第14代熊本大学長就任のご挨拶

14代熊本大学学長就任のご挨拶  

★DSC_5930s.jpg  

 熊本大学第14代学長として就任いたしました小川久雄でございます。よろしくお願いいたします。熊本大学は長い歴史と素晴らしい伝統を持った大学で、1887年に設立された第五高等中学校(五高)から数えて135年、1949年に五高など6つの官立学校を統合した国立熊本大学の発足から数えて73年の歴史ある総合大学です。学長就任にあたり、私の簡単な自己紹介と学長としての決意を述べさせていただきます。私は1978年に熊本大学を卒業いたしました。熊本大学、天草、大阪、八代と様々な地で勤務いたしましたが、一番長く勤務させていただいたのが、熊本大学で31年間勤めました。そして最近5年間は大阪の国立循環器病研究センターの理事長として、熊本を離れ外から母校熊本大学を見てまいりました。2016年の熊本地震、2020年の熊本豪雨災害、さらには新型コロナウイルス感染拡大と多難な時期にありながら、熊本大学は教育・研究をはじめ、大学改革に多大な成果を上げてきましたが、その一方、教員ポスト削減やそれに伴う人事の凍結、十分とは言えない運営費などで学内に閉塞感もある状況を感じとりました。若手教員が活き活きと研究や教育に打ち込める環境を作り、その上で長い歴史と伝統を誇る母校が更に発展するために、全身全霊で貢献したいという思いに駆られております。

 国立大学法人は20044月の法人化以降、3期にわたる中期目標期間を経て、改革を続けており、2022年度から第4期となる中期目標期間を迎えます。2019年末から始まった新型コロナウイルス感染拡大により急速に変容していく社会情勢の中、さらに2032年には18歳人口が100万人を割ると予測される超少子化の時代を迎えて、今後数年間は大学の存在意義や真価が問われる時であると思います。さらに、地球規模でデジタルイノベーションが急速に進んでおり、またニューノーマルが常態化する時代が到来しています。このような大学を取り巻く環境の中で、熊本大学は従来の大学経営や教育研究政策を社会のニーズや現状に即して大きく転換し、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献しなければなりません。

 大学は今、如何に教育、研究、社会貢献の活動を活性化させ、未来に向かって進んでいくかが問われています。地域、社会そして世界に開かれ、それぞれのステークホルダー、多くの大学、研究機関等と協働して共に新たな価値を創造する、すなわち「共創」により、教育・研究やオープンイノベーションを推進することが重要です。

 私は大学ではもちろんのこと、人間社会で一番大事なものは教育であると確信しております。学内では、多様な人材を登用し、学長の強力なガバナンスの下、全教職員が組織・部局の垣根を越えたOne Teamとしてよりよい大学教育のための大学改革を推進しなければなりません。新型コロナウイルス感染症は社会に大きなダメージを与えましたが、世界中で遠隔授業が推進されました。遠隔授業のメリットは熊本に居ながら世界中の優れた授業が受けられるという事です。海外の大学などと学部教育の遠隔授業に関する連携協定を締結し、学部教育のグローバル化を推進することも可能になります。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代を迎えて、全学生がデジタルサイエンス、数理・データサイエンス並びに国際対話のリテラシーを身につけるような教育を行うことにより、文系・理系を問わずDX時代に対応し新しい価値を創造できる人材を育成するとともに、学内のDX化を推進することにより経営の効率化を図っていきます。

 研究面では、研究拠点大学として先端研究に磨きをかけるとともに、熊本大学で継承・発展してきた研究の支援体制の強化や潜在的な可能性がある研究分野の掘り起こしと育成に取り組みます。研究の推進には、研究費の獲得が必須です。国の大型研究費の事業は、各省庁の施策をもとにつくられますが、このような情報をいち早く入手するということは、国立大学の生き残りをかけた次の第4期では重要になってきます。また、常にアンテナを張り情報を素早く入手する組織の構築も重要です。しかし、一番重要なのは教職員一人一人が自分で積極的に研究費確保に努力する事です。その一番は科学研究費補助金(科研費)獲得です。熊本大学は昨年の採択件数で全国国立大学の中で17位ですが、全員が努力すればベスト10も夢ではありません。その証拠に文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)2020年度から公募を始めた「創発的研究支援事業」の採択件数では全国8位で、採択率は公表されている上位10大学の中で最も高いのです。要するに応募件数が少ないとも言えます。とにかく研究費に積極的に応募するような姿勢を身に着けて頂きたいと思います。

 社会貢献で重要な産学、地域連携では、とにかく学長のトップセールスで外部資金、寄附金を大幅に増加させます。本学における寄附金は,2014年度をピークに減少傾向にあります。国立循環器病研究センターでも、自らのトップセールスで、医療関係はもちろん、通信技術やセキュティ関連企業から多額の共同研究費を集めました。また、大阪では産学官連携で「北大阪健康医療都市(健都)」と呼ばれる国立循環器病研究センターを核とした予防医療による健康医療の街づくりを行ってきました。熊本でもこのような街づくりを産学官連携で行っていけたらと考えています。

 水と森の自然に囲まれた熊本大学は、キャンパス内に4つの国指定重要文化財や肥後熊本藩主であった細川家ゆかりの古文書などの歴史資料を所有・管理しており、歴史・文化的価値が高い建造物、資料が多く存在します。2016年熊本地震の発生から5年が経とうとしておりますが、被害を受けた重要文化財である五高記念館などの3施設は2021年末で復旧予定です。そこで五高記念館や永青文庫研究センターなどを中心としたユニバーシティ・ミュージアムを整備し、多くの観光客が訪れるキャンパスにしたいと思います。自然と歴史に満たされた熊本大学を一大キャンパス・ミュージアム化し、地域だけでなく海外にも開放・開示することにより、世界の人々の歴史、文化・伝統の理解と学習に貢献し、世界の教育・文化の発展に寄与したいと思います。

 大学経営や教育・研究などについて「常に情報を発信し続ける大学」、「常に外から見える大学」、「常に外からの声に耳を傾け、発展し続ける大学」を目指していきます。そして「共創」を通じて社会に貢献する教育研究拠点大学となるために、本学のコミュニケーションワードである「創造する森」を「挑戦する炎」となって邁進します。

 母校の発展のために、誠心誠意尽くす所存でありますので、どうかよろしくお願い申し上げます。

202141

14代熊本大学学長

小川久雄