平成23年度熊本大学入学式 式辞
本日ここに、御来賓各位の御臨席を賜り、理事、副学長、部局長、役員、教職員と共に一同に集い、熊本大学第63回入学式を執り行うことができますことは、大変喜ばしく思います。学部学生、編入生合わせて1886名、特別支援教育特別専攻科学生22名、養護教諭特別別科学生46名、大学院学生769名、総勢2723名の若き希望に満ちた皆様の一人一人を心から歓迎いたします。この中には16カ国に及ぶ国々からの留学生、67名が含まれています。ようこそ熊本大学へ(Welcome to Kumamoto University)。
入学を果たされた皆様のこれまでの日頃の研鑽と努力に敬意を表します。また、その志を支えてくださった、保護者の方々、ご家族、ご友人、ご指導いただいた先生方など、数多くの方々がおられると思います。ここに、ご支援いただいた方々に深く感謝しつつ、支援者の皆様にも心よりお慶び申し上げます。
重ねて、新入生の皆様、入学おめでとうございます!
今年度は、去る3月11日の東北・太平洋沖地震にともなう、未曾有の東日本大震災の中で、入学式どころではなく、中止や延期を余儀なくされている大学も数多くあります。本学が、本日、入学式を執り行えますことを幸いに思います。被災された方々に対して心からのお見舞いを申し上げるとともに、残念ながら犠牲になられた方に対し、衷心より哀悼の意を表します。
また、被災地にあって、今もご苦労されている数多くの方々に対して、長期的な視野の中で、私共は、新しい仲間の新入生とともに心を一つにして、これからの被災地域の復旧や復興に向けて、できる限りのご支援をさせていただくことを申し上げたいと思います。「がんばろう!日本」のかけ声のもと、困難に立ち向かっておられる方々に心からのエールを送り、共に難局に立ち向かいたいと思います。
○熊本大学の歴史と概要
さて、本学は、肥後細川藩が250年余り前に設置した、日本初の医療施設である再春館・医学校や薬用植物園としての蕃滋園に源を有する熊本医科大学や熊本薬学専門学校に加えて、夏目漱石、ラフカディオ・ハーン等の教授陣を有し、二人の首相や寺田寅彦をはじめ数多くの偉人を輩出した第五高等学校の他、熊本師範学校、熊本青年師範学校、熊本工業専門学校等を前身として1949年(昭和24年)に我が国の学制改革によって、新制熊本大学となったものでございます。
現在では、7つの学部とそれに対応する大学院、その他に附属病院、附属図書館、附属学校・園、さらに研究所、教育、研究センターなど、15余の施設を持ち、約1万2千人の学生・生徒と二千人の教職員を擁する我が国を代表する総合大学となっています。我が国有数の長い歴史と伝統を持つ大学であることは既に周知の通りでございます。今日まで10万人を超える有為の人財を社会に送り出してまいりました。
○熊本大学の理念と目標
もとより、今日の大学の社会的使命は、教育、研究、社会貢献の3点に集約されます。本学では、世界を先導する教育研究を進め、その成果をもって社会に貢献するべく、文化、科学技術、医療、教育などの発展のために、日々努力しております。
昨年度からはじまった国立大学の法人化第二期の中期目標計画期間において、本学は「我が国を代表する研究拠点大学」としての役割を果たすことを社会に対してお約束しているところです。また、そのために、「アジア諸国はもとより広く海外の諸大学等との人的・文化的交流を通じて、教育・研究の国際性を高め、大学院教育においては、国際社会のリーダーとして活躍できる先導的研究者及び高度専門職業人を養成する」ことを、また、「学部教育においては、その基礎としての幅広い教養を持ち高度な課題解決能力を有する人材を育成する」ことを掲げ、「教育・研究活動の成果を活用して、広く地域及び国際社会に貢献する」ことをお約束しています。
ここで、本学の理念・目標に関連して、教育、研究、社会貢献、国際化の4つの取り組みについて少し紹介いたします。
第一に、本学は、学生諸君が、社会の担い手として貢献し、また、自らの豊かな将来を設計するために、知識や技術を活用して行動できる力を獲得するための教育を実施して参ります。
学部新入生の皆様には、次世代社会を担える人財として育っていただくために研鑽を重ねていただきたいと思います。しっかりと教養科目を学び、読書をし、さらに、サークル活動やボランティア活動など、課外活動においても多くを学んでいただきたいと思います。自らの行動、活動の中で「自らの生き方の規範」としての自己形成に努力いただきたいと思います。今年度から、「学長講義」として新入生の全ての皆様と直接話をする時間を創りました。新入生の皆様には4月から7月までの間に、伝統漂う五高の化学実験場の階段教室で、改めてお目にかかります。この講義室は、かつて日本の近代化を担った人々が学んだ場所でもあります。
第二に、研究面においては、様々な特色ある研究を推進し、世界のトップを走り続けたいと考えています。
