平成30年度熊本大学卒業式・修了式 式辞

20190325.jpg

 卒業生、修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。

 本日、ここに、ご来賓各位のご臨席を賜り、理事、副学長、部局長、並びに教職員とともに平成30年度の卒業式・修了式を挙行し、2,443名の諸君を送り出すことができますことは、熊本大学にとって大きな慶びであります。

 皆さんは、熊本大学での勉学を終え、輝かしい門出の日を迎えられました。今、皆さんの心の中には在学中の様々な思い出が浮かんでいることと思います。例えば、三年前の熊本地震、皆さんにとっても、私たちにとっても、非常に苦しい試練ではありましたが、一方では大変貴重な経験でもありました。

 また、先生や友人との触れ合い、クラブ活動、或いは学外でのボランティア活動など、学内外での多くの人々との交流は、全て皆さんの成長のためには、かけがえのないものであり、これからの人生に大きな影響を与えるに違いありません。その意味で、皆さん一人ひとりが生まれてから今日に至るまで、ずっと支え続け、励まし続けてくれたご家族をはじめ、恩師、友人、先輩や後輩など全ての方々に対しても、改めて感謝とお礼を申し上げたいと思います。

 さて、皆さんが熊本大学で学んだこの数年間、日本だけでなく世界は激しく揺れ動いています。そして、これからも更に大きく変化していくでしょう。文明や宗教の衝突に加えグローバル化の反動によって反グローバル化やローカリズムも台頭してきていますが、そのような政治力学的問題は別として、当面の社会問題として四つが挙げられると思います。

 一つ目は、自然災害です。熊本だけでなく日本全国、世界各地で起きている地震や火山活動、気候変動によるスーパー台風や大雨、大雪など、深刻な被害をもたらす災害に遭う確率が非常に高くなっています。

 二つ目は、少子高齢化の問題です。我が国のみならず、世界最大の人口を抱える中国や隣国の韓国などでも、深刻な問題となっています。 三つ目に、エネルギーと環境問題があります。今の豊かな社会は、石炭や石油など化石燃料をエネルギー源として発展してきましたが、それらは有限であり、また、長年にわたる消費は、地球的な規模で環境悪化を招いています。

 四つ目は、情報と人工知能(AI)の発展、すなわち、その一般生活への応用が、大きな社会変動をもたらす可能性があるということです。
これらの問題に対し、私たちはどのように対処すべきでしょうか?私は「創造する森 挑戦する炎」を学んだ皆さんは、これらの問題に直面した時、潜在する幅広い知力を十分に発揮できる人材であると心から確信しています。

 最近、ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス」と「ホモ・デウス」という本が、ベストセラーになっています。人間は、これまで飢饉、疫病、戦争を克服するため戦ってきた。現代風に言い換えれば、飢饉は、貧富の差や差別でしょう。また、疫病には、癌や成人病も含めることができます。これら三つを、将来人間は克服することができるでしょうか?

 数年という単位であれば、中東の紛争や、ヨーロッパ等の難民、世界及び中国経済の減速に焦点を当てればいい。何十年という単位であれば、地球温暖化、格差や差別の問題を考えればいい。しかしながら、生命という壮大な視点に立てば、「今すぐにでも、人工知能(AI)を始めとした情報処理について議論しなければならない」と述べています。つまり、生命はデータ処理、アルゴリズムで説明できるか?ということで、この答えは「ノー」でしょう。なぜなら、生命を持つ人間にとって、現在のところ知識と意識の分離は不可能だからです。しかし、同時に、意識を持たない高度な知能を備えたアルゴリズム(AI)が人間よりも人間のことを知りえるようになるでしょうか?言い換えれば、AIが人間の未来を考え、決めることができるようになるでしょうか?という疑問であり、これには賛否両論あるところです。 

 意識と知識、私は、意識が知識より上位にあると思います。意識とは何か?ハラリは「科学の高度な進歩は少なくとも一部の神話と宗教をかつてない程強力にする」と言い、「人間はホモ・サピエンス(知の人)からホモ・デウス(神の人)へと進化するだろう」と言っています。完全に賛同するものではありませんが、人間はますます所謂【哲学】が必要になるであろうと思います。「哲学:フィロソフィーphilosophy」のそもそもの意味は「愛知」、知を愛すること、知の追求であり、人間とは何か、生命とは何か、神とは何か、植物は、動物は、宇宙は、などあらゆることを追い求める学問です。そこにはcuriosity好奇心が求められます。この好奇心さえあれば人間はAIに勝ることができると思います。なぜなら、意識のないAIは好奇心を持ちようが無いからです。

 もし、AIが更に活用されれば、生活が便利になる代わりに、益々多くの仕事がなくなる可能性も指摘されています。私たちは将来、AIを開発し使いこなす側に立たねばなりません。AIに使われるようなことがあってはならないと思います。また、様々な分野でAIやコンピューターでできない方向性を打ち出し、生き残らなければなりません。それには好奇心が必要です。そのためには、教養も備わっていなければなりません。教養は、生涯を通じて身につけていくものです。

 「ローマ人の物語」や「ギリシャ人の物語」を書いた塩野七生は「理論的に言えばウィキペディアとAIと組み合わせればローマ史もギリシャ史も書けるかもしれません。しかし、実際は書けないでしょう。と言うのは、ある資料をどう読み込み、解釈するかというのは、やっぱり書く人間次第なんです。」と言っています。

 熊本大学で培った知識をもとに大胆な発想を呼び起こす叡智を最大限に発揮してください。そのためには、自由な発想と創造、それを具現化する情熱と好奇心が必要です。正に、私たちが掲げている「創造する森 挑戦する炎」です。

 熊本大学が更に発展するための原動力は、熊本大学に学び、熊本大学を愛する方々の世代を超えた絆にあると思います。母校の伝統の担い手として、「創造する森 挑戦する炎」を胸に、積極的に母校のために力を寄せてください。熊本大学で学んだことに誇りと自信を持って、これからの人生を力強く歩んでください。

 今後の皆様のご健闘を祈りつつ、卒業・修了に際しての心からの祝辞といたします。

平成31年3月25日
  熊本大学長 原田信志

  20190325-2.jpg  20190325-1.jpg

 

お問い合わせ

経営企画本部 秘書室

096-342-3206