令和2年度卒業生・修了生の皆さんへ(令和2年度熊本大学卒業式・修了式 式辞)

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 卒業生、修了生の皆さんおめでとうございます。

 本日、ここに、部局長、並びに教職員の皆様と共に令和2年度の卒業式・修了式を挙行し、合計2,375名の諸君を送り出すことができますのは、熊本大学にとって大きな慶びであります。ただ残念ながら、昨今の新型コロナウイルス感染拡大とその防止のため、各部局から代表の参加者のみで開催せざるを得なくなった事は断腸の思いであります。

 皆さん方は、今日熊本大学での勉学を終え、一生の中でも最も記念すべき門出の日を迎えられました。卒業や入学には晴れやかさや歓びがつきものですが、数年前に入学された時とは、また違ったものだろうと思います。それは、皆さん方が、昨年からの新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で遠隔授業や様々な行動制限を伴った困難な生活を通して、この数年間の大学生活の中で大きく成長されたからだと思います。それらを乗り越え、一生の中でも記念すべき今日の日を迎えられました。敬意を表するとともに、改めて心からお祝い申し上げます。また、この様な環境の中で、皆さん方をずっと支え励ましてくれたご家族をはじめ、恩師、友人、先輩、後輩など周りの全ての方々に対し、皆さんと一緒に、改めて感謝とお礼を申し上げたいと思います。

 諸君が熊本大学で学んだこの数年間、日本だけでなく世界は激しく変動して来ました。しかし、これからも更に大きく変わる事でしょう。特にポストコロナに向けた社会の変革に対しては大きな関心を持ち、それに対処していかねばなりません。これから皆さんがどのような分野に進まれようとも、皆さんが関わる社会は将来的に三つの大きな共通的課題を抱えていると思います。一つは、熊本だけでなく世界各地で起きている地震や活火山活動を考えると、地球は活動期に入っているということです。気候変動によるスーパー台風や大雨・洪水、大雪など、大きな災害に見舞われる確率が非常に高くなっています。二つ目は、文明や宗教の衝突に加えグローバル化の反動で反グローバル、ローカリズムが台頭してきていることです。イギリスのEU離脱(ブレクジット)やトランプ前大統領のアメリカ第一主義がその代表です。三つ目に、コンピューターや人工知能(AI)の発達とその社会生活への応用が大きな社会変動をもたらしていることです。今回の新型コロナウイルスのパンデミック感染を機会に、あらゆる分野でDX(デジタル トランスフォーメーション)の必要性が盛んに唱えられています。これらに対し、我々はどのように対処すべきでしょうか?

 主に工学の分野でデザイン思考という考え方があります。問題解決のための設計をし、製作、販売戦略までを一体的に美的に行うことですが、基本的にデザインと言うものが「具体的な問題解決のため思考・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体で表現する」を意味することから敷衍したものだと思います。必ずしも答えが一つでない課題に対して、様々な知識・技術の集積を応用し、実現可能な解を見つけ出していく、いわゆる「デザイン能力」が、皆さんにはこれから特に要求されます。これは、正にAIやコンピューターではできないことです。具体的には①材料的な人工物を新たに生み出す知的活動、②治療だけでなく病気を持った患者様のための救済策、③会社・企業等での新しい革新的な販売計画、④国家のための社会福祉政策の考察・起案などが含まれると言われます。これらの「デザイン能力」は将来の新たな脅威的感染症のパンデミック防止を考える上でも非常に重要となってきます。

 新型コロナウイルスの様に新しい新興ウイルス感染症が急速に拡散する要因は、人と人が密な状態で存在する事、人の流れが早い状態である事だとされています。従って、大都市でしかも交通手段が発達したところでいち早く感染爆発という現象が起こります。これを防ぐため、在宅勤務、遠隔授業、移動や就業の制限などの政策が行われて来ました。しかし、将来的に新たな病原体の感染爆発を必要最小限に抑えるためには、まず人口の分散が必要となります。つまり、地方の活性化がこれから最重要な課題となると思います。安心で安全な地方都市を作り、遠隔の地での在宅でも中央へ十分な勤務ができる事、教育の面でも遠隔学習ができる等、DX革命に「デザイン能力」を組み合わせた力が必要となります。その様な機能的な都市作りに、これから皆さんの力が必要となるでしょう。

大学で培った知識をもとに大胆な発想を呼び起こす叡智を最大限に発揮してください。そのためには、自由な発想・創造とそれを具現化する情熱が必要です。正に、我々が掲げている「創造する森 挑戦する炎」の始まりであります。

 

 熊本大学がさらに発展するための原動力は、熊本大学に学び、熊本大学を愛される方々の世代を超えた絆の中にあると思います。母校の伝統の担い手として、「剛毅木訥」と共に「創造する森 挑戦する炎」を胸に、積極的に母校のために力を寄せてください。熊本大学で学んだことに誇りと自信を持って、これからの人生を希望に満ち溢れ、力強く歩んでください。

 今後の皆様のご健闘を祈りつつ、卒業・修了に際しての心からの祝辞といたします。

 

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                    熊本大学長 原田信志

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