本学は、例えば、発生医学分野では、発生医学研究所が我が国の全国共同利用・共同研究拠点機関としての役割を担っています。この発生医学分野に加えて、エイズ学等の感染症分野、それにパルスパワー・衝撃エネルギー科学分野などは、グローバルCOEと呼ばれる世界を先導する世界的な教育研究拠点となっています。さらに、遺伝子改変マウス、環境に優しい
KUMADAI
マグネシウム合金等の分野では、本学が中心になった国際的な研究ネットワークが形成されています。水環境に関する世界トップレベルの研究成果を基盤として、アジア・アフリカ諸国の水環境をマネージメントできるリーダー人財の育成にも寄与しています。また、文学部には附属の「永青文庫研究センター」が設置され、世界的価値を有する細川家に伝わる貴重な史資料に関する研究が進められています。他にも枚挙に暇が無い程の数多くの分野で我が国をリードする特色ある研究を実施しています。
特に、研究に多くの時間を割かれる大学院に入学される皆様には、世界を先導する仕事をしていただきたいと思います。今般の大震災の中で、今も原子力発電所の問題が国民の皆様の大きな関心事です。人文社会科学、自然科学、生命科学等幅広い領域にわたる多くの課題が浮き彫りになっています。これを解決してゆくのもまたサイエンスの総合力であるはずです。将来に向かって、また今、何ができるのかを真剣に考え、対応していく必要があります。大学院入学の皆様には、新しい概念、ものごとに対する新しい切り口や考え方の構築、新事実の発見やその成り立ちの解明、新しい手法や技術の開発など、我が国が世界に誇れる文化国家として成り立つように、知的・文化的・社会的な貢献を進めるための担い手になっていただきたいと思います。世界で誰もできなかったこと、誰もやらなかったことに挑戦して、新しい学術分野を創り出していただきたいと思います。
第三に、本学は、地域の知の拠点としての高い存在感を示しています。人文社会分野では、地域社会の文化的な拠点として、自然科学分野では、産業界との連携や経済活動の活性化を推進し、また、生命科学分野では、大学病院と共に地域医療や先端的な高度医療を担う役割を果たしております。昨年から、我が国の「エコチル調査」と言われる、子どもの健康に及ぼす環境の影響に関する全国調査について、本学は、今後20年にも及ぶ調査研究の南九州・沖縄地区の拠点機関としての役割も果たしています。さらに、法曹人や教員の養成など、多数の地域社会を支える人財を排出しているところです。
さらに、去る3月12日の九州新幹線全線開通や熊本市の来年度の政令指定都市を目指した取り組みを踏まえて「我が国を代表する国際都市くまもと」、また「学園都市熊本」を目指して、本学は、産業界や行政機関とも連携しながら、地域の発展のために大いに貢献しようとしています。
第四に、本学は、国際的に存在感のある大学を目指しています。世界の諸機関との交流を拡大して、「世界の熊本大学」として飛躍しようとしています。
世界はグローバル化が日々進行しています。社会構造や産業構造が大きく変化しています。価値も多様化しています。卒業後、皆様にはこのような国際社会を舞台に活躍いただかなければなりません。そのためには、皆様には日頃から国際的な視野をもつことが求められます。もちろん、キャンパス内は高度なセキュリテイー管理下での全学をカバーする無線LANが張り巡らされ、24時間、世界と繋がっています。
国際交流も活発に行っております。現在では、大学間・部局間の協定を、世界27か国、116カ所の機関と締結し、中国、韓国、インドネシア、トルコなど海外に、海外オフィスあるいは共同研究拠点等を7ヶ所構えるに至っております。
現在、本学には、約360名の留学生が在籍していますが、それをできるだけ早い時期に500人とし、将来的には、世界の先端大学の標準である10人に1人が留学生、すなわち、世界の各国から1000人の優秀な留学生が本学に来て学んでいるという状況を目指したいと思っております。
学生諸君が、国際的な環境の中で学び、卒業後、世界を舞台に活躍する際に、多くの学友が世界の各地にいて、互いに助け合うことができる大学を目指したいと思っています。
本学は、これらの諸課題にこれからも真摯に取り組んで、我が国や世界の将来を担うリーダーとしての役割を果たそうと考えています。
私共教職員は、長い歴史、伝統と実績を有する熊本大学で、教育・研究・医療等に従事できることを誇りに思っています。新入学の皆様が今日からその一員として加わっていただいたことを大変嬉しく思っています。皆様と共に希望にあふれた輝く将来を見据えて大いに挑戦して参ります。
○新入生の皆様へ
ここで、本日の入学式にあたり、新入生の皆様には、改めて3つのことをお願いしたいと思います。
第一は、皆様は、社会の財産であるということを認識して、社会の一員として「社会の発展に貢献」して欲しいということです。
皆様の将来は、皆様自身のものであると共に社会のものでもあるということです。そのために、今日まで支援いただいた方々に恩返しすることはもとより、広く社会への恩返しを考えて欲しいと思います。
