令和7年度卒業式・修了式 学長 式辞

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卒業生、修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。春の訪れを告げるかのように、キャンパスの桜も咲き始め、希望に満ちた季節を迎えました。このような佳き日に、来賓各位の御臨席を賜り、部局長並びに教職員の皆様とともに、令和7年度熊本大学卒業式・修了式を挙行し、学部・大学院を合わせて計2,458名の諸君を送り出すことができることを心から嬉しく思います。

皆さんは、本学において勉学を修め、新たな人生の一歩を踏み出されます。大学生活では、思い通りにいかないことや、不安や迷いを感じたこともあったでしょう。それでも、自ら考え、学び続け、今日の日を迎えられましたことに、深い敬意を表するとともに、心からお祝い申し上げます。また、これまで皆さんを温かく支えてこられたご家族、導いてくださった恩師、そして共に学び成長してきた友人や先輩・後輩の諸君に、皆さんとともに深く感謝申し上げます。

 

皆さんが熊本大学で学ばれたこの数年間、世界は大きな変化の中にありました。国際社会においては、既存の国際秩序の揺らぎ、気候変動の進行や経済格差拡大等により社会的な不安が増しています。また、生成AI等の技術の進展は、学術や私たちの知的活動へ大きな影響を与えています。このような中で日本は、平和と安定を重んじる国として、科学技術や教育、人材育成を通じて国際社会に貢献することが期待されています。

 

国内に目を向けると、私たちの生活や企業活動が国際社会からの影響を大きく受けるとともに、少子高齢化や人口減少、都市部への集中と地方の衰退が加速するなど、社会構造そのものが大きく変化しています。こうした状況下にあって、国立大学には、単に知識を伝える場である場にとどまらず、社会変革をもたらすイノベーションを創出し、次世代を担う人材を育成する中核的存在としての役割が強く求められています。

 

熊本大学は、このような社会の要請に応えるため、「地域と世界に開かれ、共創を通じて社会に貢献する教育研究拠点大学」というビジョンを掲げ、絶えず変革を続けています。2023年4月には「半導体・デジタル研究教育機構」、2024年4月には大学創設以来75年ぶりの新学部相当組織である「情報融合学環」、そして本年4月の「共創学環」といった組織の設置は、大学の未来を切り拓く新たな取り組みです。さらに、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択され、半導体実装から社会共創研究を通じて、地域イノベーションの実現と持続可能な産業都市構築を目指していきます。

 

ここで、これから様々な分野に進まれる皆さんに、私から三つの言葉を贈りたいと思います。

 

一つ目は、「逆境の中での強さ」です。これからの人生は、決して平坦な道ばかりではありません。思い通りにいかないことや壁にぶつかること、心が折れそうになることもあります。そのようなときこそ、一度立ち止まり、冷静に考え、最後は自分で決断し、再び一歩を踏み出す力を持ってください。困難に直面しても、前を向いて進み続けることが、皆さん自身を大きく成長させます。

二つ目は、「人を大切にする心」です。社会に出ると、皆さんは多くの人と出会い、さまざまな経験を重ねていきます。良い仕事は、決して一人だけで成し遂げられるものではありません。多くの人が力を合わせることで、より大きな成果が生まれます。私は、これからの時代に最も求められる力は、「何を知っているか」よりも、「誰と、どのように力を合わせられるか」だと考えています。そのためには、自分だけでなく、相手にとっても良い結果となるよう考え、行動することが大切です。近年は「共創(コ・クリエーション)」という言葉が使われていますが、立場や考え方の異なる人々が協力し合い、新しい価値を生み出すことが求められています。皆さんも熊本大学で、学部や年齢、国や地域の違いを超えて仲間と力を合わせ、何かを成し遂げた経験があると思います。その経験は、これからの人生において大きな財産となり、皆さんを支える力になるはずです。

三つ目は、「熊本大学出身であるという誇り」です。熊本大学は、長い歴史と伝統を有するとともに、さらなる発展に向けて挑戦を続けている大学です。皆さんは、その一員として学び、成長してこられました。この誇りを胸に、母校とのつながりを大切にしながら、それぞれの分野で活躍されることを期待しています。

 

本学黒髪キャンパスに建つ五高記念館をはじめとする歴史ある建造物は、長い年月にわたり多くの学生を見守ってきました。社会の荒波に疲れたときには、ぜひ母校に訪れ、学生時代の原点に立ち返ってください。熊本大学は、いつでも皆さんの帰る場所です。

 

熊本大学の前身の一つである旧制第五高等学校は、「剛毅朴訥(ごうきぼくとつ)」の校風で知られています。そこで教鞭を執ったラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は次の言葉を残しています。

The future of greatness of Japan will depend on the preservation of that Kyushu or Kumamoto spirit, the love of what is plain and good and simple, and the hatred of useless luxury and extravagance in life.

 

この言葉は本学構内の石碑にも記されていますが、和訳すると、次のようになります。

「日本の将来は無益な贅沢(ぜいたく)華美(かび)を捨て、質実、簡素、善良を愛する九州魂、熊本魂の維持如何(いかん)にかかっている。」

 今後も社会は加速度的に変化していくと予想されますが、熊本大学で学んだ皆さんには、ハーンの言葉にある「熊本スピリット」を心にとどめていただきたいと思います。

 

私自身の経験についても少しお話しします。私は1978年に熊本大学を卒業し、その後、さまざまな職場で仕事をしてきました。そして、どの職場にあっても「ここで再び働く機会はないかもしれない」と考え、その時々に最善を尽くしてきました。

新しい環境に身を置くたびに、課題や困難に直面することもありました。しかしそのたびに、状況をよく見極め、スピード感を持って決断し、行動に移すことを大切にしてきました。その積み重ねを通して、多くの学びと経験を得ることができたと感じています。

 

このような歩みの中で、私が実感してきたのが「行動することの大切さ」です。物事は、考えているだけでは前に進みません。思い悩み立ち止まることがあっても、まず一歩を踏み出すことで状況は動き始めます。そして振り返ってみると、結果というものは、行動の後からついてくるものだと感じています。

知識は、行動して初めて価値を持ちます。大学で身につけた知識や経験も、それを社会の中で生かしてこそ意味を持ちます。どうか皆さんも勇気を持って最初の一歩を踏み出してください。

 

皆さんのこれからの人生には、挑戦すべきさまざまな課題が待ち受けています。熊本大学で培った知識と経験、そして本学のコミュニケーションワードである「創造する森 挑戦する炎」を胸に、自信を持って未来へ進んでください。自らの可能性を信じ、挑戦を重ねながら、それぞれの道を力強く歩んでいかれることを期待しています。

 

皆さん一人ひとりの前途が希望に満ちたものとなることを心より祈念し、私からのはなむけの言葉といたします。

 

 

令和8年3月25日

熊本大学長 小川久雄

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