基本的にそのような道を選ばれていますから自分の為に頑張れば良いのです。皆さんは本学における生活の中で、如何に生きるか自分探しを続けられた方も多いと思います。その結果、選ばれた道において生きる原動力を持って自分の為に全力を尽くされることを期待します。そしてそのことが自分の為だけでなく、愛する家族やその他の人々の為になっていくと信じて下さい。

考えてみますと今日まで、人生の3分の1の永きにわたって、皆さんは、もっぱら愛を受ける側であったと思います。本日のこの巣立ちの日を境として、愛を注ぐ人、与える人になるべく努力して下さい。このことに関して次に申し上げることは"高尚なる生涯"に含まれることですが、特に強調したいと思います。それは授かり得た子どもを全うに育てることです。子どもは未来です。皆さんとその子供たちが21世紀を支えねばなりません。戦後のベビーブームによる人口増が日本の高度成長を支えたのは、歴史的事実でありますし、日本における今後の人口の急減は世界の他の国に比較して特異で危機的なものであります。皆様の子どもを健やかに育てることが21世紀の日本のために非常に重要となることを申し上げておきます。言い換えますと皆さんの遺伝子も皆さんの"後世への最大の遺物"になるということです。

ひとつお願いがあります。ご存知かと思いますが、熊本大学も1週間後の4月1日より、国立大学法人となります。皆さんは法人ではない熊本大学あるいは、戦後スタートした新制国立大学制度の最後の卒業生・修了生となります。法人化後は厳しい競争的環境に置かれること以外には、大学の本質や使命は変わりませんが、国立大学法人"熊本大学"の充実と発展は、教職員の決意と努力だけで成し遂げられるものではなく、皆さんを含む卒業生・修了生のご理解とご支援が是非必要であると考えております。どうぞ、同窓会活動に参加したり、機会あるごとに研究室の先生を訪ねていただくなど、可能な限り大学とつながりを保っていただくことをお願いいたします。

以上まとめて申し上げますと、自分自身、家族、友人、その他の人々、世界の人々そして、社会や自然への愛を力にして、高い志を持続し、その実現を果たし、"死を迎えた時に納得し、満足できるような充実した人生"を歩まれ、"後世への最大遺物"を遺していただくよう期待しています。

最後に巣立っていかれる皆様の生きる力強さ、元気さを確かめたいと思います。本来なら一人ずつのお名前を読み上げたいところですが、卒業生、修了生の所属と人数を申し上げますので該当する人々は読み上げた直後に"はい"と大きく答えてください。声の大きさで諸君の「明るい将来」を確認したいと思います。

文学部200名、教育学部及び専攻科・別科385名、法学部235名、理学部194名、医学部105名、薬学部93名、工学部635名、医療技術短期大学部および専攻科179名。

大学院文学研究科・教育学研究科・法学研究科・医学研究科修士/博士課程・薬学研究科博士前期/後期課程・自然科学研究科博士前期/後期課程・社会文化科学研究科合計669名。

ありがとうございました。以上、総勢【2,695名(内、留学生47名)】の皆さん一人一人に対し、熊本大学を代表し、皆さんの前途洋々たる船出を祝う言葉として贈ります。おめでとう!!

熊本大学学長
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