平成30年度熊本大学入学式 式辞

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入学生諸君おめでとうございます。本日ここにご来賓各位のご臨席を賜り、理事、部局長、教職員と共に熊本大学第70回入学式を挙行し、学部学生や大学院学生など総勢2,596名の溌剌とした諸君をお迎えできたことは、熊本大学にとって大きな慶びであります。
私ども大学構成員一同、諸君を心から歓迎するとともに、若さ溢れるエネルギーによって大学に新しい風を吹き込んでくれることを期待しています。
諸君が今日という晴れやかな日を迎えられたのは、自らの努力によることは言うまでもありませんが、今日に至るまで諸君を支え励ましてくれたご家族や、恩師、先輩、友人の方々のお蔭でもあり、これらの方々に対しても皆さんと一緒に感謝申し上げたいと思います。

諸君がこれから学ぼうとする熊本大学は長い歴史と素晴らしい伝統を持った大学です。文学部、法学部及び理学部は、旧制第五高等学校、教育学部は師範学校、工学部、薬学部はそれぞれ専門学校、医学部は医科大学を母体として、昭和24年(1949年)に新しい制度の下に総合大学として発足しました。従って、本日の入学式が記念すべき70回目となります。現在までに12万人以上の卒業生を送り出しています。母体の一つであった第五高等学校の校舎は国の重要文化財に指定されており、黒髪キャンパス内にありますが、残念ながら二年前の熊本地震で大きな被害を受けました。その第五高等学校の創成期には講道館柔道の創始者である嘉納治五郎が校長を務め、文学者でもあるラフカデイオ・ハーンや夏目漱石なども英語の教師として教鞭をとりました。

先ほど述べましたように二年前、熊本は二度にわたる大地震に見舞われました。学内外の被害は大きく、発災後約一ヶ月間休講とせざるを得ませんでした。しかし、多くの方々の温かいご支援を受け、今はほとんどの施設と設備が復旧し、学生も元気に勉学に励んでいます。また、被災した学生への授業料免除や奨学金給付制度なども整備することができました。ただ、建て替えが必要な工学部一号館は今年度末まで、また、五高記念館などの重要文化財は平成33年度までに修理、修復される予定です。

熊本地震の経験で、何よりも我々を力づけてくれたのは、学生のボランティア活動であり、多くの学生が復学後、極めて積極的に学業やクラブ活動に力を注いだことです。困難を前に、それを解決すべく行動する若者のエネルギーは本当に素晴らしいものであると感じました。これこそが我々が目指す大学教育の原型であると思います。

そこで大学の教育とは一体どのようなものなのでしょうか?高校までの教育とどこが違うのでしょうか?現在の大学教育の批判の一つに、大学生が家でほとんど勉強しないこと、大学生が本を読まないことが度々挙げられます。大学は、学生にどんな教育をしているのかと言う批判です。スマートフォンに熱中する若者を批判する人もいます。私は、文明の利器は、特に若い人ほど使いこなす必要があると思います。しかし、その反面、読書という貴重な人間の行為を失ってはいけません。

大学の基本は人材育成であり、そのために研究を進め、それを基にした教育を行っています。研究は新しいものの発見であり、新しい考え方の創造でもあります。従って、それを基にした教育には回答はありません。新しいものを見つける、その見つけ方を教えるのであり、学生はその見つけ方を学ぶのです。それが大学教育の基本です。おそらくこれまで皆さん方が受けてきた教育は、すでに確立され、そして集積された知識の学習であったろうと思いますし、この点が大学での教育と大きく異なるところです。

大学では、多くの場合、読書と同じように自主性を重んじた勉学が求められます。自分が学びたいと思う科目を選択する必要があります。また、問題を設定し、それを解決する方策を学び、考えるという極めて能動的な学習が求められます。その実践例が災害の時に自主的に活躍した学生のボランティア活動です。このように、単に知識を受けるだけでなく、目的意識を持って能動的に「学問をする」ことが大切です。何事にも興味を持ち、あらゆる事に疑問を抱く、これもまた「学問をする」原動力となります。

現在の日本は、少子高齢化による人口減少、膨大な財政赤字、社会保障制度の破綻の可能性など深刻な国家的課題を抱え込んでいます。これらの問題を前に、大学は自己改革とともに幾つかの課題を突き付けられています。熊本大学は研究拠点大学として、地域に貢献する大学として、また、国際化した大学として、有為な人材を育成していくことを目指しています。熊本大学は、その伝統を守り、多くの文化に理解を示し、国内外の様々な問題に関心を持ち、それらの問題の解決能力と自分の考えを説明する能力を備えた人材を養成することを目指しています。そのための教育戦略として、「旧制五高以来の剛毅木訥の気風を受け継ぎ、“Global Thinking and Local Action”できる人材育成」を掲げました。また、熊大スピリットを伝える言葉として、本学が掲げているコミュニケーションワード「創造する森 挑戦する炎」が意図するところはここにあります。

さあ、皆さんと一緒に学問をしましょう。そして「創造する森 挑戦する炎」を胸に、新しい熊本大学、新しい生き生きとした熊本を作って行こうではありませんか。

本日は、熊本大学へのご入学、誠におめでとうございます。

平成30年4月4日
熊本大学長 原田 信志

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