ご承知の通り、国立大学には国からの相応の経費が支援されています。国民の皆様が国立大学に投資してくださるのは、皆様が次の世代を担う社会の資産であり、社会から大きな期待をかけられているからに他なりません。したがって、皆様は、社会からの期待や負託に応えて、その責任を果たし、自らと社会の将来のために貢献することが求められます。その役割を果たすための能力を大学生活の中で充分に養うことに尽力していただきたいと思います。そのために求められるのが次のお願いです。
第二は、持続的な努力で「知恵と創造力」を磨いて欲しいということです。
今日の知識基盤社会において、人財として社会の期待に応えるためには、「深い教養とそれぞれの高度な専門力を基礎として、社会の諸課題を発見し解決するための能力」を身につけることが求められます。我が国は天然資源に乏しい国ですので、人が貴重な資源であり財産です。したがって、一人一人の持続的な努力によって、「知恵や創造力」を磨くことで、諸課題を克服していく以外には輝く未来を築き上げる方法がありません。今般の未曾有の大震災も国民の力を結集して「知恵と創造力」で乗り切り、我が国の力を世界に示したいものです。有限の天然資源ではなく、不断の努力で培った知恵と無限の可能性をもった創造力で、新しい社会を創りだす担い手になって欲しいと思います。
そして知恵や創造力が生み出した成果を国際社会に示さなければなりません。そのために次のお願いです。
第三には、国際社会の中で充分な理解を得るための「コミュニケーション力」を身につけて欲しいということです。
国際社会においては、自分の考え・意見や夢を表現し語ることができることが極めて重要です。また、世界的な視野に立った主張が求められます。そのためには、同じ考えをもつ仲間はもとより、異なる世代と、また立場や価値を異にする人々等とも協力して必要な事柄を成し遂げるためのコミュニケーション力を磨くことが必要になります。語学力はもとより、人間力を含めた総合力としての表現力を磨くことが求められています。本学が国際化に取り組むのは、学生諸君がこの力を身につける一助としたいからでもあります。関連して、本学には、留学生支援と共に、日本人学生の海外活動のための支援制度などもあります。海外経験は、我が国を理解し、また世界を理解して自らの視野を広めるために大いに役立ちます。
これらのことを念頭に置いて大学生活を過ごされ、必要な情報を集め、獲得した知識や技術を基本として、ものごとを多面的に、かつ深く考え判断して行動できる人財として大きく育って欲しいと思います。
○新入生の皆様へのエール
この度の大震災の中で、日本や日本人の底力やすばらしさを数々見てきたところです。日々報道される被災地域の皆様や支援者の方々の努力、原子力発電所の事故に立ち向かう人々などの活動は、私たちに勇気と希望を与えてくれます。私たちは被災地の方々からむしろ元気をいただいています。新入生の皆様には、被災地の皆様に恥ずかしくないように、いかなる困難にも怯むことなく、自らの夢の実現に向けて大いに挑戦していただきたい。それが、被災地域の皆様へのエールにもなり、復興への支援にも繋がると考えています。萎縮することなく、未来を信じて挑戦しようではありませんか。21世紀は、皆様が創る時代です。それぞれの立場でその任を果たすことで、あきらめない日本の力を世界に示そうではありませんか。今こそ皆様の力が必要な時です。皆様は、しっかりと将来を見据えて、社会に貢献できる充分な力を蓄えて欲しいと思います。
高い志をもって何事にも挑戦し、日々の積み重ねを怠らなければ、能力や結果は後からついてくるはずです。皆様の将来には無限の可能性があることを忘れないでいただきたいと思います。新入生の皆様の無限の力を信じています。
○まとめに
新入生の皆様には、熊本大学の学生として「誇り」をもって、また、今日の希望に満ちた高い志をいつまでも持続されて、個性豊かな学生生活を送られることを期待しています。また、市民の皆様からは「熊大生」として、畏敬の念をもって迎えられ、「憧れの存在」であるように心がけていただきたいと思います。留学生の皆様には、学ぼうとされるそれぞれの分野の学術を極めていただくと共に、日本語や熊本そして日本の良い面を学んでいただき、「我が国を代表する国際都市くまもと」を母国に紹介していただきたいと思います。母国と日本の架け橋になってください。
本学は、在学生、卒業生、教職員、そして市民の皆様が「誇れる」大学であり、さらに、社会の「憧れの」大学として、また、「地域に根ざしてグローバルに展開する」世界の熊本大学としての存在感を確立するために、皆様と一緒に磨きをかけたいと思います。
皆様一人一人が、卒業のとき、心の底から熊本大学に来て良かったと思えるように、社会の皆様から「何か持ってる」と言っていただけるように、また、皆様自身がしっかりと「持ってる」ということが言えるように、そして、その「何か」の中に「熊本大学の誇り」がしっかりと形づくられていることを期待しています。
最後に、教職員一同、新入生の皆様の輝かしい未来を共に創っていくことを重ねてお約束して、新入学の皆様及び支援者の皆様へのお祝いの式辞といたします。
平成23年4月4日
熊本大学長 谷口 功
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