平成28年度熊本大学入学式 式辞

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入学生諸君おめでとうございます。本日ここに御来賓の方々及び理事、各部局長、教職員と共に、熊本大学第68回入学式を挙行し、学部学生や大学院学生など総勢2,662名の溌剌とした諸君をお迎えできたことは、熊本大学にとって大きな慶びであります。私ども大学構成員一同、諸君を心から歓迎するとともに、若さ溢れるエネルギーによって大学に新しい風を吹き込んで頂くことを大いに期待します。
諸君が今日という晴れやかな日を迎えられたのは、自らの努力によることは言うまでもありませんが、今日に至るまで諸君を支え励ましてくれたご家族や、恩師、先輩、友人の方々のお蔭でもあり、これらの方々に対しても皆さんと一緒に感謝申し上げたいと思います。

諸君がこれから学ぼうとする熊本大学は長い歴史と素晴らしい伝統を持った大学です。文学部、法学部及び理学部は、旧制第五高等学校、教育学部は師範学校、工学部、薬学部はそれぞれ専門学校、医学部は医科大学を母体として、昭和24年(1949年)に新しい制度の下に総合大学として発足しました。現在まで12万人以上の卒業生を送り出しています。母体の一つである第五高等学校は現在の黒髪キャンパスにあり、その創成期には講道館柔道の創始者でもある嘉納治五郎が校長を務め、文学者でもあるラフカデイオ・ハーンや夏目漱石なども英語の教師として教鞭を執りました。今年は漱石来熊120年、没後100年にあたります。こうした優れた方々の残したものが、現在、黒髪キャンパスにある五高記念館に保存されておりますので、機会を作ってご覧になり、熊本大学の歴史の一端に触れていただきたいと思います。

夏目漱石が熊本に来たのは、第五高等学校の英語の教師として来たのであり、その意味で、漱石来熊120年は熊本大学では特別な意味があると考えています。五高記念館では記念誌「五高と漱石」を作成しました。漱石の4年3ヶ月に及ぶ熊本時代、漱石は何を考え、どのような教師・教官であったのか、学生への教育はどうであったのかを知ることは、現在の我々教職員、学生にとっても非常に重要だと思います。
「草枕」や「二百十日」は熊本時代の経験を基にした小説として有名ですが、漱石が熊本時代に発表したものは約千首もの俳句と5つの文章しかありません。明治29年(1896年)10月、即ち漱石が熊本へ赴任してきた年の10月、五高の校友会雑誌『龍南会雑誌』に「人生」を発表、翌年3月『江湖文学』に「トリストラム・シャンデー」を発表しています。また、明治31年雑誌『ホトトギス』に「不言之言」、翌年同じ雑誌『ホトトギス』に2つ「英国の文人と新聞雑誌」と「小説『エールキン』の批評」を書き、およそ1年に1つの割で論文を発表しています。その1つ「不言之言」の冒頭に「天下恥づべき事多し。道を得ずして道を得たるが如くす。最も恥ずべし。道を得て熟せず。妄(みだ)りに之を人に授く。次に恥ずべし。我既に恥ずべきものの一つを犯す。」と述べています。要するに、知ったかぶりをして、人に教える。これを恥ずべきものとし、自分もそれを犯していると言っているのです。「トリストラム・シャンデー」や「小説『エールキン』の批評」などの英文学に関する論文を書いていながら、熊本時代の漱石はさらなる精進と工夫を自己に求めているのです。正に教育者・研究者の鏡とも言えると思います。
漱石は教室では実に厳格な先生であったようで、予習をしてこなかったり、質問にいい加減にごまかそうとすると、学生を厳しく叱責したと言われています。しかし、漱石の講義は歯切れよく、実によくわかるだけでなく、非常に印象の深いものでした。漱石の教室での態度は、厳格ではあっても、温かみのあるもので、これが寺田寅彦を始め多くの人を惹きつけた理由であると思います。漱石は、明治30年10月10日の第五高等学校の開校記念にあたり祝辞を述べています。「諸子今学生たりと雖も、其一言一動は即国家の全局に影響するなり。」と、また同祝辞で「其れ教育は建国の基礎にして師弟の和熟は育英の大本たり」と言い、学生の責務と教育の理念を唱いあげました。
120年後の本日、私も皆様に申し上げたい。熊本大学の教育の理念は現在も「師弟の和熟」であり皆さんと共に学び、皆さんもこれから「いかに社会の役にたつ人間となるか」を考え行動していただきたいと。

現在の日本は、少子高齢化による人口減少、膨大な財政赤字、社会保障制度の破綻の可能性など深刻な国家的課題を抱え込んでいます。これらの問題を前に、大学は自己改革とともに幾つかの課題を突き付けられています。
幸いにして、平成25年度から26年度にかけ、熊本大学は「研究大学強化促進事業」「地(知)の拠点整備事業」「スーパーグローバル大学創生支援事業」の3つの事業に採択されました。これらの事業は、それぞれ、熊本大学が研究拠点大学として、地域に貢献する大学として、また国際化した大学として、どう大学を変えて行くかということであり、どのような人材を育成していくかが問われています。熊本大学は、多くの文化に理解を示し、国内外の様々な問題に関心を持ち、それらの問題の解決能力と自分の考えを説明する能力を備えた人材を養成することを目指します。
大学では、多くの場合、自主性を重んじた勉学が求められます。自分が学びたいと思う科目を選択する必要があります。また、問題を設定し、それを解決する方策を学び、考えるという極めて能動的な学習が求められます。このように、単に知識を受けるだけでなく、目的意識を持って能動的に「学問をする」ことが大切です。何事にも興味を持ち、あらゆる事に疑問を抱く、これが「学問をする」原動力となります。熊大スピリットを伝える言葉として、本学が掲げているコミュニケーションワード「創造する森 挑戦する炎」が意図するところはここにあります。

さあ、皆さんと一緒に学問をしましょう。そして「創造する森 挑戦する炎」を胸に新しい熊本大学を作って行こうではありませんか。

本日は、熊本大学へのご入学、誠におめでとうございます。

平成28年4月4日
熊本大学長 原田 信志

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