平成19年度入学式式辞

熊本大学長 崎元達郎 本日ここに、副学長、理事、部局長、教職員各位と共に一同に集い、熊本大学第59回入学式を執り行うことができますことは、本学にとりまして大変喜ばしいことであります。大学院学生および諸外国からの留学生を加え、総勢2,808名の若き血潮みなぎる皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。また、入学を果たされた皆さんの研鑽と努力に敬意を表し、その志を支えてくださった親御さんや先生方に深く感謝しつつ、心よりお慶び申し上げます。入学おめでとう。

本学は、肥後細川藩が250年前に設置した、日本初の医療施設、再春館や番滋園に源を有する医科大学、薬学専門学校、夏目漱石、ラフカディオ・ハーン等の教授陣を有し、二人の首相はじめ多くの偉人を輩出した第五高等学校の他、師範学校、工業専門学校をそれぞれの前身とする七つの学部と対応する大学院から構成されています。本学は、これらの7学部・大学院と附属病院、附属図書館、そして十五余の教育研究センターと施設に約一万二千人の学生・生徒と二千人の教職員を擁する西日本有数の総合大学であり、その前身から数えると250年の永きにわたり、日本の文化、科学技術、医療、教育の発展に貢献してきました。

私ども教職員は、このような伝統と実績を有する熊本大学で教育・研究・医療に従事できることを誇りに思っていますが、皆さんも、熊本大学で教育を受け、研究ができることを、是非、誇りに思い胸を張っていただきたいと思います。

今、諸君は意気揚々と高ぶる気持ちを抑えきれずにいると思いますが、何のために大学・大学院に入学してきたのでしょうか?「勉強をして、良い会社に就職するため」等という答えでは不十分です。変化の激しい社会は、皆さんに何も約束してくれません。良い会社に就職できたとしても、皆さんの給料どころか会社の存続さえ約束されないからです。何のために大学・大学院に入学して来たのか?その答えを、もう一度原点に戻って「幸せに生きるための力を養いに来た」と考えてみましょう。「夢や志を実現する力を養うため」という答えも、正しく望ましいものでありますが、なぜそれが「幸せ」につながるかを考えてみましょう。「幸せ」とは、物質的、精神的欲求を満足させて心が満ち足りていること。

今、何も持たない皆さんが幸せになる為に獲得し得る力は何であるかを考えてみると、それは、「価値を創りだす力」ではないかと思うのです。ここでは、「価値」の厳密な定義はしませんが、経済的価値等を生み出す物的価値がとり立てられますが、心の豊かさに関係する精神的価値も同等以上に重要であることだけ申し上げておきます。さて、「価値を創りだす力」がなぜ「幸せを得る力」になるかというと、皆さん自身が「価値」があると考える夢や志を実現することにより、まず、自らの心の満足につながる喜びや達成感を得ることができます。そして、夢や志の実現という形で諸君が造り出した「価値」が、他の人、または、社会に評価されれば、心の満足につながる感謝、賞賛、名誉、愛情等を得ることができますし、さらに、富や地位等の報酬を得ることもできるからです。

したがって、私の申し上げたいことは、幸せに生きるためには、「価値」を創りだす力を養うことが重要であるということです。

さて、価値を創りだす力を養うためには、必ずしも大学に入る必要はないのですが、大学においては次の2つの能力を養うことが重要です。それは、「価値を判断する能力」と「専門家として創造的に考える能力」であります。

次に、どうすればそれが得られるかについて申し上げます。

「価値」を判断する能力は、自然、人間、社会に関する知としての教養を学び、豊かな文化を育むために何をなすべきか、人々や社会は何を求めているのか、人間環境や国際社会は、如何にあるべきか等について思索を深めて、自然観、人間観、世界観など、価値観の基礎を形造ることにより得られます。また、「学び」や「思索」は、経験によって確認され、動機が強化されますので、社会人になったら得難い、自由な時間を使って、遊ぶこと、サークル活動やボランティア等の課外活動をすること、在学中に必ず一度は海外に出ること等を実現してください。何でも見てやろう、何でもしてやろうという積極的な気持ちで勉学以外の活動をも精一杯行うことで「人間力」、すなわち、コミュニケーション力、忍耐力、リーダーシップ等を養うこともできるのです。

次に、「専門家として創造的に考える能力」は、皆さんが選択した専門毎に、専門科目を学び、知を継承すること、研究を自ら行うこと等により養われます。

さて、ここまでの話を、理屈として理解していただいたとしても、必ずしも行動に結びつけられない人もおられるでしょう。勉学は、努め、苦しむものですから、興味や意欲がなければ、容易ではありません。努力が継続できるためには、持続できる強い原動力が必要です。持続できる強い原動力を得るための良い方法は、多くの人がそう考えたように、自分の好きなこと、やりたいことを、実現したい夢や志につなげることです。自分の好きなことをして、夢や志を実現する過程で、価値を創り出し、結果として、幸せ、心の満足を得られることが最善と考えられるからです。

自分の好きなことが、知的好奇心を満足させることであったり、モノやコトを創りだすことであったり、実現したい夢や志が、愛する人や社会を幸せにすることであれば、新しいことを知り得た喜び、創りだす喜び、人々の感謝、称賛、愛を得ることができ、それらが、次の新たな努力や活動を生む原動力になるという持続可能なサイクルを成立させることが最もすばらしい形と考えられるからです。

熊本大学は、先進的研究、基礎的研究、高度先進医療により、世界に存在感を示すと共に、真理の探究、新たな価値を造り出す研究を皆さんと共に行いながら、あるいは、その成果に基づいた質の高い世界水準の教育、価値を創りだす力を養う教育を行い、皆さんの勉学と人間力を養うための活動を支援いたします。

皆さんが、合格発表の受験番号を見た時の気持ちや初心を忘れず、夢や志を高く持ち続け、持続し得る原動力を獲得し、毎日に全力投入して行動し、夢や志を実現する力、「価値」を創りだす力、すなわち、自らと愛する人々の幸せ、そして、社会の幸せを築く力を獲得されんことを願って式辞とします。

平成19年4月4日
国立大学法人熊本大学長

崎元達郎




入学者宣誓を読み上げる西村知晃さん(薬学部) 入学式会場の外では先輩たちがサークル勧誘
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